5.従者

「さっきはあんなひどいこと言ってしまてゴメンな」

と女将の早苗が美樹に優しく言う。


…ひどいなんてレベルじゃないケン。よくあれだけ悪口が思い付くケン…


「いいんです」

と言って美樹はグビッと生中を飲み干した。

「ギャリソン!お替わりちょうだい‼︎」

とカウンターの中に居るギャリソンに言うと、ドンと空になったジョッキを置いた。

ギャリソンはハイよと生のお替わりを出す。

「なんなんだよ。いきなり来たと思ったら突然ビールガバガバ飲み出してさァー」


「それで美樹ちゃんはなんで東京にきたの?」

と女将が聞く。

「実はわたしー、広島から出てきたんですけどぉ〜」

と身の上を話し出した。

斎藤美樹は1975年に広島で生まれた。兄弟は3歳上の兄と3歳下の弟がいる。

両親は広島で焼き鳥屋を経営しており自然と商売の環境で育った。

18歳で高校を卒業すると大手の居酒屋チェーンに就職した。

最初は形通りホールの女子社員であったが、どうしても料理がやりたくて、男子しか居ないキッチンに入った。

美樹は幼少の頃から料理に馴染んでいたためにメキメキと頭角を現し、男子の社員を差し置いて料理長を任された。

「すごいやん。女だてらに料理長なんて」

「それがダメじゃケン」

「なんで?」

「結局役職が付くと管理職扱いやケン、休みがなくなってしまったケン」

「なんでや、ずいぶんブラックな会社やなぁ〜」

「そうなん。わたしが女だから男子の主任や一般社員たちが足引っぱるケン。大事な宴会がある日にわたしが休みの時に急に休んだり」

「きったない男どもや!女の腐ったような連中やな」

「結局、耐えられなくて辞めたケン。それで去年の秋にフラッと東京に出てきて泊まったホテルの前で恭兵さんがライブをやっているのを見たケン」

「そうなんや」

「わたしには恭兵さんが、なんか、なんか」

と美樹は言って目を潤ます。

「女将さん!私をここで働かせて下さい。給料なんか要りません!わたしは、わたしは恭兵さんにお仕え出来ればいいんです!」

「そは言ってもなぁ〜」

「お願いします!」

と美樹はカウンターのイスから飛び降り女将が座るイスの下に手を着いて懇願する。

「そこまで言うならわかったわ〜」

「ほんとですか〜!」

と言って美樹は早苗に抱きつく。

「でもな、条件がある」

「…」

「この店の経営はカツカツなんや。ギャリソンの給料も高校生のバイト代くらいしか払えてへん。幸いギャリソンは京都のご両親からの仕送りがあるやさかいにギャリソンはやってけるけど、美樹ちゃんに一人前の給料は出せへん」

「…」

「だから美樹ちゃんのその料理の腕で店の売り上げ上げて欲しいんや。今だと月200万円くらいしか売れてへんやから、もし月400万円くらい売れれば美樹ちゃんにも十分なお給料が払えるとおもう」

美樹はグッとうなずくと、女将の両手を取って

「分かりました。女将さん。やりましょう。やらせて下さい」

と言った。

「とりあえず隣のアパートは一部屋開けるから当面は住み込みみたいになっちゃうけどゴメンな」

「ありがとうございます。そんな住むところまでいただいて申し訳ありません」

「エッ!もしかして僕の部屋無くなっちゃうんですか?」

とギャリソンは心配する。

「あなたは男やから、居間でもいいでしょ」

「えーっ!こいつのためになんで僕がそんな目に合うの⁈」

美樹はそれを聞くとギャリソンに寄り添い腰に手を回した。顔をギャリソンの顔に寄せ

「わたしが面倒見てあげるからお願いしますね」

と言ってギャリソンの股間をギュッと握る。

ギャリソンは年上の女性の魅力に一瞬で黙らせられる。

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