10.女将へ
「真澄さんもわたしィ達の仲間になって欲しい」
「エッ⁈ 何でですか?」
突然の女将の提案に真澄は、なんでですかとしか言葉が出なかった。
「ま、わたしィ達特有のオーラをあなたも持っているということやね」
「オーラですか?」
「そやね。恭兵がまず好きかということや」
「確かに恭兵さまは大好きでしたけど、それはファンという意味で…」
真澄は女将にジッと顔を見つめられる。真澄はまた心の中を読まれているのを感じる。
「そういう好きじゃないケン。恭兵さんの奴隷になりたいかということじゃケン」
美樹に心の中をズバッと指摘される。
「確かに…、ええ…、はい、恭兵さまの奴隷になりたいです…」
真澄はドレイという言葉を吐くと、甘美な快感が胸中を走るのを感じた。
「そうなんや。今の人は自分の外に頼れるものを置きたがらない。だから本来の力が出せん。自分以外の所に生きがいを置くとほんまよう力が出るんや」
「でも女将さんたちの仲間になるってことは具体的にどういうことなんですか?」
「女将になって欲しい」
「女将ですか?」
「今話した通りわたしィも恭兵を養うために毎日一生懸命働いておる。でも体が足りないんや。1階の立ち飲みと6階の小料理の両方は無理なんや。だから下の立ち飲みをやってくれる人が欲しいんや」
「立ち飲みでアルバイトするということですか?」
「いいや違いまっせ。1階はあなたが真澄さんが経営して欲しいんや」
「えーっ!私がですかぁー?」
「そうなん、やっぱシンパシーが同じ人やないと事業はうまくいかんのや」
「ええーっ、でもぉ〜、商売は難しいですよねー」
「難しくあらへん。そのかわりやってくれたら利益は全部真澄さんが持ってってくれてええわ。今私が片手間でやって20万円くらいだけど、損益分岐点から考えて、真澄さんやたら50万円以上は可能やと思うんや」
「ええーっ!でもぉ〜」
「とりあえず何回か実際にやってもらて、やれそうやたらでいいから1度見にきてくれんか?」
「わかりましたぁ〜」
真澄は女将の熱意に押されて渋々という感じで返事はしたが、立ち飲みの魅力に捉われ、恭兵ファミリーの暖かさに触れるにつけ、あっという間に立ち飲みの経営に没入していったのだ。
かくして真澄は銀座8丁目で女将となり、冒頭のシーンへと戻るのだ。
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