第4話①帝国と魔法
ときの皇帝が、完全無欠とも言うべき肉体と神算鬼謀の才を持って国を統一し、この国に帝政を樹立して350年あまりになる。
寿命すら知らないその皇帝は、帝国に300年の平和をもたらした。
しかし、その完全無欠にただ守られた制度は、国へ停滞も与えた。
それを憂いた皇帝が、人民による政治を提案し受け入れられて50年。
文明は華々しく開花し、馬車は列車へ置き換わり、街には高層建造物がたち並ぶようになった。
そんな世界で、それを支えているのは魔法と呼ばれる技術だ。
「ママの魔法はすごいでしょ。どんな病気でも直しちゃうんだから。私の可能性は万能薬に勝るの」
帰りの揺れる列車で、おっぱいブルンブルンさせながら言われても説得力に欠けるな。結果だけ言えば、確かにそうだけどさ。
「そう思いますよ。母さん。僕が見聞きしただけでも、同じようなことが出来る人は5人もいないとか」
栄えある医学賞に金翼というものがある。年に1人出るかどうかというその賞、これを受賞した医師はもれなく名医であり、不出世の学者でもあるらしい。
そして、この母エルフはそれを15歳の時に受賞したというのだから、この頭お花畑な様子からは想像も出来ない話だ。
「わーい、スバル君が褒めてくれた。嬉しい♪ お礼にハグしちゃうね」
有無も言わせずぐみゅっと抱きついてきやがったけど、自分がやりたかっただけだろ。息苦しくて敵わんわ!
「はは、離して貰っていいかな、母さん。そろそろ駅に着くころだよ」
駅を降りて、馬車を乗り継いだ町からさらに歩いた先に、俺達の家がある。人里離れたその場所は、とても栄えある金翼を受賞した医師が住む家とは思えなかった。
そんなとこに住むことになった原因は、もちろん俺だ。忌み嫌われた鬼というのは、想像以上に世間からは拒絶されていた。誰からも嫌われ、誰にも受け入れられない。
よって、俺はこの世界の全てが憎くて堪らない。ほぼすべての人が俺を受け入れないのだ。こんな世の中、好きになる必要なんてないだろ?
でも、だからこそ、唯一人。こんな俺を受け入れてくれる母親だけには、罪悪感を覚える。鬼なんて忌み子を引き入れたばかりに、辛く険しい道を歩く羽目になったのだ。
俺は罪悪感から、道すがら母親を何度もチラリと盗み見てしまう。こんな子を持って、なんて思っているのだろうと。
「どうしたのスバル君? 歩くのきつくなった? ママがハグしてあげようか?」
なんでだよ! そこはおんぶじゃねーのかよ! やっぱりただ抱きつきたいだけじゃねーか。こう見えても前世から合わせたらとっくの昔に成人しているのに、いまさらハグなんて恥ずかしいだけだろ。断固拒否だ!
「大丈夫ですよ、母さん。歩くのなんて慣れたモノですし、嫌いじゃないですから」
「まあ、そんな頑張りやさんなこと言うなんて、やっぱりスバル君て偉い。ご褒美にハグしてあげる」
お前がハグしたいだけじゃねーか。何言ってもしたいようにするし、こいつの脳みそやっぱり妖精住んでるな。今、確かに確信したわ。
「ははは、歩きにくいから離れて貰っていいかな、母さん。どうやら、不届きな連中も出来てきたみたいだし」
俺がそんな言葉を発すると、前後に5人ずつ、顔を隠した武装集団が現れた。
はあ、ホントクソみたいな世界だぜ。
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