誠治と舞 (後)


 白刃が煌く。

 火花が散る。


 受ける刃は、力強さを取り戻していた。

 そこに、姉さんの想いを感じ取る。


 幼い頃は俺を邪魔に感じ、すぐに泣く弱い男だと思っていたこと。

 それでも、少しずつ実力を伸ばしていく様子に好感を持ち、気付けば一緒にいるのが心地よくなっていたこと。

 姉さん、と呼ばれる嬉しさ。むず痒さ。

 手料理の味。

 初めて祝ってもらった誕生日と、綺麗なケーキ。

 俺と一緒に過ごした十年間と――その断絶。

 灰色の日々。

 長い長い五年間。

 悩みも、苦しみも、アニスには打ち明けられない。

 片斬になってしまった以上は、全て抱えていくしかない。

 死ぬまで続く、今日と同じ明日。

 だがそこに、再び俺が現れた。


「俺は、二人の世界を変えに来たのです」

「……いいや。世界を壊しに――だろう?」


 如月隊、補欠。

 嘘のような話。

 日々は彩りを増した。

 否定しなければいけないのに。

 受け入れてはいけないのに――


「姉さん」

「誠治がそう呼んでくれるから、私は……」


 嬉しくて、

 楽しくて、

 愛しくて。


「誠治の出生を知って、思ったんだ。片斬家は誠治を認めない。でも、私の『弟』にしてしまえば、ずっと一緒にいられるって。なのに、私……」

「姉さん……」

「……でも、誠治の相手が姉様でよかった。見知らぬ相手なら納得出来なかったけど、姉様なら、解るよ。私だって、あの人が好きだから。大好きだから」


 白刃が煌く。

 火花が散る。


「博識で、好奇心豊かで、ユーモアがあって、姉様は本当に素敵な人だ。……だから、解ってたんだ。誠治が、ずっと姉様を見ていたことは。でも、私は何もしなかった。姉であることに甘えてたんだ。だから、それが悔しい。誠治を振り向かせる努力を怠った自分が、許せない。……今からじゃ、遅いよな?」

「――はい。俺はアニスを愛していますから」

「……うん。それでこそ、私の誠治だ。そこで躊躇うようなら、男じゃない。――嗚呼、本当にいい男になったな。辛いけど、姉としてそれが凄く嬉しいよ」

 小さく、姉さんが笑う。

 目じりの赤い――懐かしい顔で。

「……片斬と魔女を外に連れ出す、か。簡単なことじゃないぞ」

「それでも、です」

「ふふ、ははは……。誠治、お前は本当に変わってないんだな。貪欲で、わがままで――いつだって、私を惑わせる。そういうところが、昔から好きだった。今も大好きだよ」


 白刃が煌く。

 火花が散る。


「嗚呼――私だって、そうだ」

 刃の向こうで、姉さんが泣き笑う。

「私だって、誠治になら斬られていいんだ」


 ふと、姉さんの正面ががら空きになる。

 美しい微笑みが、俺を見ている。

 だから俺は、

 躊躇いなく、

 剣を―― 

 

「――だが、その前に殺す!」


「そうでなくては!」

 振り下ろした一刀は、目にも止まらぬ早業で弾き返され――

 ――返す刀で打ち込まれた力強い一撃を、笑みで受け止める。


 白刃が煌く。

 火花が散る。


 互いの涙と汗が混ざり合い、

 剣戟の音が派手に響き渡る。

 幾度となく体に覚えこませた型を繰り返し、繰り返し。

 踊るように、

 歌うように、


 語らいは続いていく。



 

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