第三十九話 元引きこもりと女の墓場
目が覚めたら薄暗い部屋の中だった。
散乱する物品に……ブラジャー、パンティ、ストッキング。
充満する煙草と酒の匂い……思い出したくもない、ここは――
「目ぇ覚めたかよ?」
「お寝坊しゃんやなあ」
「げ……」
背中の方からそんな声がして、俺は反射的に飛び出そうとして――できなかった。
椅子に縛り付けられてるんですけど!
「逃げようたって無駄だぜ? 半年もコソコソコソコソ隠れやがってよぉ? そう簡単に足洗えるとでも思ってんのかぁ? あァん?」
がっちりと椅子に固定されて動けない俺の目の前に、二人の女性が姿を現した。
右には長袖をだらっと垂らした乱ぼ――ワイルドな美人。
左には清楚な白いワンピースをきちんと着こなしたたおやかな美人だ。
「いや逃げ隠れしてたわけじゃないんですよ!」
「お姉しゃんたちがあげん可愛がっちゃったんに、悪か子やなあ……」
博多弁のたおやか美人――
「ああ、まったくだぜ御伽。こんな美女ばっかりのサークルから逃げ出すなんて、八咫野てめぇ……ほんとにチ○ポついてんのかぁ?」
「美女って自称するならチン○とか言うなよ!!」
「オレが美女じゃねえってのか!?」
「めんどくさいなあ! もう!」
癖毛を跳ねさせたワイルド美人
「あだだだだだだ!!」
「お仕置きだぜ!」
痛いけど顔面に先輩の巨乳が押し付けられてなんだか嬉し――くない! 全然嬉しくない!
「テレシアちゃんが見つけてくれてよかったわぁ」
「……貴重な男手ですから」
またもや俺の真後ろから声がした。これは……テレシアだ。
「お、お前! 騙し討ちなんてずるいぞ!」
「あんたに言われたくないわよ。行先も告げずにどっかに逃げちゃうなんて……」
「俺の行方なんて知ってどうするんだよ」
「……別に」
途端に歯切れが悪くなるテレシアだった。表情を伺おうにもずっと背後にいるので顔が見えない。
「……相変わらずバカだなお前」
「……半年経ったっちゃ唐変木は治らんね」
「な、なんですか二人して……」
なぜか沙汰島先輩も与太島先輩も呆れ顔だった。なんで?
「ちゅうか、もう逃げられんごとしぇなね」
「あぁ……御伽、アレ頼むわ」
「はーい」
沙汰島先輩がジーンズの尻ポケットからスマホを取り出し、与太島先輩がなぜか俺のすぐ隣に来て身をかがめた。
「チュッ♡」
「!?」
カシャッ!
与太島先輩が俺の頬にキスをしたその瞬間、沙汰島先輩のスマホからシャッター音がした。
「な、なんですか!?」
何が起きたのかわからない俺をよそに、与太島先輩は俺の後ろにいるであろうテレシアにウィンクした。
「テレシアちゃん、ごめんな♡」
「……別にいいですけど?」
「ど、どういうことだよテレシア?」
「うっさい黙れ。鼻の下伸ばしちゃってこの変態」
「なんで俺が怒られなきゃいけないの!?」
理不尽すぎる。けどなんで先輩のキスなんかをスマホで撮る必要があるんだ?
「八咫野、お前確か四季山夏南って女と幼馴染だったよな?」
「……? はい、そうですけど」
夏南がどうかしたのだろうか? はっ!? まさか俺をサークルから逃げ出させないように夏南を人質にとるつもりなのか!?
「夏南を人質に取ろうって言うんなら逆効果ですよ!? あいつは先輩方に扱えるような人間じゃない、猛獣ですから!」
「そんな猛獣にこの写真を見せたら、お前、どうなっちまうんだろうなぁ?」
「俺が悪かったですもう二度と逃げません許してくださいお願いします」
人質に取られてるのは俺の方だった。
こうして、俺のささやかな抵抗は幕を閉じたのであった。
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