9.謎

さてここで謎をすべて明かさなければならない。

なぜ恭兵は芸能界を追放されたのか?

なぜ今は路上パフォーマーなのか?

早苗はどういう女なのか?

なぜ恭兵は早苗と小料理屋をやっているのか?

すべての謎を語る前に恭兵の生い立ちから記していきたい。


恭兵こと大山恭兵は1968年に北関東の片田舎で生まれた。両親は大きな工場をいくつも持つ日本有数の電機メーカーに勤めていた。

恭兵は平凡な一学生として普通科の高校に進学し、東京の大学に通った。そのまま父のようなサラリーマンになる予定であった。

転機は18歳の時、中学校の先輩にバンド活動に誘われ参加した。グループのリーダーはリードヴォーカルのK。Kは後年J-POPの始祖として崇められる。

Kを中心とした5人組バンドブラームスはデビューするとその音楽性の高さから注目され、あっという間にスターダムに昇りつめた。

その音楽部分を主に担ったのが恭兵であった。CDのクレジットには作詞作曲ブラームスとしか書かれなかったが、ほんとうは恭兵がすべて担当していた。

ブラームスは5年間の全力疾走の後、華々しく解散した。恭兵はその間学業どころではなく、大学は休学して楽曲作り、レコーディング、ツアーと激しく働いた。

問題はブラームスの解散理由だ。

表向きは各人の音楽性の違いなどと書かれるが、ほんとうの理由はやはり金と女だ。世間の一般的な事情と変わらない。

リーダーのKは強権的な人で、バンドのスケジュールをすべて自分の都合に合わせて組んだ。そしてギャラの配分をすべてKが握った。当然他のメンバーから不満が続出し、メンバーがコロコロ変わった。しかし恭兵は中学の先輩ということもあって最後までKに着いていった。

それでもやはり我慢の限界が来た。

恭兵はブラームスの後半にある女性と真剣に付き合っていた。名前を早苗と言った。そう今のおかみの早苗だ。早苗とは最初はファンレターのようなものから知り合ったと思う。大阪公演の時にホテルのロビーで早苗に会った恭兵はひっくり返るくらいびっくりした。その美しさにだ。

当然だがケータイとかない時代なので、恭兵は公衆電話から毎日早苗に連絡を取った。

事件はある日起きた。

ケータイのない時代なので行き違いとかがしょっちゅう起こる。恭兵は東京で早苗と会う約束をしていた。ところがそこへ行き違いが起こり間隙を突いて、なんとリーダーのKが早苗をさらった。Kは早苗を監禁し陵辱した。

恭兵はホテルのロビーを泣きはらした早苗が走り去るのを見た。後を追ったが捕まらなかった。それ以後恭兵は早苗とは10年近く会っていない。

一方でニヤケた面を下げて出て来たKがさもたいしたことではないと語るのを聞いて、恭兵はすべて終わったと思った。

恭兵は脱退を申し出たが、恭兵がいなくなってしまうと新曲やアルバムが作れなくなる。慌てたKは必死に恭兵を慰留したが、どうにもならないとある策を弄した。

Kは恭兵が女にうつつを抜かして仕事に身が入ってないと、事務所やレコード会社の幹部に言いふらした。Kがスケジュールをすべて握っていることをいいことに、恭兵には嘘のスケジュールを言って、コンサートに遅刻させた。

事務所やレコード会社の幹部は、もはやブラームスにバンド活動を継続させるのは困難と判断して、Kをソロデビューさせた。

恭兵はブラームス解散で各方面に損害を与えた懲罰として、永久に芸能界から追放された。

これが真相だ。

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