7.新天地
新橋駅前の一等地に移転した居酒屋"早苗"は内装工事を終え、古い店を閉店してから1ヶ月でオープンした。
内装工事とはいえ、やることはほとんどない。壊れていたエアコンをチェンジしたくらいだ。俗にこれを居抜きという。
「みなさん、それではよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
早苗は新たに採用したアルバイトと美樹ギャリソンを整列させオープニングの朝礼をする。恭兵はいない。恭兵は事業拡大するのに併せて居酒屋の営業からは外れた。もともとが料理とかが向いてない。
アルバイトは全員ベトナム人であった。しかも全員女子だ。ホールとキッチンで都合10人ほどを雇った。古い店で研修させて、新しい店を引き渡しを受けてからも何日か研修した。
エレベーターの前でママの早苗がお客様のご来店を待ち受ける。続々とひっきりなしに入店してくる。今日のお客様はほとんどママのお客だ。
「田中さん、よくいらっしゃいました」
「いや〜、ママすごいなぁ〜、こんな立派な店に移っちゃって、オレたち常連もなんか出世した気がするよねぇ〜」
「これからもよろしくお願いします」
と早苗が田中と呼ばれるお客を、キラキラした眼差しで見つめる。田中は一発で悩殺される。
「ギャリソン、田中さんご案内してね」
「はい、奥さま。リーちゃん、田中様42卓にご案内して」
「はーい」
ギャリソンがテキパキと指示を飛ばす。
「北村さんお帰りになるから、チャーハンおみやにしてちょうだい」
ホールからママの声がする。
「フォンちゃん、チャーハンこのパックに入れてね」
「分かりました〜」
キッチンで美樹がやはりテキパキ指示を出す。フォンちゃんと言われた子は女の子なのに中華鍋を振っている。美樹はやはりキッチンのオペレーションには極力入らないようにしている。板場ではゴックという女の子が刺身を盛り付けている。
アタフタと初日の営業が終わった。
「おかみさん、77万円ですね」
ギャリソンが早苗に売上の報告をする。
「77まん⁈」
思わずキラッと涙が流れる。美樹はそれを見て、この世にないものを見た気がした。どアホッ!とか言う、あの人が泣くなんて。
「みんな、ありがと。こんな売上はしんじられませン。それもこれもみなさんのおかげです。また明日もよろしくお願いします」
ベトナムの女の子たちも早苗の美しさに見とれた。
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