episode3 初収穫

 5月になり、北海道の春をようやく感じる様になった頃、窓から顔を覗かせて考える。


 いつになったら美女と付き合えるのだろうか。


 街コンに行き始めてから1ヶ月が経った。

 だが、未だ何の成果もあげられていない。

 なので、美女と付き合うどころか、出会ってすらもいない。


 街コンに対しても何の戦略も思いつかない。

 これは、とりあえず経験を積むしかないと思った。


 壱はまた、街コンに行ってみる事にした。


 今回は1人で参加してみることにしたのだ。

 今までは康平と一緒に行っていたのだが、どことなく康平の動きが気になってしまっていたのだ。


 特にタバコを吸いたがるところなんかは、困っていたのだ。

 口を開けばタバコ、酒があればタバコ。


 なので、今回は1人で行き、どれくらい街コンで戦えるのかを知りたかったのだ。

 どの街コンに参加するか悩んだ末、前日になって申し込んだ。申し込みが終え、明日に備えて早めに寝ることにした。

 そして、当日をの朝を迎える。16時からの開催だったので、午前中は、ゴロゴロしながら過ごし、少しでも運気を上げる為に、家の掃除をする。特に、水回りは念入りに掃除した。

 午後になり、準備を始め、家を出る。電車で街まで行くのだが、この間に今日の街コンのイメトレをしておく。


 街に到着する。早速会場に向かう。

 壱は、これで3回目の街コン参加になる。

 最初は街コン会場に入るだけでも心臓の鼓動が早くなっていたのだが、随分落ち着いたものだ。


 胸を張って会場に入る。


 入ると誰もいなかった。

 そう、壱は張り切り過ぎて開始30分前、受付が始まるのと同時に着いてしまったのだ。


 その為、1人で席に着く。


「今日はプロフィールシート使うので、書きながらお待ちください。」


 なんと、今日もプロフィールシートを使うのか。

 まぁ時間を持て余していたから丁度いい。


 好きな物を書く欄がまたあったので、凝りもせず〝柿の種〟〝少女漫画〟と書く。今回はこれがしっかり活用される事を願って。


 その他のマイブームやおすすめの店などはテキトーに書く。


 熱心に書いていると、気づけば続々人が集まって来ている。

 壱は近くに座った人に軽く挨拶をする。

 壱よりも年齢が上だと思ったので、年齢を聞くと28歳との事だ。

 ちょっと離れ過ぎている。街コンでは。男同同士の出会いもあるのだが、年齢が離れていると中々そうもいかない。


 だが、着席型の街コンでは、運命共同体なのだ。2人1組で席を移動していくので、彼とはずっと一緒に行動する事になる。

 そんな事を思っているといつのまにか開始の時間となった。


 まずは、大学生の2人組である。学校に出会いはあるのだが、社会経験で来たとの事だ。参加する理由は人それぞれだが、冷やかしか。この2組はないなと、壱は決めつけてしまった。

 とりあえず、当たり障りのない、お互いの情報交換などをして、食べ物を取りにいく。

 この街コンでは、食べ物を自分達で取りにいくシステムであった。

 唐揚げやサラダ、ポテトなどがあり、全員で取りに行くので、会話する時間がそれだけで少なくなってしまうのだ。

 席に戻り、食べ始める。この街コンで大変なのは、男が席移動するので、皿と箸などを持っていく。その為、せっかくみんなで取ってきた食べ物は置いてく事になるので、今のうちに食べておくのがいいのだ。

 なので、食べる事に集中していると、時間になってしまい、席移動の時間になった。


 次の席では、ぽっちゃり系の2人組であった。壱は、ぽっちゃり系は苦手であり、落ち込んでいた。

 早く時間よ過ぎてくれ、そんな事を願いながらじっと耐えている。気づくと、自己紹介以外何も話さず終えたのだ。28歳の彼が頑張ってくれていたのでなんとか持ちこたえた。


「なんで急に口数少なくなったの?」

 そんな事を急に聞かれたが、察してくれ、そう思った。

 しかし、28歳の彼が連絡先交換しようと言い始めたので、全く会話してない壱も交換する流れになってしまった。



 席移動して3組目は、お互い1人参加ずつであった。年齢も24歳と25歳で近いので、意気投合してるようだ。

 すると女の子同士での話に華が咲いた。昔やってたスポーツが一緒とか、友達に同じ高校出身の人がいるとか。そんな話で盛り上がり、男2人は置き去りにされる。

 ただ、それも壱の実力不足である。壱に女の子を楽しませるテクニックがあれば、この状況を打破できただろう。

 その後に、少し話題に乗っかるが、これといって手応えなし。そのまま、時間になる。



 その後、3席移動するが、またもや手応えはない。

 後、一回席移動したら、終わり。今回は何も収穫なしか、そう思っていた。


 最後の席の女の子2人は21歳で高校時代からの友人らしく、出会いが最近なく来てみたとの事だ。壱は、2人のうちの1人の子、150㎝半ばの小柄な女の子の事が気になった。

 彼女の名は樋山愛菜ひやまあいな札幌に住む女の子であった。笑顔が可愛らしく、人懐っこい子であった。壱は、なんとかして仲良くなりたいと思った。

 壱は、ふと手元を見た。手には、1枚のゴミが握り締められていた。いや、ゴミではない!プロフィールシートだ。プロフィールはポテトの油やお酒のグラスの結露により、ぐしゃぐしゃになっていたので、ゴミと勘違いしたのだ。



 そうだ!こういう、時こそプロフィールシートの内容から話題を作るべきだ。そう思った。

 愛菜のプロフィールシートの好きな物の欄に唐揚げと書いてあった。今日の街コンの食べ物の中にも唐揚げがあったので、それを使おうと思ったのだ。


「愛菜ちゃん唐揚げ好きなんだね。」と久し振りに壱から質問をしたのだ。「好きですよ。今日も唐揚げあったので沢山食べちゃいました。」笑顔で返してくれる。「食べたりなかったら持って帰りなよ。」少しふざけてみる。「食べ過ぎたら太るので。」真面目な返答がきた。「全然痩せてるから大丈夫だよ。唐揚げも愛菜ちゃんに持って帰って欲しそうな顔してるよ」また、ふざけてみる。「なにそれ、唐揚げの顔ってどこですか?」と笑いながら話してくれている。今のところは順調に進んでいる。

 その後は、壱が柿の種のくだりをいじられ、柿の種食べるだけで、銘柄当てられるよと、よくわからない自慢を繰り広げたりしながら、時間を迎える。

 当然ながら、連絡先を交換した。


 今までの街コンの中でも精一杯頑張った。今度飲みにとか誘ってみようと思った。しかし、プロフィールシートに助けられた部分は大きかった。壱はぐちゃぐちゃになったプロフィールシートに感謝しながら街コンの会場を後にした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る