幕間

みつけたもの


「――こんにちは。今日も案内を頼めるかしら」


 おっとりとした声に足を止めると、利用者である金髪の女性が微笑んでいた。

 書架に僅かにもたれかかるその姿は、たおやかで美しい。

 思わず見惚れてしまいながらも、問われた本のある場所へと案内を始めた。


 移動中、すれ違った同僚達がこちらに気付き、悔しそうな顔や、舌打ちをするのに気付く。それに優越感を覚えながら、女性と共に北区画の奥――人気のない方へ。

 ちらりと隣を見ると、彼女と目が合って、慌てて視線を前に戻した。


 会話はあるが、彼女のことが気になってしまって、上の空だ。

 話したいこと、聞きたいことは沢山あるのに、上手く言葉が出てこない。

 そうこうしていると、あっという間に目的の場所に到着してしまった。

 普段は長く感じる移動の時間も、彼女といる時は一瞬で、何のアプローチも出来ない自分に後悔が募る。

「ありがとう」

 と微笑んで、彼女が書架へと歩いていき、背表紙を確認し始めた。


 今日も、彼女は首から下の露出がない、長袖の服を着ている――が、タイトなそれは体の線を強調していて、豊かな胸元から、すらりとした腰回り、丸みのある尻から脚の形と、美しくも扇情的なシルエットを浮かび上がらせている。

 本を探している間は、背伸びをしたり、やや前かがみになったりするから、余計だった。


 案内が終わった時点で、ここに留まる理由はない。それでも目を離せずにいたところで、不意に彼女がこちらへと振り返り――目が合って、慌てて視線を逸らす。

 その微笑みは聖母のようで、罪悪感の中に背徳感が混ざる。

 後ろめたさと、ほの暗い期待が渦巻く。


 そっと視線を戻すと、彼女がすぐ目の前にやってきていて、鼓動が跳ねた。

 エメラルドの瞳が揺れている。


「ねぇ、司書さん。貴方に聞きたいことがあるの」


 優しい声が、耳朶を震わせる。

 甘い香りに包まれ、体が動かなくなる。

 彼女がこちらの首元に手を回し、豊かな双丘が柔らかく形を変えた。


「私に、教えてくださる……?」


 とろん、とした目元。

 桜色に上気した頬。

 赤く艶やかな唇が、ゆっくりと開く。


「――教えて、貴方の全てを。そうしたら、好きなことを好きなだけさせてあげる。好きなだけしてあげる。――いつもみたいに、ね」


 体が動かない。

 頭が動かない。

 逃げよう――なんて考えは、最初からなかった。


「貴方だけが特別なの。貴方なら――貴方だけが、私――」


 甘い声が響く。

 自分の体が、自分のものではなくなっていくかのような感覚。

 立っていることが出来なくなって、床にへたり込む。

 そこへ、彼女が圧しかかってくる―― 


「今日も沢山知りたいの。大図書館のこと。片斬のこと。司書のこと。それと……」

 

 嘘吐きの魔女が、僕を見下ろす。


「――神木・誠治のこと、教えてくださる?」



 

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