第25話③六道文と六尺(りくせき)の孤と鬼が住む縣

意気揚々と貧民窟を出てきたのは良いけど、まずやることといったら作戦会議だな。いきなり、頭を取にいってもいいけど、それじゃそのあと街が混乱するだけだ。


俺が紙にさらさらと文字を書きつつ、その相談相手に話をふる。


「で、ミラはどうするが良いと思う。僕としては、金庫番とか締め上げて連中の資金源から壊滅させたいんだけど」


ガチャガチャと音が鳴る五月蝿い部屋で、俺がミラに話をふる。


「別になんでもいいけどさ、ちょっと一ついいか?」


ワイワイと部屋が煩いせいで、何言ってるかわかんねえな。


「ん? なんだって?」


「だから、一つ言いたいんだけどさ! なんで作戦会議がお前の実家なんだよ! しかも、こんなガキどもまでいてさ!」


ああ、そんなことか。確かにここは俺の実家で、ミラの怒声でも全く止むことの無い母親エルフとミヤの喋りに嫌気がさすところだが、それは仕方がないだろ?


「いやだって、夕方になったから帰らないと、僕は子供ですし」


「鬼が! 何! ガキみたいな! こと! 言ってんだ!」


喧しい奴だな。どこかの犬男みたいな喋り方しやがって、聞き取りづらいだろ。


「だから、子供ですよ。僕」


「……はあ、どこのガキが闇組織を壊滅させるなんて話するんだよ。正気か疑うぜ、この状況」


「まあ、他に場所もないですし、いいじゃないですかここでも」


「ちっ、百歩譲っても場所はここでいいとしても、このガキどもはなんだんだよ」


ああ、それ。俺達が座っている机とは別の机で、楽しそうに札遊びやってる頭お花畑の連中の話か。


「一人は母親で、もう一人はたまたま遊びに来ていた、ここの領主の娘ですよ」


ミヤの奴、母親とも仲良くなりやがったせいで、俺が居なくても普通に遊びに来てやがるんだよな。まあ、俺も相手する時間が減って助かるからいいだけどよ。


「年上……、領主の娘……」


何やら衝撃を受けているようだけど、さっさと作戦決めたいところなんだよなあ。こっちも忙しいっていうのに。


「取敢えず、とっかかりとしては金庫番が居るという夜に栄える繁華街。そこでたむろっているチンピラでも締め上げますか。そこから上の奴を紹介して貰って、金庫番まで行くということで」


「なんか適当だな。もう何でもいいよ別に……、あっ!」


こいつ、さっきから驚いてばっかだな。元気良過ぎだろ。あれか、箸が転げても楽しい年ってやつか?


「お前、さっきからなに書いているのかと思えば、手紙かよ。しかも、六道文と関係ない奴への!」


あっ? 何見てんだよこいつ。


「何勝手に人の手紙覗きこんでいるんですか。止めてください」


「ばっかやろう! お前がこんな場面で、こんなところで書いているのが悪いんだろうが」


本当に騒がしい奴だな。こっちは、駄文を量産し過ぎて頭痛くなっているって言うのによ。


「仕方ないでしょう。僕は良い文章が出てこなくて、頭いっぱいなんですよ。これまでにないほど頭を悩ませていると言っていいでしょう。僕が今世に生を受けて、一番の危機と言っていいですよ」


「こっ、こいつ、六道文よりその手紙の返事の方が大変だっていうのかよ! もういい! 寝る!」


「いいですよ。会議も終わりましたし、子供はもう寝る時間です。ミヤ! もう夜も遅いですから、寝ましょう。こちらのお姉さんを、寝床まで連れて行ってあげてください」


「ハイなのです。ではミラさん。私に着いて来てください」


さすがミヤ。アホなのが偶に傷だけど、こんな風に素直なのがこいつの良い所だよな。


「この野郎! 最後はガキ扱いかよ。てめー、明日私を置いていたら承知しねえかんな!」


それに対して、この捻くれた少女はどうしたものかね。全く、ミヤの爪の垢でも煎じて飲んで欲しいもんだ。


それじゃ、邪魔ものが居なくなったところで駄文の続きでも……。


「こら、スバル君。君もおねむの時間だよ。寝る準備をして、お母さんとお布団にいきましょう♪」


……これは、俺もやぶへびだったかもしれないな。



山ぎはが少し明るくなってきたころ、眠たげなミラをたたき起こして、朝一番についた繁華街はどこものれんがしまわれ、閑々としていた。


「おい、なんでこんな時間にこんなとこ連れてくるんだよ。こんな朝方から起きてるチンピラなんかいねーだろ。ふぁあ」


「普通ならそうなんですけど、ある二つの点からこの時間帯に来たんですよ」


「ある二点?」


俺がそんな話をすると、動き出した気配が二つ。そのうち一つが走り出した。


「ええ、ついて来てください。走りながら説明します」


「お、おい」


走り出した俺を、ミラが確かに着いて来ているのを確認しながら、その動く気配を逃さないようにこちらも着いて行く。


「まず、一点。六道文がこの繁華街から集めた金を運ぶのが、各店の開店前と閉店後だということです」


「あん、どういうことだよ?」


つまりそれは、金庫番と繋がりのある集金者を捉える、絶好の機会だということだ。各店はチンピラに金を渡す必要があるが、どこも開店前から金を用意できる店ばかりじゃないという。だから2回に分けて集金しているのだが、開店前は子供の俺じゃ行くのが時間的に難しい。よって、こんな早朝となる。


まあ、こんなメンドクサイことはミラにはわざわざ説明しないけどな。


「そして、二点目。最近、僕を見張っている奴らがいるということです」


「お、おいどういうことだよ?」


「着けばわかりますよ」


そして、入り組んだ街の中、着いた先に居たのは、狙い以上の成果。集金者と尾行人の5人組であった。本来なら、集金者か金庫番への手掛かりでよかったんだが、尾行人が間抜けで助かるぜ。


「あん、てめーらなにもんだよ? ガンくれてんじゃねーぞ」


オッサンから聞いていた集金者の特徴と一致する男から、そんな間の抜けた問いかけが出てきた。そこで焦るのが、ほぼ同時に着いた尾行者だ。


軽挙な行動で、銃を引き抜いたのだから、バカとしか言いようがない。


俺が放った投擲によって、一瞬にして頭部がこの世とオサラバする羽目となる。


「「「「「「なっ!」」」」」」


俺以外の一同全てが、驚き固まる。


そこから、始動が早いのは、やはり事情に詳しい俺達の後ろからついて来ていた尾行人だ。愚かにも銃を抜き、さっきの男の二の舞になるのだから、本当に愚かとしか言いようがない。


「に、逃げろ!」


そうやって、組頭格の男が指示をだすが、遅い上に悪手だ。


俺が弾いた礫によって足をやられ、地面へ顔をうずめることになる。俺の用事としては、こいつさえいればいいだけど。残りの連中は、逃げてくれるかな?


「てめえら! 俺を助けやがれ!」


ちっ、だせえ真似をする奴だ。


そして、銃を構えようとする連中へ俺が投擲を3つする間に、鳴り響く一つの銃声音。


その音の先には、銃を構えているミラがいる。


「ふん、だせえ真似をするから、こんなことになる」


悪態をつくミラは、無表情で、誰にも感情を悟らせないようにしていた。

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