episode2 ただの人

 沢山の女の子と遊んで、女の子を楽しませれる男になろうと決意した壱であったが、具体的にどうすればいいか、わからないでいた。





 今まで、学生であれば、出会いは学校などに沢山あったからだ。


 なので思いつくのは街コンしかなかったのだ。


 壱は再び街コンに行くことにした。

 1人で行く勇気がなかった壱は前回街コンで知り合った田山康平をメールで誘ってみた。



「康平さん、週末街コン一緒に行きませんか?」

「いいよ!行こう。行こう。」


 結構ノリノリで返事が来た。



 四月某日、春だが、北海道の四月は寒さが厳しい。


 やや肌寒く、震える頃

 当日を迎える


 街コン開始時刻は19時で、少し前くらいに康平と待ち合わせをして、話しをする。



「康平さん、前回の街コンどうでした?」

「いやー全然ダメだったね。メール送っても返事が続かないんだよね。」


「でも、男のライバルもかなり多いですからね、人気の女の子なんかは、他の男からもアプローチされてると思うし」

「やっぱそうだよね」


「なんで、もっとモテる男にならないとダメです ね」

「大丈夫、大丈夫、そのうちいい人見つかる」


 康平は楽観的である。



 話しをしていると会場に到着する。

 今回の街コンは、以前参加したタイプとは違っており、3分の時間で一対一で会話をしていき、時間が終わると次の席に移動していくタイプの街コンであった。



 康平はそのスタイルの街コンを見て一言


「これじゃタバコが吸えないじゃないか!」


 いや、街コン会場では、大抵吸えないだろう。

 そんなに吸いたければ、喫煙所を彼女にしたらいい。

 心の中でそう思った。


 その後、スタッフに案内される2人

 席に着くとプロフィールシートを渡された。


「このシートは会話する時に相手に見せて使うので、開始までに書いておいて下さい」


 そう言われて書き始める。

 ちなみにプロフィールシートには、出身地、オススメの店、好きな物、趣味などを書く欄がある。


 壱は好きな物の欄に〝柿の種〟 〝少女漫画〟と書いた。


 壱は柿の種と少女漫画が好きで、おじさんと女子高生が合わさったような不思議な妖精であった。



 そして、全て書き終えると時間になって街コンがスタートする。


 持ち時間は3分

 いきなりスタートして、何を聞いたらいいか戸惑った。


 ふと思い出した。

 プロフィールシートの存在を



 壱はパニックになると3分前の事も平気で忘れてしまう記憶パニックという特殊能力を持っていた。



 なんとか思い出したのでプロフィールシートを片手に話しを進める。

 無難に出身や趣味などの話しをしてるうちに時間が来てしまう。


 3分なんてあっという間である。


 流れるように次の席へ移動する。

 次の人の時に何話そうか考える暇もない。


 そうこうしてるうちに、出身や趣味、年齢などを聞いて終わり。


 こんなのを何席も繰り返した。

 壱は思った。

 最初によろしくお願いします。と挨拶する時間があるなら、オススメのシメパフェが食べれる店を教えてあげた方が盛り上がるのではないかと


 しかし、そんな余裕はない。

 なぜなら壱は女の子を楽しませる事も出来ないただの人だからである。


 そのただの人を脱却するためにここに来たはずなのに‥‥‥‥

 3分という時間に迫られ、1人で慌てている。



 ふと隣を見ると康平はやけに落ち着いている。


 まるで、喫煙所でタバコをふかしてるかのように。

 壱には、康平が話す時に出る身振りの指先にタバコがあるかのように見えた。


 だが、それは本当に錯覚であった。



 そして、その後も何席か回るが、全く思うように行かずに終えた。



 だが、まだチャンスはあった。


「では、これからフリータイムです」


 そう、フリータイムだ。

 フリータイムでは、好きに動けて、好きな人のところに行けるのだ。


 よし、頑張ろうと意気込んだ。


 だが、そんなに上手くいく訳はない事をいうまでもない。


 なぜならただの人の壱が、数多くの男のライバルの中から勝ち抜くことなんて不可能だからだ。


 ましてや壱は美女と付き合うために、活動してるようなものであるため、少しでも可愛い子と話して、連絡先交換して遊びたいのだ。


 しかし、その街コンの中で1番可愛い子は人気なので、競争率が激しい。


 あえなく、壱はそこからもれてしまった。

 ふと1番可愛い子と楽しく話せてる男はどんなやつかを確認してみた。




 すると、見覚えのある顔が見えた。

 かなりの長身だ。

 そう、四天玉三郎であった。


 前回の街コンで成果を上げていた彼だ!

 これは、負けたと思い、他の女の子に話しかける。



「こんばんは〜」

「あ、少女漫画の人だ」


 なんと少女漫画のインパクトが残っていたようであり、意外と好感触である。

 彼女の名前はえ み


 そこから10分ほど漫画の話しを中心にする。

 相手の子も少女漫画が好きなようで意気投合してきた。

 その流れで連絡先を聞くことに成功した。


 前回の街コンとは違い、自分の力で勝ち取った感じがした。

 そして、連絡先交換後、すぐに

「お時間になったのでこれで終了とします。参加ありがとうございました。」

 アナウンスがされる。


 壱は康平の元に駆け寄ってみる。

 康平も1人の女の子と仲良くなったらしく、連絡先を交換していたのだ。


 するとまさかのその女の子は絵美と一緒に来てた子であった。


 まさか友達同士の子とお互い仲良くなっていた事に気づく。


 絵美も友達も驚いていると

「え、凄い偶然だね!このまま4人で飲みに行こうよ」


 康平がいきなり言う。

 女の子2人はどうする?と悩み始めたが、行くと返事をくれた。


 この時壱は初めて康平を尊敬した。


 そのまま街コン会場を後にして、歩き出す4人

 そして、普通の居酒屋に着いて飲み始める。



 4人は今回の街コンの事などを話し始める。

「今日の街コンは時間短くて全然話せないよね」

「本当に!フリータイムなかったら、もう終わってたよね笑」

「俺は飲み物とかあればと期待したんだけどな〜」

「少しくらい欲しかったよね」

 意外と盛り上がっているではないか。


 人は何か悪いところや嫌いなものなどを話す時の方が盛り上がりやすい生き物なのである。



 盛り上がっている時間はあっという間に終わってしまう。


 時刻は22時である。


 そんな事はお構いなしに、「二次会行こうー」


 康平が大きな声で言う。

 女の子2人は意外と乗り気である。


「よし、なら早く行こう」

 今日の康平は生き生きしている。


 3人は康平の後をついて行く。


 まさか康平はいい店を知ってるのではないか?

 自信ありげに二次会誘うのだから。


 壱は期待していたのだ。



 スタスタスタスタスタ


 ピタッ!!


 康平が足を止める。

 どんな素敵な店に着いたのかと横を向く。


 すると


 カラオケーーーーーーー!!!!!


 なんと驚いたのだ。

 26歳になる男が二次会でカラオケを選択したのだ。


 まさかの展開である。

 壱は衝撃を隠せなかったが、ここまで来たからには行くしかない。


 康平が歌う。J POPを

 康平が歌う。K POPを

 康平が歌う。演歌を


 演歌が思ったより、似合っていた。


 女の子も壱も歌う。


 気づけば23時30分である。

 もう終電がせまっているので、とりあえず店を出る事にした。

 康平と絵美の友達は家が近くそのまま帰っていく。


 壱と絵美は電車を使わないといけない場所に住んでいたので、タクシーに乗り込み駅まで向かう。


 ここで、この後2人でどこか行くことを打診出来れば良かったのだが、そんな事はもちろんできずに、いい子ちゃんで終わったのだった。


 なによりも驚いたのは康平の二次会がカラオケだった事だ。

 しかし、壱はなにも言えない。

 二次会に良さげな店なんて知らないからである。


 そして、同じ街コンにいた四天玉三郎にまた、連絡してみると、その日のうちに女の子をホテルまで連れて行った事を知る。


 悔しさがこみ上げて来た。

 だが、この悔しさが力に変わると言う事を壱はまだ、知るよしもなかった。

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