第11話 革命の胎動
その日、私はミリーに報告を受けていた。
「は? もう一度言って」
「ですから、リヴァリアの領地にあたるセフィエド地区にて革命軍が決起したとの報告を受けました」
「革命軍……ねぇ?」
私にとって、内乱は初めての経験ではない。この可憐でか弱い私が皇女を勤めているというのに、何故か他国の数十倍の頻度で革命やら内乱が起こっている。その度に虐殺という名の救済を私は繰り広げていた訳だが、ここ数年は民衆も懲りたのか、そ頻度は減少傾向にあったはず。
「懐かしいわね」
内乱、革命という単語を耳にして、私が一番に考えるのは暇潰しの遊びができるということ。お姫様という身分には、何かと娯楽が足りていないのだ。
「アーシア姫様、今回は今までのようにはいかないかもしれません」
すぐにでも舌なめずりしそうな私をミリーが諫める。
「なんでよ?」
私は不満げに口を尖らせながら、ミリーの続く言葉を待った。
「革命軍のリーダーに、例の女神持ちに似た風貌の男が報告されております」
「…………」
ミリーの指摘に、私は一瞬だけ動きを止める。
「へぇ……。詳しく聞きましょうか?」
「かしこまりました」
ミリーは真剣な私の声色に姿勢を正す。
「元々、この話はセフィエド地区に実家があって、現在、所用で長期休暇中の私の同僚から知らされた情報です」
「その子、信用できるの?」
「はい。知り合って長いですし、能力的にも人格的にも申し分ありません。私が保証します」
「そう。なら信じるわ」
ミリーがそう言うなら信頼できる。もし偽情報だったらおしおきだけどね。
「ありがとうございます。その同僚――アレットと申しますが、両親が代々商人を営んでおりまして、その情報網で今回の件が発覚したと……」
「なるほどねぇ。それにしても、休暇中によく連絡してくれたわね」
「そこは彼女も城で働いて長いですし……何よりも身の潔白を証明したいんだと思います」
「身の潔白?」
「はい」
ミリーは頷いて続ける。
「どうやら、革命軍にブレンダー商会が絡んでいるようでして……」
「ふ、ふふふ……」
私は思わず笑う。リヴァリアで一番有名なブレンダー商会が絡んでいるという情報に素直に驚いたのもある。ただ、それ以上に――。
「なるほど。同じ地方を拠点とする商会だから巻き込まれたくないと……」
商人というのはどいつもこいつも抜け目ない。先の展望を見据えて冷静に行動できる人材はもちろん私も好んでいる。つまりはそういうことは。ピンチをチャンスに変える。アレットという子の商会は私に情報を売り、同時に自分達の有用性も売り込んでいるのだ。
「アレット、ちゃん? ……の商会は何ていうの?」
「ジャスティン商会です」
「覚えておくわ」
ミリーが一礼する。ミリーも上手く話を通してくれと頼まれていたに違いない。まぁ、私としても、使える有能な人材が増えるなら、何も問題はない。仮に使えなかった場合の覚悟も決めておいてもらわないと困るけれどね。
それにしても、
「ブレンナー商会ねぇ……」
リヴァリア国内の大手商会ではあるけど、歴史も浅い上にリヴァリア王家とも繋がりは薄い。だからこそ革命なんて起こす気になるんだろうけど、ブレンナー商会に無くなられると困ったことになるのも事実だった。
「例の規制緩和の件ですね」
「まぁね」
ミリーの指摘に、私は肯定を示す。
元々、リヴァリアは自国の商会を守ろうと、外からの個人商人や商会の受け入れに大きな規制を加えていた。それをここ数年で段階的にではあるが、どんどんと規制を緩和して外から受け入れて、競争をさせている最中だ。しかし、リヴァリアの独特な国民性や、規制緩和をしたことが現時点で外国に対してあまり知られていないため、極小規模な受け入れや競争しか起きてはいない。今はまだ早すぎるのだ。仮に今国内最大手のブレンナー商会が消滅すると、国内の流通が一気に困窮する可能性があった。
「ジャスティン商会とブレンダー商会を統合……なんて無理かしら?」
「どうでしょう……。ジャスティン商会は小規模ではありませんが、ブレンナー商会には規模的にとても及びません。この場合の統合ですと、ジャスティン商会が主導という形になりますが、自身よりも大規模の商会を取り込んで、さらに経営していくとなると……」
「ま、無理よね」
商会の運営とは別に、大人数の社員を管理するノウハウや経験も問われることになる。時間をかければ不可能ではないだろうけど、すぐには無理だ。ブレンナー商会の古株に一時任せる手もあるけど、できるならそれはしたくない。
「はぁ……とりあえず、それは後で考えるとして――」
こめかみの辺りを解すように揉む。そして、ようやく本題に入ることにした。
「女神持ちの男についての情報はどこから?」
「それもアレットです」
「アレットやるわね……」
私は感心を示す。
「アレットが一番保身に必死なんだと思います。姫様の恐ろしさを間近で見てますから」
「恐ろしさって……失礼ね」
私はこんなに可憐な乙女なのに……。
「女神持ちの男の特徴については、先の事件が領土内で起こったものもあって、城で働くすべての人間に周知しておきました。また、アレットはセフィエド地区で行動中の男を追跡して魔術を扱う場面も目撃したようです」
「そう、魔術を」
これは、確定かもしれない。
この世界における魔術は誰もに扱える力ではない。適正と才能の両方があって初めて人並みに扱える力だ。ゆえに魔術師は高給だし、たった一人で戦局を左右する。
男が女神持ちではなかったとしても、危険な存在に変わりない。何故なら、リヴァリアでは魔術の適正を持つ人間はすべて記録、保管されてあるからだ。私の記憶にある限り、革命軍のリーダーを務めるほどの力を持った人間はリヴァリアには存在しない。必然、少なくとも外からきた人間だと推察できた。
「さて、どうしましょうか」
口元に人差し指を軽く挟んで、私は考える。
今すぐに乗り込んでいって制圧することも、十分に可能だ。だが、それではあまりにもつまらない。獲物を前に舌なめずりは三流。二流は粛々と潰す。なら――一流は?
私は唇をペロリと嘗める。
「一流は十分に肥え太らしてから圧倒的力でねじ伏せるのよ!」
ミリーが隣で、小さく溜息を吐いた。
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