2.大女将


「アラッ、ショウちゃんお疲れサン。今日も売れたかえ?」

「ハイ、おかみさん。たぶん今日も30万円コースだと思います。メッチャ忙しかったから」

「そりゃ、よかったわぁ〜」

「おかみさん、洗い場借りますね」

「どうぞ使っておくれ」

ショウはおかみと呼んだ関西弁で話す美人の女性から洗い場を借りて皿を洗浄する。

「ショウちゃんも良く働くきに、給料ぎょうさんもらいおるからガールフレンドになんか買ってやらなぁあかんなぁ」

「ママ、ガールフレンドなんていませんよぉー」

その時女将とは別の白衣を着た美人の女性がガッシャンと皿がギッシリ入ったコンテナをショウの横に置く。

「ダラダラしゃべってやってると終わらんケン。次がつかえてるケン、サッサとやって」

「アッ、美樹さんゴメンなさい。もうちょっとで終わりますから」

「早く下に戻らないと真澄さんがたいへんやケン。手伝うからサッサと終わらせるっ」

「はい…」

美樹と呼ばれる女性は皿をガッシャンガッシャン洗浄器に投げ込む。

「何カリカリしてんやろねぇ〜。まっさかショウちゃんにやきぃもち焼いてんやろか?まっさかなぁ〜。別に次なんかぁ〜だぁ〜れも待っておらんしィ」

ママの挑発に乗ったかのように、美樹は皿を洗浄器にさらにガッシャンガッシャン突っ込む。

「美樹ちゃん。それじゃ真澄さんの店の皿がみんな割れてしまいますわぁ〜」

ママはカサに掛かってますます挑発する。

「うるさいッ‼︎」


「ありがとうございました〜」

真澄は最後のお客を送り出して深々と頭を下げる。入り口の鍵を閉め、エントランスの証明を消す。

ふ〜っ、とため息を突いて、一升瓶の空き瓶ケースに腰掛ける。俯いて目を閉じる。一瞬睡眠に落ちる。


「真澄さん」

自分の名前を呼ばれて真澄はフッと目を覚ます。

「アッ、おかみさんお疲れさまです」

「今日もぎょうさん売ってくれましたなぁ〜」

「今日は35万ですね。たぶんオープニングの日の次に売れましたね」

「真澄さん、そんな頑張らなくともいいんやないのぉ〜」

「いや〜、お客さん着いちゃってるから期待を裏切れなくて。それにお客さん着いているのは美樹さんの料理が美味しいからで、私の力じゃないですから〜」

「そおは言ってもなぁ〜。このまんまやとあなた潰れてしまいますわぁ〜」


ショウが1階に戻ってくる。

「ママ戻りました〜」

ショウは今度はシンクに下げられたグラスを洗っていく。

「ショウちゃんありがとうね。もう動けなくなっちゃって。おかみさんにも無理し過ぎだって言われちゃったわ」

「そうだよ、ママ。忙しい時は入店制限したほうがいいよ。ママの場合お客さん詰め込み過ぎ」

「そうは言ってもねぇ〜。みんな大事な常連さんばっかりだし」

「別に断るとかじゃなくても、ちょっと10分だけ待ってもらうだけでぜんぜん違うんだよね。回転が早過ぎてそうやって疲れちゃうんだよ」

「そうねぇ〜、座って待ってていただけるようなウェイティングスペースがあればいいのにねぇ」

ショウはガクッとコケる。

「ママ。座って待ってて、入店して立って飲む居酒屋なんて見たことないよ」

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