第26話④六道文と六尺(りくせき)の孤と鬼が住む縣

ミラが持っていた銃は最新式で、回転式を使う軍ですらまだ正式採用がなされていないような、一九型と呼ばれる本当に珍しい反動利用式の自動拳銃だった。


詳しい作動機構は知らないけど、短距離装填式と呼ばれるもので、回転式拳銃より高い威力と速射性があるという。


とてもじゃないけど、そんなものはその辺の小娘が持っていいものじゃない。しかも、狙撃する際に僅かながら黒い靄が見えた。それは魔法を使った証だが、出る靄の少なさは魔法の運用の効率の良さ=腕の良さとなる。


こいつ、そんな銃を持っていて魔法も上手いとなると、単なる良家の出ってわけじゃなさそうだ。


「それで、その生かしているチンピラはどうするんだよ? 簀巻きにでもして、拷問するか?」


「まあ、情報が聞けなければ、そう言うことになってしまいますが。別に聞き出せなければ、それはそれで構いませんよ。こいつを始末した後、所持品なりから、目的地を調べ上げるだけですから」


「ひっ!」


さて、俺もあまり酷いことはしたくない。怯える男がその命が尽きる前に、情報を吐いてくれるのを祈るばかりだな。



この街にある真新しい高層建築物。鉄筋で出来たそこには、各社の営業所が集まるっているのだが、ある一室に居るのは、そんな営業社員には似つかわしくない荒い言葉使いの男たちだ。


「くそ、あの歯抜けの間抜けは、集金どころか戻って来ることもまともに出来ないのかよ。昼過ぎても戻ってこないとは、随分と優雅に昼飯を取っているじゃねえか。なあ」


「はあ……」


大声で部下に愚痴を言っているのは、おそらく金庫番だろう。それに頷く禿た側近は、懐に拳銃と短剣をおそらく携えている。


その他にも、十数人いるチンピラどもは、どいつもこいつも武装していて物々しいことだ。ただ、どいつもこいつも大した戦力ではなさそうだ。金庫番以外は、ただのチンピラと言っていい。


まあ、これでだいたいわかった。観察はこのくらいで、いいか。


「てめえら、あの間抜けを探してこい。俺が奴を射撃の的にするまえに、な」


「その必要は無いですよ。彼も運が良い事に、長い休みを取ることになったのですから」


「なっ!」


隠形(気配消し)の魔法を使い気配を隠していた俺に、今さら気付いた間抜けどもが驚きざわざわと動揺してる。


「てめえ、いつからそこに居やがった?」


金庫番の側近の言葉には、動揺と僅かな恐怖心が混じっている。


「少し前からですよ。本当はしばらく黙っていようと思ったんですが、チンピラの間抜けな会話に笑いが堪えられなくなって出てきてしまいましたよ」


「てめえ、ここがどこだかわかってんのか? 無――」


軽挙に逸る禿た側近とチンピラども。ただ、それを止めたのは、驚きを未だ隠せない金庫番だった。


「まてまて、お前ら。いいか、俺がいいと言うまで黙っていろよ。動きもするな」


この金庫番、チンピラどもの止め時が凄く良い。意外とやる奴かもしれないな。


「頭、それはいったい……」


「黙れと言ったはずだ、間抜け。お前らの節穴の目じゃ分からねえだろうから説明してやる。いいか、まずはあの額の禍々しい角をみろ。そして、奴の姿かたちをみろ。わかったか? あれが件の、鬼だ」


その金庫番の発言に、驚愕するチンピラと側近。しかし、鬼を相手にしているには、少しばかり恐怖心が足らないようにみえる。


「さて、自己紹介はいらない様なので、いきなりですが本題に入らせてもらってもいいですか?」


「嫌だと言っても、喋るんだろ。だったら無駄なことはしねえ。喋ればいい」


金庫番は諦めと抵抗心を隠した表情で、俺を見据えている。


「では、お言葉に甘えさせて貰いましょう。要件というのは、簡単な事です。あなた方が持つ六道文の情報と金、その流れを全て僕に渡してもらいましょうか」


「なっ、てめえ、何言ってやがる!」


「黙れと言っただろ! 次喋ったら、てめえのその口が開けないよう、縫い付けるぞ!」


怒号が部屋に響き渡る。それで、男どもは萎縮こそ見せたが、相変わらず恐怖心が足らないように見える。


「怒鳴ってすまなかったな。間抜けぞろいを持つと、何分苦労するものでね」


「いいですよ。僕はこれでも心が広いつもりですからね。これくらいでは癇癪は起こさないですよ」


「……ところで話を戻すが、金は確かにここにはある。しかし、六道文の情報はあまりなくてね、申し訳ないがそれについては差し出せる情報は多くない」


こいつ、六道文に関する情報は出し惜しみするつもりか。平伏する素振りを見せても、抜け目ないことをする奴だ。


「それは無いでしょう。ここは六道文の心臓部だと言ってもいい。それなのに、その頭が六道文のことを知らないとは、筋が通らないでしょ」


「いやいや、何分こちらは事務方でね。上からの指示にただ従っているだけだ。なんなら、この部屋全ての書類を探って貰ってもいい。きっと大した情報は出てこないはずだ」


なるほど、普段からガサ入れに備えて情報の処理には気を付けているってことか。これは、一筋縄ではいきそうもない。


ただ、ここで引くと調査が長引くことになる。……少し、チンピラどもにチョッカイをかけてみるか。


ちょうどそこに、ほどほど情報知ってて、割りとバカそうな奴がいるしな。


「まあいいでしょう。それならまず、お金を集めて貰いましょうか。ただし、その間に重要な書類を処分されても困りますから、集めるのはただ一人、そこの禿たオジサンにやって貰いましょう」


「ああっ!」


髪が無いのに怒髪天なのが遠くから見てもわかるくらい、つるっぱげの頭の血管がビキビキと来ている。こいつは、分かり易くて助かる。


「……いいからやれ。てめえも大人なら、ガキの戯言なんざ躱す余裕を見せやがれ。それで、ガキがどれだけ浅知恵を振り絞ろうとも如何に無力なのか、教えてやれ」


そんな大人の余裕を見せる金庫番。ふん、なら大人の余裕とやらを、見せて頂こうか。

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