第17話④狂賢と喧々たる少女と鬼の住む縣
拝啓
私の愉快な観察対象さん
先日、あなたから送られてきた観察記録に、重大な変化が見られたようですね。
まさか、あなたみたいな失礼な鬼に、お友達が出来るとは思いませんでした。
とてもでは有りませんが、信じられませんでした。あなたの妄想だとしか思えません。
私の様な希少種であればまだ納得がいくのですが、記録によると、どうやら常人だとか。
やはり、あなたの妄想では無いのでしょうか?
私としては、そちらの方が可能性としては高いと踏んでいます。
そうでなければ、そのあなたのお友達というのは、頭にお花畑が咲いているということになります。
こちらとしては、判断材料が不足していますので、至急、詳細な記録の返信をお願いいたします。
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ふむふむ、なんというか、相変わらず失礼な娘だな。あの吸血鬼のお姫様は。
何が「あなたの妄想ではないのでしょうか?」だ。こちとら、伊達に生前から正気を疑われてきてない。
妄想と現実の見分け方なんて、とうの昔に習得済みだというのに、なんてことを言う奴だ。
とても、俺の前世を知っている奴の発言とは思えないな。
ただ、あのガキとは思えない冴え渡る頭脳は健在のようで、その予測は当たっている。
「ねえねえ、スバル。何をしているのですか?」
出やがったな、頭お花畑2号。
「勉強ですよ。僕が自室にいるときは、たいてい勉強をしています」
そんなことを言って気をそらしつつ、手紙を隠さないなとな。別に見られても困らねえけど、文通しているなんて知られるのは、気恥ずかしいものがある。
「お勉強なら、ミヤもよくやっていますよ。先生にはよくおこられるから、嫌いですけど」
「……そうですか、僕は好きですけどね。どうですか、一緒に楽しく勉強してみませんか?」
本当は勉強のじゃまだから追い払うつもりだったんだが、ミヤらしくない暗い顔をするもんだから、こんなことをいってしまった。
せっかく恵まれた環境にいるんだ、勉強を嫌いになるなんてもったいないだろう。俺が教えれば、こいつもちったー賢くなって、誰にもバカにされ――
「いやですーーーーーーー! 勉強をなんかしたくありません!」
……こいつ、人が気を使ってやれば、そんな無下にするようなこと言いやがって。
「ミヤ、君はいますごく愚かな選択をしようとしていますよ! 人からバカにされるのが嫌なのでしょ? だったら、僕と勉強して見返してやろうとは思わないのですか?」
「嫌です嫌です。お勉強は嫌いです。そんなことをしなくても見返す方法はあります。考えてきました」
あっ、こいつまたろくでも無い事思いつきやがったな。前の鬼退治みたいな、とうていやれそうもない、そんな無謀極まりない奴。
「そんな愚かな考えは即刻捨てて、僕の言うことを聞いておいた方が身のためですよ。言っておきますが、僕はそんな愚かな考えには付き合いませんよ」
「えっ、……いいです。べつにスバルなんていなくても、一人でやれますから問題ないのです」
ええ、そんなこと言っちゃうのかよ。……いや、こいつの無謀で無駄に行動的な思考をすれば、当然そうなっちゃうよな。
……はあ、仕方がねえ。こいつ一人でやらせると絶対に死ぬし、放っておくわけにもいかねえか。
「はあ、仕方がないですね。僕もミヤに付き合いますから、勉強も一緒にやりましょう」
「べつに、スバルの力なんか……」
「ミヤも一人では無謀だと思っていたのでしょ? じゃないと、僕をわざわざ誘う理由が無いですからね」
そんな俺の発言を聞いたミヤは、ぐっとこらえる顔を作った。その顔は俺の予想を裏切る表情で、なぜだか動揺していしまいそうになる。
「友達だから、誘ったのです。だから、嫌なら無理しなくていいんです」
少し、悔しそうな表情をするミヤ。
なるほど、やはりミヤは度が過ぎるほどのバカ娘だ。俺の利用価値なんて二の次で、楽しいからなんて短絡的な感情でものごとを決めることも、自分がどんな無理難題でもこなせるなんて思いあがっていることも、全てひっくるめて愚かだと言える。
ただ、もっと愚かなのは、俺かもしれない。そんなことを考える人間が居るなんて思いもしなかったなんて、なんと愚かなことだろうか。
今までの人生で、自分が利用されるだけの者だったとしても、言い訳にはならない。俺は、そんな奇特な人間がいると知っていたのに。
まあ、しかし、それはそれとして、やっぱり勉強の件は別だ。
「まあ、今の発言は僕が悪かったのですが、別に嫌だとは思っていません。そう、僕とミヤは友達なのでしょ? だったらミヤの言う通り、何でも一緒にやりましょう。苦も楽も、ともにするのが友情というものです」
こいつは友達という言葉に弱い。こう言えば、きっと乗ってくるに違いない。
「……うーん、そうですね。お友達ですからね。くもらくも一緒にやるモノですね♪」
多分、よく意味が解ってないんだろうけど、納得してくれたのならまあ良かったかな?
「じゃあ、まずはお勉強からやりましょうか。ミヤの思いつきはその後で、ゆっくり話を聞きますよ。心配しなくとも時間はたっぷりありますからね」
「うーん、わかったのです。なんだか納得いかないのですが、勉強も嫌なのですが、くもらくも一緒にというのが気に入ったので、やりましょう!」
ふっ、バカは騙すのが簡単で助かるな。
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