9.麻布

真澄はツルツルのシーツがかけられた寝具にくるまって寝ているところで目が覚めた。

昨日のことが思い出せない。

隣の部屋で女性がしゃべるのがかすかに聞こえる。

意を決して真澄はベッドを降りる。いつの間にかツルツルの上質なパジャマが着せられている。

ドアのところへツツツと歩きそっとドアをガチャっと開ける。ちょっとだけ開けたドアの隙間から女性がソファーに座っているのが見える。早苗だ。その横にまた女性。美樹だっけ?

そうして後ろ向きに座っている男性が2人。


「あの〜ぅ」

「あら、おはようさん。起きはった?」

「なんかどうもすいません。私どうしてここに居るのか思い出せなくて」

「そうなんや、ずいぶん飲んではたみたいやから」

「おはよう」

と言って右側の男性が振り返る。

「恭兵さま…」

と真澄は言った瞬間電光のように昨日の夜にあったことを思い出して、顔を両手で塞ぎ座り込んでしまった。

美樹が歩いて来て真澄を立たせて美樹が座っていたソファーに真澄を座らせる。

「昨日は手荒いことをして、ほんとすまんかったなぁ〜。別に悪気はなかったんで許しとくれ」

「いえ別に怒ってはいないんですけどぉ、なんか恥ずかしくて」

「そんなことはあらへん」

「そうやケン。おかみはああいうイタズラが好きなんじゃ。私もよく泣かされるケン」

と美樹も真澄をいたわる。

もう一人の男性が席を外してキッチンに行き、ブラックのコーヒーをカップにいれて持って来て真澄の前に置く。

「どうぞ召し上がってください」

とその男性は人懐こい笑顔で言った。

「ありがとう」

と真澄は言って、チュルっと一口飲む。二日酔いの体に温かいブラックコーヒーが染み渡る。

「この子がギャリソンや。美樹のフィアンセや」

「別に婚約してんケン」

「ギャリソンさん?ですか?」

「はい。本名は山田泰誠と申します」

「うちの執事だからギャリソンや」

「執事?」

「そうやね。話すと長くなるけど、わたしィ達はもともとバラバラに生きていた、当たり前やけど」

「…」

「それが恭兵が中心となって、扇の要となってわたしィ達が引き寄せられたんや。恭兵はハッキリ言ってなんもせん。ただ歌作ってうたてるだけや」

「そんなことないケン!私たちは恭兵さんがいるから生きていけるケン」

「そうなんや。恭兵はわたしィ達が生きるエネルギーを与えてくれるんや。言わばここは恭兵を中心としたコロニーと言えるんや」

真澄は早苗の言う"コロニー"と言う言葉を聞いて、胸がズンと鳴るのを意識した。そして恭兵に自分の股間の匂いを嗅がれたことを思い出した。一瞬甘美な快感が走る。

「そうなんや。わたしィ達は恭兵に仕えるしもべなんや」

女将は真澄の心の中を的確に見透かす。

真澄は女将に心の中を見透かされているのを確信する。

「そうなんケン。恭兵さんは私の旦那様ケン。私は一生旦那様に仕えるケン」

「でもみなさんなんかすごい生き生きと生きてらしてなんか恭兵さまに使われているって感じはしないですけど」

「そこが問題なんや。今の子達は恋愛というと自分の利益しか考えない。自分が傷つかないように行動する」

「ええ、まあ、そうかもしれません」

「恭兵はさきも言ったようにまったく生活力があらへん。ただ歌の才能はすごい持ってる。だから私達が恭兵を養ってあげないといけないんや」

「養う?」

「そうなんや。今の男の子たちは常に女の子達にぶら下がられるばっかりで、自分の才能を開花させる機会を失くしてるんや。そして今の男の子達が働きに出てもブラックな所ばっかりでますます芽が摘まれてしまう。だからわたしィ達おんなが、そういう才能のある男の子を養って才能を開花させてあげるんや」

「でもそれって何か普通の考え方と違いますよね」

「そやね。だからみんな幸せになれないんや」

「…」

「この麻布のマンションも昨日の銀座のビルもみんな恭兵にこぉてもらったんや。まったく働かない男がそんなことできるわけないやろ」

「ほんとなんですか〜?」

「まあほんとと言えばほんとだし、さーちゃんの知謀と肝っ玉の力によるものと言えばそうとも言える」

今まで黙っていた恭兵が答える。

そして早苗から真澄に突然の提案がなされる。

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