第6話③帝国と魔法
襲撃者どもが持つのは、一様の拳銃だった。しかも、型式としてはおそらく最新式に近いものだ。こんな装備を整えられるのは、軍か軍事産業の関係者だけだろう。
ただ、このお粗末な襲撃からすると、国や軍は本格的にかかわってないな。
……全く、残念な話だ。絶望的な状況の方が、素直にこの世界を呪えるというのに。
「では、ここに宣言しよう。我々は鬼の討伐を成す為に、この弾丸を見舞うと」
わざわざ宣言するのは鬼退治の大義名分を知らしめ、咎が及ばないようにするため…か。
この行動、実に無様で笑える。
外套で素性を隠し、見咎める者も居ないのに宣言をする。そんなチグハグな真似をする理由は、恐怖心からだ。
この国の者は皆、皇帝を神の様に扱い、畏怖し、敬う。だから、誰にも見られていないというのに、自然と懺悔を皇帝へ述べてしまう。皇帝が見ているかもしないと思って。
なら、殺らなければいいだけだ。幼子を殺しておいて許して貰おうなどと、実に厚かましいじゃないか。
そんな、みっとも無い真似を平然とやる連中を見ていると、本当に笑えてくるのだ。滑稽で嘲笑う感情が止まらない。そんな自分が鬼になっていっていると、そう思えてくる。
「なら、私も宣言しましょう。この子を守る為なら、何も厭わないと」
俺が心の中で嘲笑っているっている中、このエルフも宣言をした。
誰かに許しを請う訳でもなく、俺に向けた宣言だ。
やはり、このエルフの頭には妖精が住んでいるようだ。俺の為に、そんな真似をする必要なんて無いっていうのに。
それじゃ、鬼に成りきれないだろ。
「この不忠者め!」
男が声をあげた瞬間、男たちに一斉に黒い靄の様なものが発生した。
これは、魔法を発動した証だ。
魔法とは『可能性』へ働きかける行為だという。
その者が起こせる『奇跡』を燃料とし、『可能性』の『増幅』や『拡張』を行い、普通では起こせない現象を起こすらしい。
ここで連中が使った魔法は、弾丸が当たる『可能性』の『増幅』や致命傷の『可能性』の『増幅』だろう。
こうなると、その凶弾は必殺となる。
そう、弾丸が発射されれば、だ。
「_______」
母親が、何事か呟いたと思った瞬間、襲撃者は紅い霧となり消え失せた。
50m先に隠れ潜んでいた狙撃者も同様に、100m先の偵察者は逃走を、そして生きている人間は俺達だけだ。
「もう大丈夫だね。じゃあ、おウチへ帰ろうか」
鮮血が舞うこの中で、母親は笑顔で手を差し出して、俺にそんなことを言ってきた。
襲撃からこの惨状を引き起こすまで、彼女に感情の起伏というものは見えなかった。
本当に、このエルフの頭の中には妖精が住み着いているのだろう。
妖精とは、おちゃらけていて、遊び好きで、好きな事しかせず、無邪気で、だからこそ、時に残酷だ。
「ええ、帰りましょう。僕たちの家へ」
俺は、こんな母親に恐怖心など懐いたりはしない。そして、保護者として盲信するには年を取り過ぎていた。
でも、彼女の手を笑顔で握り返したのは、情が移ったからだろうか?
まあ、少なくとも彼女の、母親の悲しむ顔をみたく無いのは確かだな。
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