第15話②狂賢と喧々たる少女と鬼の住む縣
俺を呆気に取らせるという偉業を成したお転婆娘は、無謀にも鬼(俺)に襲いかかってきた。
それから、どうなったかというと、
「うーん、ミヤの方がお縄にかかってしまったのです」
そりゃ、そうなるわな。
「君は、何を考えているのですか? クマにすら勝てないのに、鬼に襲いかかるなんて無謀にも程があります。愚かもの所業ですよ」
マジでバカなんじゃないか、こいつ? 普通は本能的に危険を察知して逃げるっていうのに、それが働かないってなると、よっぽどだぞ。
「む~、鬼の言っていることは言葉難し過ぎてよく分からないのですが、バカにしているのは分かります。鬼にまでバカにされるとは、ミヤは悔しいです」
ああ、俺の中の同世代のサンプルがあの吸血鬼姫しかいなかったから、「無謀」やら「愚か」やら「所業」やら使ってしまった。
普通の子供はあんなに頭良くないし、こいつはバカそうだしで話が通じるわけねーよな。
「うん? どういうことですか? 僕以外にもバカにされた経験が?」
「あっ、やっぱりバカにしてるのですね」
「おっと、これは失礼」
ついつい本音が漏れてしまった。こいつ、意外とやるな。ガキながらこんなとこまで来る行動力といい、行動的なバカっていうのは、侮れない所があるから要注意だ。
「ミヤは悲しいのです。皆にバカにされ、見返す為に鬼退治へ来たのに、その鬼にまでバカにされるとは……」
おいおい、どんだけバカにされてきた人生送ってんだ、このバカ。ちょっと可哀想になってきたぞ、このバカ。
「はあ、それで鬼である僕に挑んできたと?」
ご丁寧に捕縛縄までもってきて、自分にかけられるよう無様な姿をさらしに来たというのか。
「そうなのです。お父様の治めるこの領地にいるという鬼を退治すれば、お父様もお母様もお兄様も皆も私のことを認めてくれると思ってきたのです」
あっ、こいつ、ここの華族の娘かよ。こいつの有能そうな兄貴までは見たことがあったけど、こんなバカそうな娘もいたのか。
厳格そうな家だったし、こいつが肩身の狭い思いをするのも納得だな。
「君、よくそんな簡単に内情をバラしますね。僕から復讐されるとは、考えないのですか?」
「あっ、やっぱり今のはなしなのです。聞かなかったことにしてほしいのです!」
うーん、これはまごうことなきバカ。ちょっとだけ可哀想になってきた。
「はあ、仕方ありませんね。僕は何も聞いていないですし、襲われても居ないということにしますよ」
捕縛から解放していやると、その可愛らしい面をアホそうに変えて、ポケッと呆けてやがる。
「えっ? ミヤを許してくれるのですか? あんなに酷いことをしたのに」
「ええ、許してあげますよ。僕も君の辛い気持ちは理解しているつもりですから」
家族にすら虐げられる気持ちは、俺にはよく分かる。前世でも、今でも、同じような扱いを受けてきた。
「本当なのですか?」
「本当です」
「なんと、君は良い奴なのですね。鬼のことは悪い奴だと思っていたけど、ミヤの誤解だったのです。ミヤが悪かったのです」
こいつ、いくらなんでも簡単に気を許し過ぎだろ。近い将来、拐われないか心配になってくるな。
「いえ、君は悪くないと思いますよ。本来、鬼というのは悪逆……悪い奴らで合っていますから。僕が特別なだけですよ」
「なるほど、そうなのですか。けど、戦いはお話の通り強いのですね」
「そうでもありませんよ。伝承……お話しが正しいのなら、本物の鬼の強さはこんなものではありません」
伝承で登場するような鬼は、天変地異を引き起こし、あの皇帝の手を煩わせるほどらしい。
そんな存在、前世の俺でも勝てたか怪しいところだ。
「なるほどなるほど、ふふふ、キミは私に情報を言ってしまいましたね! どうなっても知りませんよ!」
さっきの仕返しのつもりか、したり顔でそんなこと言っているけど、何が重要な情報で、それを使って何をやるつもりなんですかね。なんも考えてねえだろ、こいつ。
「別に知られて困るようなことを言った覚えは有りませんけど、その情報を使ってミヤは何を要求するつもりなんですか?」
「えー……とですね。強くないというのが重要な情報で」
まあ、強くないと言っても、雑兵程度なら百人いても相手にはならんけどな。
「ほうほう、それで」
このバカは、どんな大それたことを言ってくれるのやら、楽しみだね。
「んー……と、お友達になって貰います!」
「えっ、今なんて?」
鬼である俺の、何だって?
「だから、お友達になって貰います」
友達になるだと?
「はあ~?」
これだから行動的なバカってのは困る。こうやって、突拍子も無くこっちの考えを越えることをやってくるのだから、本当に要注意人物だ。
「お友達……ですか。それはそれは、とても大胆な要求ですね。キミはそれでも構わないのですか? 僕は、厄介者で全てから恐れられる鬼ですよ?」
「いいのです。ミヤも皆にバカにされてお友達なんて居ないから、同じ扱い同士仲良くやりましょう」
ミヤの眼は真剣で、俺に対する見方は対等に思えた。こいつ、本気で友達に成りたいのだ。
「ふふ、『同じ扱い同士』ですか。いいでじゃないですか、仲良くしましょう。これも何かの縁です」
俺がそう言って差し出した手を、ミヤは何もないかのように平然と握ってきた。こんな事が出来たのは、母親エルフか、吸血鬼娘くらいだ。
なら、俺も最大限、こいつの味方であろうと思う。こいつが成長して、分別がつくようになって、俺を恐れるようになるまで。
そして、こいつのおかげで俺も助けられたな。暗雲が晴れて、青空が見えた気分だ。
なんといっても、あの筆の止まっていた駄文の続きが書けるのだから。
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……それで、つい先日など、大きなクマを狩ったのですが、獲物がデカすぎてその処分に困ってしまいました。
あと、そうそう、つい書き忘れそうになってしまいましたが、ぼっちであろう君にご報告が有ります。
最近、友達が出来たので紹介しておきますよ。
ミヤと言うのですが……
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