3.カラクリ

ここまで読んでこられた読者の方は、会話は入ってくるのだけれども、バックボーンが見えないという感覚にとらわれていると思う。一つづつ説明していきたい。


真澄の店が銀座8丁目の一角にあるのは書いた。

その後に突然関西弁を話す女将が出てきた。女将は早苗という。

早苗は何をしているのか?

早苗も料理屋を経営している。

なぜショウは早苗に許可をもらって洗い場を借りたのか?

真澄の立ち飲みの店内には皿を洗う洗浄器を置くスペースがない。だからお客さんが使ったお皿はコンテナにギッシリ詰められて、同じビルの6階にある早苗の高級料理店の洗い場に料理専用のエレベーターで送られる。

営業中は次々にぎっしり皿が詰まったコンテナが1階の真澄の立ち飲みの店から6階の早苗の料理屋にどんどん送られる。

その皿をラストオーダーが終わった後にショウが6階に上がって、一気に洗い片付けるのだ。

1階で洗うのはグラスとジョッキだけだ。


あの言葉のキツイ美樹という女性は?

美樹は早苗の高級料理屋の女料理長なのだ。経歴等は後術する。ただ真澄の会話から1階の立ち飲みの料理は美樹が作っているのが想像される。

その通りで真澄の立ち飲みの店内では料理はいっさい作らない。ショウが皿に盛られた料理を電子レンジでチンして出していただけだ。コンビニと同じだ。あとはドリンクをショウが作る。

そんな料理でそんなにお客さんが納得するのか?

最初に書いたが、料理の種類はとにかく多い。そして美樹が作る料理は煮物、焼き物、前菜、刺身と本格的だ。6階の早苗の高級料理屋で提供している料理と遜色ない。それでもって安い。

お客さんは大納得だ。


経験のある方なら分かると思うが、立ち飲みで2人の従業員で30万円なんて絶対に売れない。

しかし真澄の店にはカラクリがある。

まず書いた通り実際の調理は事前に6階の厨房で行われている。その日の料理はすべて開店前に1階に皿に盛り付けられ送られる。もちろん異常に売れる日は追加で送られる。

料理用のエレベーターで6階の厨房から送られた料理は業務用の冷蔵庫にトレイごと収納され、オーダーが入るとショウが冷蔵庫から料理を取り出し電子レンジで温めるのは既に書いた。

あとはオーダーと会計のシステムが独特だ。

お客さんは席に置かれたタブレットでオーダーする。オーダーは電送され、ショウの頭上にあるスクリーンに映し出される。

ショウはオーダーされた料理を温め、パントリーから出す。その時に皿にはチップが入っていてセンサーでチェックを受ける。チェックを受けた後にお客ごとの伝票に加算されていく。

最後にお客さんは会計するのだが、席に置かれた番号札を入り口に置かれた会計の機械にかざすと、明細と会計金額が出てくるので現金かカードで支払う。

閉店後よくある現金の集計も真澄はタッチしない。会計の機械は警備会社が管理しており、その日の売上は夜の間に警備会社が銀行に持って行ってしまう。真澄が把握している売上と現金の差異は翌日報告されるが、毎日ほぼ一致する。

そんなカラクリのおかげで真澄は接客に専念できるのでますますお客さんが増えていくのだ。

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