10.復活

恭兵は芸能界を引退した後、両親には復学して卒業し、普通の人生を歩むことを説得されたが、ダメだね。

頂点を見てしまったので、まともな仕事には就けない。金はその歳の若者では考えられないほどたくさん持っていた。

恭兵は毎日酒を浴びるほど飲んだ。

しかし何も充たされなかった。


恭兵は20代の後半を何もすることなく、毎日酒を飲んでいた。何も考えず、何もせず、ただただ酒ばかり飲んでいた。世の中にはニートという言葉が出て来た。恭兵は自分もニートなんだと思った。

そんな30歳も過ぎたある日、実家の両親のところに大阪に居る早苗から手紙が届いた。そしてなんともなしに早苗に再開した。

あれから8年も経ったのに早苗の美しさはまったく変わらなかった。早苗は待っていたのだ。8年間も。

ケータイ電話のない時代というのは恋愛の終わりは自然消滅というのが1番多かったのだ。それを8年間もジッと待っているなんて、普通の女の人にはできないと思う。

恭兵はまず早苗に会って、ドロドロに溶けきった自らの表皮に風というか、放射線が吹き付けるのを感じた。そして次の一言だ。

「あんた、なにやってんねん!」

「…」

「どんなアホづらさげてわてにあってん?あんときのアンタはそんなんやなかったやろ!」

早苗の大きな瞳から大粒の涙があふれる。

恭兵はガクッとうな垂れる。まともに早苗を見ることができない。


…チクショー…


心の底から復讐心と、音楽への執念が湧き上がってくるのを感じる。自分が失っていたのは普通の人間が持っているこの、チクショーという感覚だったのだ。

前に居る早苗を見る。後光が射している。眩しくてその表情とかは分からない。ただ強い風が向こうから吹いてくる。

恭兵は再起を誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新細腕繁盛記 おおもり さとし @bintan44o

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ