第5話②帝国と魔法
草色をした外套で体躯を被い、素性を隠した武装集団という非日常的な連中でも、俺と母親には手慣れた相手だ。
だから、今さら非常識な連中の目的なんて確認する必要もなく、ただ俺の憎悪感だけがふつふつと湧きあがってくるのがわかる。
「邪魔ですね。そうそうに立ち去って頂けますか?」
母親の手前、汚い言葉は避けたが、本来なら五歳児からひねり出したとは思えないような罵詈雑言を吐き捨てたいところだった。
まあ仮にそんなことを言ったとしても、前後の連中には俺の言葉なんて無風に等しいことだろうけど。
「さて、『生き急ぎのエルフ』よ。そこの忌み子だけ置いて、立ち去ってはくれまいか? 金翼の医師を、こんなことで失うのは惜しい」
声からすると30歳前後の男。喋りに淀みはなく、体に隙もない。かなりの手練れだ。
「なぜこの子を狙うのですか? 皇帝陛下から許しは得ていますのに」
母親は数十人しか居ない金翼持ちだ。皇帝にお目通りを願うことは可能だし、鬼の赤子の助命を願う直訴なんてこともやってやれないことはない。
皇帝と会ったときのことは、赤子だったのに今でも鮮明に思い出すことができる。
神ごとき皇帝は、母親に抱かれる俺を千里眼ごとき眼で見透して「偽鬼の子とて、鬼は鬼。なればこそ、その業を負い業深く生きよ」と、言ったのだ。
皇帝とは法であり、それは絶対だ。つまり、法にある『鬼足るモノへの情け無用』といった文言を超越した瞬間でもあった。
しかし――
「であるな。しかし、悪鬼殲滅令からは除外されていない。それ即ち、忌み子を処分しても罪に問われないことを意味している」
皇帝は、俺を殺すことへなんら罰則を設けてはいない。あの皇帝のことだ。その全てを見透す目で、俺が世の中に憎悪していることを看破しているのだろう。
だから、俺がその憎悪を糧に悪事をなすことが無い様に、戒めとしてそんな処置を残したのかもしれない。ただ、俺の中の煮立った恨みつらみは、そんなことでは止められない。
「ですが、皇帝陛下から刺客への手打ち許可状を貰っています。あなた方も同じような立場ですよ? そのご覚悟が有りますでしょうか? 私の様に」
こんなことを言う母親が居なければ、とっくの昔に悪意を撒き散らす鬼に、俺はなっていた。
「話は平行線。なれば、行き着く先はただ一つ」
話していた男が手をあげた。
銃を構える不届き者ども。
それは、惨劇の始まりを告げる合図であった。
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