7.再び銀座8丁目
真澄は店の仕事がはけた後、店長、真澄、男性の社員と、辞めていく若菜と女子アルバイト2、3人で自分の働く店で飲んだ。
12時頃に解散した後、いつもだったら京浜東北線の終電がなくなる前に帰るのだが、その日はなぜか真っ直ぐ帰る気にならず、1人で新橋から銀座のほうへ向かって歩き出した。たぶん父が亡くなり母とケンカしたことが影響していたのだと思う。
新橋のガード下をくぐり銀座8丁目と言われる一角に足を踏み入れる。
真澄は銀座時代が長かったが、真澄が働いていたのは4丁目、5丁目、6丁目などの中心地区で、この辺りの新橋寄りの地区は来たことがなかった。
フッと明かりが灯っている細長いビルの1階が目に入る。近づいて覗く。美人の女将が細々と料理を運び酒を運んでいる。
「いらっしゃいませ〜」
中から威勢のいい掛け声が聞こえてくる。真澄は思わずガラガラガラと重い扉を右に引く。
「はい、いらっしゃい。お姉さんひとりかえ?」
「はい。まだやってますか?」
「もう間もなく閉めるけど、よろしかったらどぉぞぉ〜」
「はい、じゃあ、ちょと飲ませて下さい」
「何にしますか?」
「それじゃ〜」
と真澄は言ってグルッと店内を見回す。
何人か居るお客さんはみな立って飲んでいる。
…そうか、立ち飲みの店なのか。ま、いいかっ…
「それじゃ、ハイボール下さい。ウイスキーの銘柄って選べるんですか?」
「そおやね、ウチはカクとあとジムビーンのバーボンがハイボール用やね。山崎はあるけどハイボールにはもったいないわあ」
「それじゃ、山崎のロックでお願いします」
「かしこまりました」
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
と言って、真澄はウイスキーをゴキュッと一気に流し込む。
「お姉さん飲めるクチやね。お若いのに」
「え〜っ、ぜんぜん若くないですよ〜っ」
「若いヤロ。何年?」
「え〜っ、わたしぃ〜」
と酔った勢いでブリっ子になる。
「ショ〜ワ〜、ヨンジュウ〜、サンネン〜」
「ホンマ〜、わたしぃ〜も43年生まれヤワ〜」
「え〜っ、ぜんぜん見えな〜い」
「それどういう意味やぁ〜?返答シダイじゃタダじゃおかんわぁ〜」
と女将は服の上から真澄の乳首をギュッとつまんだ。
「ああっ、やめて〜」
と真澄は思わず色っぽい声を出してしまう。男性のお客たちがこちらを振り返る。
「どうなんや?」
と女将はもう片方の真澄の乳首もつまんでやわやわと揉みしだく。
真澄はあまりの気持ちよさにうっかり声が出かけるのを必死でこらえる。
「…ええっ、だってママさん綺麗だし、しっかりしてるから、とても同じ歳に見えなかったから…」
と真澄は快感をこらえながらなんとか応える。
「ええわ、許したげる。その替わりこの後わたしぃに付き合ってもらうわぁ。このビルの6階にわたしぃの店あるから、そこでもう1回飲み直そな」
と女将は誘ってきた。
普通ならば危険な誘いなのだが、真澄は、はい、と返事をしてしまった。女将は他人を自分の思うがままに操る特技があり、その時にセクシャルなテクニックを使うのだった。
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