魑魅魍魎、跳梁跋扈、百鬼夜行


 天使のラッパが高らかに鳴り響き、破滅をもたらす魔物の軍勢が溢れ出す。


 赤銅の鱗を持つドラゴン、

 見上げるほどの巨人、

 毛むくじゃらの大男、

 呻くゾンビの群れ、

 機械兵の軍勢、

 骸骨の戦士団、

 返り血を浴びた騎兵隊、

 禍々しい魔力を纏う魔法使い、

 歌う子供達、

 三つ首の番犬、

 六本腕の豪傑、

 九尾の狐、

 人型の女王蜂とその配下、

 武装したオークの集団、

 巨大なスライム、

 異形の体を持つキマイラ、

 獰猛に唸る大熊、

 鋭い牙を持つ兎、

 甲高く鳴くワイバーン、

 雄々しきルフ鳥、

 嗤う釣瓶落とし、

 空を飛ぶ火車、

 毒を吐く牛鬼――


 魑魅魍魎、

 跳梁跋扈、

 百鬼夜行。


 地下十階だけではない。地下十一階の、この世界にやってきたばかりの本までもが魔物化し、深淵から這い出してくる――!

「こ、このままでは不味い! 一度地下十階を封印して――って、おい、二人とも、聞いているのか?!」


「――斬る!」

「――殺す!」


 アニスが何か叫んでいたが、それが耳に届く前に、俺と姉さんは魔物の群れへと突っ込んでいた。

 間合いに入った魔物は、なんであろうと斬っていく。起きてはならない大問題が起こってしまったのだ。事態を沈静化させる為にも斬る、斬り続ける!

 姉さんの一刀によって巨大な怪鳥が斬り伏せられ、紙が花と舞う。その合間を縫って現れた火を吹くドラゴンを、俺はその炎ごと斬り裂いた。

「数が多いですね……。それに普段よりも若干疲れるような」

「忘れるな、誠治。大結界が崩壊した今、不変の魔法は解除されている。外と同等に疲労が返ってくるぞ」

「……!」

 完全に失念していて、ぞっとする。この数ヶ月で大図書館の空気に慣れ切っていたから、体力配分を完全に誤っていた。

 早く処理しなければ。焦りばかりが募る中、改めて剣を構えたところで、


「話を聞け、馬鹿者!」


 アニスの怒号が響き、背を押すほどの突風が吹き抜け、風の刃となって魔物を切り裂いていく。その声に振り向いたところで、アニスが更に叫んだ。

「優先順位を間違えるな! すぐに上に上がれ!」

「どうして――、ッ!!」

 姉さんが何かに気付いた様子を見せ、直後にその姿が消え失せる。向かった方向には階段があった。

「ど、どういうことです、アニス?」

「大結界の崩壊直後、噴き出した魔力に当てられて、地下六階以下の本も魔物化し始めている。最悪、浄化した本が再び魔物化する危険性が出てきた。先の本のようにな」

「そ、そんな!」

「地上階にある本は、魔物といっても温厚なものばかりだ。だが、地下階――特に地下三階から五階はその限りではないし、それらが利用者を襲う危険性がある。その救護が先だ!」

「は、はい!」

 ふわりと浮かび、空を切るように飛んでいくアニスの後を追う。


 状況は、想定よりも遥かに深刻だったのだ。まだまだ周囲に魔物は多いが、斬り伏せる相手の優先順位を間違えてはならない。

 突然の状況が続き、混乱し続けている頭を『人命救助』の一言で黙らせ――駆ける。



 

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