第3章 バラバラ園で退廃をキス(エデン)
1
ヘビとカメが水槽の中にいる。あまり気持ちのいい展示ではないせいか、誰もいない。どちらかというと俺も早いこと立ち去りたい。
陣内探偵が迷わずやってきたのは、動物園の中にある爬虫類とか両生類とかそういう系を一堂に集めた建物。案内図も見ずに一直線だったので、過去に足を運んだことがあるのかもしれない。
ビャクローは、堂々と観賞用ベンチに腰かけていた。
ビャクロー?だと思うのだが。
俺のおぼろげな記憶からすると、爬虫類みたいな見た目の少女だったと思うし、事実ついさっき港で会ったときは女だったと思う。
胸の辺りまで伸びる真っ白の長髪。一本一本が細いのだろう。ウェーブというよりまとまっていないだけ。首から毛先にかけてが特に。
骨格や身長すら違う。なのでやっぱり別人なのかと思ったが。
「さっきはどーも?」とか言うので。
声も違わないか。男の声じゃん。
外見は割と、イケメン枠だ。
「朝のアレはよ、ここいじくられすぎてもう使いもんなんねえんなんだわ」ビャクローが言う。自分のこめかみをトントンつつきながら。「つーわけで、すぱっーと廃棄して、新しいのを補充したってわけ? りえーちゃんはこっちのが好みィ? あ、年上好きだっけりえーちゃん」
「ベイ=ジンが来てないか」陣内探偵が言う。一応俺を後ろに隠してくれた。
「さーてねぇ」ビャクローが肩を竦める。「俺が聞いてんのは、デートするから邪魔すんなってことくれぇかな。りえーちゃんの部下の、えーっと、アレだ。ダムダムくん??」
「ムダくん」
「そう、それよ」ビャクローが指を鳴らす。「チューザはぶっ殺したし、あとはあいつがダムくんだかムダムダくんだかと一発ヤっちまえば、それで終わり、つーわけ。単純な話だろ?」
「もう一遍聞く。ベイ=ジンはどこに潜伏してる?」陣内探偵は一切動じていない。
「言ったらぶっ殺しに行くんだろ?にーさんよ」ビャクローが言う。前のめりに両手を脚の間で組む。「いんや、俺のが年上かな? エンデちゃん元気ィ? まだ元気にせっせこストーカーしてんのぉ?」
「どこかにはいるんだな?」陣内探偵が食い下がる。「胎ん中のは、正統な後継者なのか」
「よーく知ってんねぇ、えーっと?ちひろっつーと怒るんだっけか。ちーろちゃん」ビャクローが嗤う。「たぶん、思ってるとーりでせーかい。こいつのカラクリに気ィついてさっさとぶっ殺さねぇとよ、あいつも生まれ損だからな。今度こそ、今度こそは生まれてきた意味みてぇなもんを感じさせてやりてーんだが」
「お前もあとがない」陣内探偵が言う。「人体は500年もつように作られてない」
全然部外者で意味がわかっていない俺に憐みを感じたのか、ビャクローが視線を寄越す。
「りえーちゃんすっげー美人になっちゃったねぇ。こりゃおにーさんが裏山だわ」
「スーザちゃんも、本部長も、お前が殺した?」言ってからどろどろした感情が逆流してきた。「ムダくんも殺すの?」
「まぁまぁ落ち着いてーって」ビャクローが手を上げて下ろす。「おにーさん生きてんだろ? 眼ェ覚めたら聞いてみたら? さーって、出血大サービスタイムはここまで。そろそろ行かなきゃなんねーから。じゃね」
「待て」陣内探偵がいち早く動いたが。
ビャクローのほうが早かった。ベンチに手をつき、バク転した勢いで階段まで一気に距離を詰めて。
急いで追いかけたが背中も捉まえられなかった。
「どうします?」陣内探偵の背中に聞く。
「あいつは本命じゃない。放っといても役目が終わりゃあ勝手に壊れる。実はここからがデートってのになる」
陣内探偵に連れてこられた場所は、まさかの高級ホテル。
こんなことならもっと外見にお金かければよかった。確実に浮いてるじゃん。
陣内探偵の指示の下、煌びやかなラウンジのソファで待つことに。
誰を?
「いいか、知らないフリしとけよ」陣内探偵はエントランスに背を向けている。
誰が通ったら平静を装えなくなるか。
ムダくんと祝多とか?
「来た。動くなよ」隣にいた陣内探偵が俺の肩を抱いた。
まさかこの一瞬のためだけに連れ出されたか。
誰が通ったかすごく見たいけど、身動きすら取れないくらいにがっちりと抱き寄せられてるのでなんともはや。というか抱き寄せられたお陰で気づいたんだけど。
「これか?」陣内探偵が小声で言う。「昔、ちょっとな」
コートの袖に隠れてわからなかった。
陣内探偵は、左手の中指がない。ないという言い方は正しくない。生まれたときはあったのだろうと思う。第2関節から先がない。
事故か。
「追うぞ」
ところで誰が通ったのか知りたかったのだが、それはすぐにわかる。
スーザちゃん?じゃない。
朝方、港にいた黒い少女。スーザちゃんの双子の妹だとかいう。
「あら、ごきげんよう。トール、ちーろ」
同じく、ビャクロー。黒い少女の手を引いている。
もしかして、黒い少女は眼が見えない? いや、でも俺も陣内探偵も一言も発していない。気配だけでわかるもんなのか?
「終わったか?」陣内探偵が聞く。
ポーチに横付けされたタクシーに黒い少女が乗り込もうとする。
のを遮ろうとした陣内探偵の前に、白い青年――ビャクローが立ちはだかる。
「万事予定通りすぎてつまんねーってね」べろりと赤い舌を出す。「つーか、ちーろちゃん、全部後手後手だけどよぉ、やる気あんのぉ? ヤってるとこ襲撃すりゃよかったのによ」
「お前らの狙いが俺と同じだってことを裏付けたかった。いまのとこ、だがな」
「同じィ? どーっかなぁ」ビャクローがにやりと笑う。大きな口が頬まで裂ける。「あ、そーだ。こいつ、助けてやってくんねぇ? さすがに全裸のまんまじゃかーいそっしょ」
放られた鍵を陣内探偵が受け取る。
その隙に、タクシーが発車した。
「行っちゃいますけど?」
「だいじな部下、助けなくていいのか?」陣内探偵はエントランスに逆戻りする。
「え、うそ」
手遅れどころの問題じゃないじゃん。
すっごい事後でヤり捨てられてる部下の救出って。
「なんだその顔は。お前の部下だろう、課長サン」
「いや、でも、こうゆうのって」
ムダくんだし。自力で逃げそうなもんだけど。
エレベータで最上階へ。
電子ロックを解除。
オレンジ色の照明が眼に慣れない。ベッドルームには、キングサイズのベッドが一つ。
シーツや布団がまったく乱れていなくて逆に不気味だった。
どこからか水の音が。
「こっちだ」陣内探偵が向かったのは、奥のバスルーム。「何してる?入るぞ」
「いや、その、お先にどうぞと言いますか」
開けてビックリ。
「あ、え? なんで?? ていうかどなたです?」ムダくんがフツーに全裸で湯船浸かってた。
なんか、腹が立つを通り越して。
「なんか投げつけるものないすかね?」陣内探偵に聞いた。
「ちょっと外す」陣内探偵はそそくさと出て行った。
「いまの人誰ですか?」ムダくんが真っ白いバスタブから身を乗り出す。
「その質問に答えるのと、俺が今から一緒にお風呂入るのとどっちがいい?」
「いや、全然前者で」
バスタブの脇に腰掛けると、窓から市内が一望できた。
昼間なら。
いまは、夜景が見える。
「ところで今何時です?」ムダくんが言う。「この部屋どこにも時計がなくて」
「いつもしてるじゃん。どうしたの?」
「寝て起きたら服が一式見つからなくてですね。時計もどっか行っちゃったらしく」
ビャクローの言っていた、全裸のまんまてのはこういう意味か。
「んで、とりあえずすることないからお風呂入ってたってこと?」
「なんか怒ってません?」ムダくんがバスタブにつかまって顔を半分隠す。「さっきの人ですけど」
「そんなに気になる? もしかして好み?」
「なんで怒ってるんですか? あ」ムダくんが口をあんぐり開けた。
「思い当たった?」
「はい。すいませんでした」ムダくんが頭を下げる。「職務放棄して自分勝手に連絡も報告もなく単独行動とってました。すみません」
「わかればいいよ。いちお俺の部下なんだからね? 心配はしてないけど、そっちはそっちで事情があったんだと思うし」
事情。志遣の言っていたことが正しいなら。
「ムダくん、俺に隠してることない?」
「ないですよ」即答だった。「そろそろ上がるのでタオル取ってもらえますか?」
「誤魔化さないで!」声が響いた。「あ、いや、ごめん。そういうんじゃなくて」
怒っているんじゃない。
怒りたいのはむしろ、ムダくんの方だろう。
「俺のせいだ」
俺が救えなかったただ一人のメンバ。
ただ一人じゃないか。塑堂夜日古も救えてない。
一番最初の、俺が救えなかったメンバ。
「なんのことです?」ムダくんは自分でタオルをとりに行った。床に水たまりができる。「俺が捕まえたいのは、今も昔もただ一人ですよ」
「なんで嘘吐くの?」
「嘘も何も本当のことなので」ムダくんが身体を拭きながら言う。こちらに背を向けている。「ところで、本部長といい感じになってるってのは本当ですか? さっき気づいたんですけど、指のそれ」指輪。「そういうことじゃないんですか?」
返事ができなかった。
あの人はいまだ目覚めない。
「大丈夫ですよ。だいじな課長置いて死ねませんて」
聞きたいことがいっぱいあるんだよ。
何から聞いたらいいかわからないくらい、いっぱい。
その中で一番、聞きたいこと。
それは。
「本部長撃ったのって、ムダくん?」
ムダくんは、タオルを腰に巻いて振り返る。
銃口が。
こっちを向いてた。
「だったらどうします?」
「服も時計もなくてもそれは持ってるんだね」ゆっくり両手を挙げた。「俺も殺す?」
「僕の邪魔をするのなら」
撃つ気があるのかないのかいまいちわからない。
メガネのレンズが曇る。
「本部長は、邪魔をしたってこと?」
「誰も僕が撃ったなんて言ってないじゃないですか」ムダくんは瞬きすらしない。
見たことない顔だった。
たぶんこれなら、つい数分前までフツーに喋ってた知り合いだって平気で殺せる。
「僕がいま欲しいものがわかりますか?」
「なんだろう。女装でよければ貸すよ?」
「男物のほうがいいんですが、さっきの人。戻ってきませんかね」ムダくんがドアを見遣る。
「サイズが合わないんじゃない? 脚の長さとか。てかね、言ってくれたら服くらい買ってくるよ?」
「僕は急いでるんですよ」
「その割にお風呂入ってたじゃん」暢気に夜景見ながら。
「汗だくだったんですよ。わかってるんじゃないですか?」
黒い少女と一発か二発かわからないけどヤってたのか。
「手は下ろしていいので脱いでください。早く」ムダくんが距離を詰める。
「こうゆうプレイって興奮するね」首の後ろのファスナーを下ろす。
「あの、割と僕本気なんですけど」
首の後ろが冷たい。
銃口か。
「一発付き合ったら見逃してくれるとかっていう上司に対する温情はない?」
「ないですね。時間がないんですよ」
背中が冷たい。
「生きてるか?」突然ドアが開いて陣内探偵が顔を見せた。
「動かないで下さい」銃口が俺から逸れた。
「動かないと渡せないだろ」陣内探偵は銃なんかもろともせずバスルームに入ってきて。「ほら、取り返して来てやった。課長サンとお愉しみのとこ悪いが」
ムダくんが朝着てたシャツとズボン。時計もあった。
「時間がないとか言ってなかったか」陣内探偵が言う。
「はいはい、どうも」ムダくんが銃を構えたまま服を引っ手繰る。「てか、取り返してくれるんならひとこと言ってくださいよ。人が悪い」
同感以外の何物でもない。危うくお尻に穴が増えるところだった。
「言ってたら俺の服奪う気だったろ」陣内探偵が平然と言う。「俺はお前の敵じゃない。かと言って味方でもない。早く着てやることやってこい。先越されるぞ」
「どなたかは存じませんが、ご忠告どうも」ムダくんが適当にシャツを羽織って、ベルトを締めながら浴室を出ていく。
「行っちゃいますけど?」陣内探偵に確認する。
「用が済んだら帰ってくんだろ」陣内探偵のケータイが鳴る。おそらく龍華から。「生存確認ならいらねえって。あ? なんつった?」
急に語調が強くなったので吃驚した。
なにか、
あったのか。
「わーった。すぐ戻る」陣内探偵がドアを顎でしゃくる。先に行けということだ。「だからテメェは片付け。あ? なんだ、終わったのか。そりゃ、ごくろーさん」
「どうしたんです?」
「イブンシェルタだったか。観覧車乗せられてた男が一人、逃げたんだと。病院から」
イブンシェルタは女性しかいないから。
女性じゃないイブンシェルタ幹部は。
「
「そう、そいつ」陣内探偵がエレベータのボタンをグーで殴る。「面会謝絶が解けてこれから事情聴取ってときだったらしい」
たぶん、逃げたというより。
何かしに行った。
なんだろう。嫌な予感しかしない。
地獄から声がする。
弾はまだある。
「後追い、じゃないですよね?」口に出した瞬間それは現実に起りそうな気がしてきた。
「そいつの行きそうなとこは?」陣内探偵がタクシーを拾う。
あるけど間に合うか。
急ぐしかない。
元代表が待っているのが俺じゃなくて別の誰か、例えば、ご主人だったとする。
その場合、対話の機会が得られたとしても俺が助けられる可能性は皆無だ。
それでも行くか。
行くしかない。
ご主人は本当に死んだのか。
ご主人のことだからどこかで生きているような。いや、これは俺の願望だ。
真っ暗の夜。
外灯の数が心許ない。
あの夏の日、あの人が俺を拾った。
店の並びはあのときとは違うけど、通り自体はそのままある。
頼むから、眼を醒まして。
悔いが残らないために俺にプロポーズしたって、たった一晩じゃないか。
あなたはそれで満足かもしれないけど、残された俺は?
いつもいつも自分勝手で人のことなんか考えもしない。そうゆうところが、気に入らないって言ってるのに。
眼を醒ましてくれなかったら、それも言えない。
先に逝かないって言ったじゃないか。なんとかするって言ったのに。
なんともできてない。
「大丈夫か?」陣内探偵が言う。タクシーを降りたタイミングで。
「あ、はい」
エレベータで3階へ。
「無理に押さえようとしないほうがいい。聞いてもらえそうな奴がいたら聞いてもらえ」
ご主人もムダくんもいないとなると、妖怪露出狂くらいしか捉まりそうなのがいないのがつらい。
3階のエレベータ前は無人だった。
祝多出張サービス。ここにいると思ったのだが。
下か。
2階に下りる。対策課事務所。
いた。
ショートボブの髪。グレイのフォーマル上下。とても男には見えないが女装なのだ。現に女装してる俺が言うから間違いない。
「元代表」声をかけた。「対策課にご用事ですか?」
「
「それを俺に伝えに?」
「病院から逃げて来た怪我人にしちゃ、随分めかし込んでるじゃねえか」陣内探偵が言う。「お前本当に観覧車の被害者か?」
距離を取る前に突き飛ばされた。
「陣内さん!?」尻持ちをついた。
「弾はまだあるんです。夜妃の遺志は私たちが引き継ぎます」元代表が笑顔で立っている。
滴る。
それは、
なにいろ?
「おい、何やって」陣内探偵が手を伸ばす。
「生まれ方は選べません。でも、死に方なら選べる」元代表は俺を見ている。「二代目がいないなら、もう私たちが救われることはありません。さようなら」
刺した。
それは、
なに?
「おい!」
倒れた。
元代表を抱き起こす。陣内探偵が刺さった部位を確認する。
血が。
止まらない。
「早く! 救急車!!」陣内探偵が叫ぶ。
どうせ死ぬなら、
病院でやってくれればよかったのに。
助からないじゃん、それじゃ。
2
救急車のサイレンが聞こえる。
19時59分。
朝来た芸術センターに隣接する屋根の上。
水が張られて、水玉が浮く現代アート。
縁にタ=イオワン、もといベイ=ジンが腰掛けている。
「あと1分で閉館なんやけど」
「間に合った、て言ってよ」銃口を向けながら近づく。「まだ殺されてなかったってことは、あいつらは返り討ちにあったってこと?」
ゲングウとビャクロー。
先んじて討伐に出掛けたはずだが。
「心配なんかしよるんか? ムダくんが」
「殺す手間が省けたよね」引き鉄に指をかける。「あと一人、というか二人に減ったし。これで終わる。地獄で待ってろ」
撃った。
当たった。
倒れて、水の中に落ちた。
浮いてくる。
水の色が変わる。
終わった。
20時01分。
エレベータは営業時間外で止まったので、階段で下りる。
螺旋階段は眼が回る。
地上に着いた。
さて、何をしよう。
ああ、そうか。
月を見て思い出した。
もう一人。
殺さないといけないガキがいる。
3
イブンシェルタ元代表
病院に着いたときにはすでに手遅れだった。
死ぬために、対策課の前に来たのだろう。
誰もいなかったらどうするつもりだったのか。
いや、俺が行くことを見越して待っていたのだ。
取り調べなんていう陰険な催しなんかすり抜けて。
我孫元代表は脚の骨が折れていたという。あの脚で病院から対策課まで歩いたらしい。
そうまでして、俺に死ぬところを見せたかったのか。
イブンシェルタの幹部は残り4名。
全員を妖怪露出狂のところで拘束するしかない。死なせないために。
「やってもいいが」先生が言う。夜だが電話に出てくれた。「万一死なれた場合に、管理者の私の責になるな」
「死なせなければいいんじゃないすか。個室にがんじがらめに縛ったりして」
「死ぬ奴はどうやったって死ぬ。死ぬ理由を考えろ。そこから逆算して防ぐほかない」
他の皆も同じ意見。
夜妃の遺志は私たちが引き継ぐ。
二代目がいないなら。
「最近ご主人と連絡って取れてます?」
「死んだらしいな」先生は事もなげに言う。「しかし後追いとはな。あいつも存外人望があったわけか。だいじなことはいつも死んでからわかる」
「で、どうなんです? やってもらえるのかどうか」
「大王は? ああ、意識がないんだったか。後釜がいるんだろう?」
志遣は。
「好きにやれだそうで」
「ほお、最高責任者にしては、随分と物分かりのいい」先生が言う。「素晴らしい上司を持ったな、甘味料」
「ふざけないでください!!」
廊下に声が響いた。
陣内探偵がこちらを見る。
大声出してばっか。今日はこんなんばっか。
「すまんすまん。貴重な休憩時間を邪魔されたんでな。ちょっとからかってやるつもりだったんだが、言いすぎた。謝りついでに、仕方ない」先生が息を吐く。「搬送だけやってくれ。4室空けて待っている」
「最初からそう言ってください」陣内探偵に目線で合図する。要望が叶ったと。
陣内探偵が志遣に連絡する。
「礼を言われる筋合いはないぞ。そもそもあいつらは私の患者だ」先生が言う。「そっちの準備ができ次第さっさと来るといい。お前一人じゃ荷が重かろう。ムダくんはどうした?」
「絶賛単独行動中すね」
「お前ごときじゃ御せないだろう。なにせ私が見込んだ男だ」先生が鼻で笑う。「そうか。祝多が帰ってきたか。同志の私への挨拶は最後かな」
「祝多は」
「その話は直接しよう。話したいことを簡潔にまとめておけよ」
「3つだけじゃないんすか?」
「いくつでも聞くさ。一人ぼっちで頑張るお前の話相手になってやるよ」先生が言う。「忘れているようだから言うが、お前も私の患者だからな。話を聞く義務がある」
いつもは気に障ることが多い妖怪露出狂の発言だが、今日はなんだかとても頼もしく聞こえた。それが手口なんだと思う。先生は弁舌と感情を切り離すことに関して並ぶ者のない精神科医だ。
電話を切って臨時のほうの対策課事務所に向かう。掘立小屋内は、見違えるほど片付いていた。同じ建物だとは思えない。そう伝えたら、龍華は、礼を言うくらいなら捜査に参加させろとのこと。
「だいたい僕は研修に来てるんですけど。2週間しかないんですよ? すでに一日浪費しました。現時刻をもって改善していただけるものと期待しますが」
「おい、あんま無理言うな」陣内探偵が諌めてくれる。
「鬼立本部長だって、今回の立ち上げにノリノリじゃないですか。第一ね、発案は僕です。口封じ代わりに課長のポストをくれましたけど、僕は納得してない」
「あんまキリュウに噛みつくな。あいつだって」
「頑張ってる? 何遍も聞きましたよ、それはそれは何遍も」
「あの、俺邪魔なら」
二人の関係は、ただの探偵と刑事では説明できそうにない。
そう、いわば。
「元彼とかです?」
「はぁ??」最初に反応したのは陣内探偵だった。「どこをどうしたらこんな坊ちゃんと」
「すいません、ないです」龍華が言う。多少顔が引き攣り気味で。「ないってことにしといてください」
「莫迦か。完全に否定だ」陣内探偵が座り直す。「いいか。この坊ちゃんの言うことは基本無視していい」
「なんでです? 僕が役に立たなかったことなんかありましたか?」
「憶えてない。うるさい」陣内探偵が眼を瞑って腕を組んだ。「ちょっと寝る。お前は起こすな」
「はいはい。ごゆっくり」龍華が苦笑いする。
22時を回った。気が張って眼が冴える。
「どうです? ご飯とか。こんな時間ですけど」龍華がノートPCを折り畳む。「というか、この辺のことわからないので案内していただくことになりますが」
「俺は構いませんが」ちらっと陣内探偵を見た。
「俺はいい。行って来い」陣内探偵が眼を瞑ったまま手を振った。
「飲み物とか買ってきますね」龍華が手を振り返す。
近くのファミレスに入る。人はまばら。店員はこんな時間だがちゃんと営業スマイルをくれた。それがプロか。
適当に注文を終える。カロリー計算が面倒くさいので、いま食べたいものを選んだ。
「失礼ですけど、というか初めて会ったときから聞こうと思って一日経っちゃったんですが」龍華がおてふきで爪の先まで念入りに手を拭く。「本当は女の方なんじゃないですか?」
「どうしてそう思われるんでしょう」
若干気分を損ねたが、龍華の思考形態に興味があった。
「だって、女性にしか見えませんもん」龍華が言う。何を当たり前のことを、というような口調で。「お綺麗ですよ。あ、こうゆうのってセクハラですっけ?」
拍子抜け。男脳の生理的な勘か。
「いろいろすみませんでした」龍華が突然頭を下げる。「あんな状況で不躾なことをいろいろ言いましたよね」
「なんでしたっけ?」
いろいろありすぎていちいち憶えてられない。
「その、指輪」龍華が目線で指差す。「そういうことなら言ってくださいよ。探偵さんから聞きました」
あれ? 陣内探偵にその話したかな。
お見通しってことか。
「そちらの対策課は、どなたの発案なんですか?」龍華が言う。
「世間話なら気を遣わなくていいですよ」
ちょうど注文していたものが揃った。この時間のパフェは魅惑的だ。
「じゃあ本題です」龍華がフォークを手に取る。「徒村等良は、生きてると思いますか?」
「どういう意味です?」
地獄が叫ぶ。
もう私たちが救われることはありません。
生まれ方は選べません。でも、死に方なら選べる。
イチゴの種が歯に挟まった。
4
対策課事務所。
無人だとわかっていて帰ってきた。
23時13分。
鍵は開いていた。
不用心だ。
部屋は暗かった。
「つけないでくださいます?」ソファに座っていた影が言った。「あと、鍵を」
言われた通りにした。
影がドアを開ける。入ってすぐのスペースは依頼人用。厳密には、影が開けたドアの向こうが事務所だ。
カーテンは閉まっていた。遮光ではないので薄っすら月明かりが差し込む。
「どうぞ? お座りになって」
「名前を呼んでいい?」座ってから聞いた。
「まだ仰らないで?」影が言う。影はデスクの向こうに立つ。
「わかった」
影の意図するところがわかったので、従うことにした。
「僕は君に会ったことがあるね」
「ええ」
「去年の夏よりもっと前に」
「ええ、一方的にですけれど」
PCモニタがこちらを向いた。スリープ状態が解け、映像が再生される。
聞き覚えのある主題歌。
思わず鼻歌がこぼれる。
「まあ、夢のバージョンですわね」
「僕の歌唱力がもうちょっとマシだったら、サントラとかのボーナストラックに収録されてたかもしれない」
影が耳を澄ませる。僕の下手くそな鼻歌に聴き入ってくれる。
オープニングが終わって本編が始まる。
第一話。
「当初はね、主人公に魅力がないってコテンパンに叩かれたんだよ。モデルから選ばれるケースが多いじゃん? 顔良しスタイル良しのよりどりみどりの束から」
「ですが、1クール目終了の第12話で一変」影がディスクを取り替える。再生。「ストーリィ的にも熱かったですけれど、スタントを一切使っていなかったそうですわね。顔でもスタイルでもなく、況してや演技力でもなく、立ち回りで選ばれたのだと、そう視聴者に知らしめた素晴らしい演出でしたわ」
「スーツアクターがいるんだから、主人公なんか顔良しルックス良しで選ぶのがフツーだと思うよ。お陰でいまはシリーズきっての異色作とかイロモノ扱いだし」
件の超有名シーンに差し掛かる。攫われたヒロインを連れ戻すため、単独で敵のアジトに潜入する主人公がやってのける大立ち回り。いまでもこのシーンだけ切り取った動画がネットに溢れ返っている。
「わたくしは、本作こそが至高ですのよ。ムダさん、いいえ」
影は、僕の当時の芸名を言った。
「わたくしだけのヒーロー」
窓が開いていた。風でカーテンが揺れる。
影の表情が見えた。
「だけ、てのは些か過激なファンだよね」
「もう誰もあなたの顔など憶えていませんわ。あなたは惜しまれながらヒーローを引退。もう誰のヒーローでもないのだから、わたくしだけの、と言っても誰の怨みも買いませんのよ」
「なるほど」
影が近づく。揺れているのはスカートの裾か。
逆光でよく見えない。
小さい手が、僕の胸の辺りで留まる。
「よかった。まだ生きていますわね」
「殺しそびれたガキがまだいるからね」
銃を突きつけることがわかったのだろう。
影は絶妙なタイミングで抱きついてきた。
なので、背中に銃口を押しつけた。
「このまま撃てば、ムダさんもただでは済みませんわよ?」
「それがね。なんかどうでもよくなってるんだ。一番の目的は達成しちゃったから」
タ=イオワンは、スーザちゃんが殺した。
タ=イオワンにそっくりの女性体、ベイ=ジンは僕が殺した。胎の子も一緒に。
残るは。
「君はゲングウであり、スーザちゃんでもある」
「まだ許可していませんわよ?」影の指先が、僕の背中をひっかく。シャツ越しに。
「ゲングウはずっと昔に死んでる。お陰で君がゲングウに成り替わるしかなかった。いや、ゲングウを引き受けたんだ。おそらく、ゲングウ本人と、ゲングウをずっとだいじに見守ってきたビャクローへの義理立てに」
「なんのことですの?」影の指が背中の表皮に食い込む。シャツの下に手が入っていた。
「僕は君がスーザちゃんだろうと、ゲングウだろうとどうだっていい。僕が気になってるのはただひとつ。君が、タ=イオワンとベイ=ジンどちらの血を引いているのかということ。いいや、どちら、じゃないよね。スーザちゃん」
その指がドリルとか類の掘削機じゃなくてよかった。
今頃僕の背中は、血まみれの穴だらけだ。
「後継者は君だよ。タ=イオワンを父に、ベイ=ジンを母に持つ
言おうとした口を塞がれる。舌が絡みつく。僕の言葉を残らず呑み込んでしまいたいという意志の表れだろう。
ソファに押し倒される。口に食らいつかれたまま。
「姉弟? 兄妹? いいえ、あのお二方は双子ですらない」影が至近距離で言う。灼熱の呼気が鼻にかかる。「成功例はわたくしだけ。でもママはわたくしとゲングウの区別がつかなかった。自分の子の区別がつかない親なんか、死んでしまえばよろしいのですわ」
「それで交換したの?」
「ええ、誰も気づきませんでしたけれどね」影が言う。「自業自得ですわ。ただひとつの成功例を、失敗作と勘違いして生殖能力を奪うなどと。発覚したときのママの顔。今でもはっきりと憶えていますのよ。ああこれで終わる。そう思いましたのに」
「ベイ=ジンは諦めなかった。何度も何度もゲングウを創った。そしてそのたびに失敗した。そのたびにビャクローは脳を削られ、どんどん人間から外れていった。君は見ていられなかった。優しいね。僕だったら自分だけ助かったことだけで満足なのに」
「セイルーに脚がないのは、わたくしへの無言の圧力とお思いでしょう?」
「違うの? ゲングウに眼玉がないのは、玉座に縛り付けるためだろうけど」
影が微笑む。もれた呼気が僕の唇を乾かす。
「ママの趣味を甘く見ていましてよ? セイルーは人魚に成り損ねたのですわ」
「失敗作?」
「どうでしょう。実はわたくしも、セイルーの脚は見たことありませんので、実際どうなっているかは」影の指が僕の輪郭をなぞる。「セイルーは別の方が担当なので、よく知らないというのが本音ですけれども」
「中立ってのは?」
「まあ、辞書をお引きになっては?」
またこれか。
「お怒りまして?」
「あきれたんだよ。やっぱりスーザちゃんだなぁって」
影の脚が絡まる。靴下もタイツも穿いてないようだった。
「ゲングウ相手に役は立ちまして?」
「さあ、どうだったかな。一緒に劇場版見た余韻で興奮して大立ち回りの指導とかはしたけど」
「まあ、いやらしい」
「健全だよ。なにもいかがわしいことはしてない」
影の手が、僕の股間で留まる。
「使い物になりますの?」
「実はあんまり自信ない」
「ですわね。そう伺っていますわ」
伺っている。
実際に見たことあるくせに。
まだ、誰なのかわからないブラックボックスのままでいるつもりなのか。
「君の正体はわかってる。君も、僕の正体がわかってる。いまさら何を隠すんだろう」
「わたくしの口からはとても」
「じゃあ僕が言おうか?」
影がしがみついてくる。強い強い力で。
「言わないでほしい?」
「なぜ知っているのにあえて口にしますの? 下劣で下品な行為ですわ」
自白は一種の浄化作用がある。
違う。
「僕はこれを言うことで君に僕を諦めてもらわないといけない。君は僕に好意をもっちゃいけない。君の血の濃さからすれば、こんなことなんでもないのかもしれないけど。世間一般的に言ったらタブーだ。その歪んだ愛を抱えたまま、君を地獄送りには出来ない」
銃を、影の後頭部に押し付けて引き鉄に指をかける。
「僕も知らなければよかった」
「ですから、知らないふりをしてくださいと言ってますのよ」
「できない」
「どうしてですの?」影が僕の眼を射抜く。「どうして、どうして世界をわたくしを苦しめる」
「君を苦しめてるのは世界じゃないよ。君の血だ。だから僕はベイ=ジンとその胎の子を殺してきた。君の苦しみを終わらせるために。あとは君だけだ。君が、僕を諦めてくれさえすれば」
「できませんわ」
「どうしてかな?」
「今度はムダさんが、どうしてと聞く番ですのね」影が僕の鼻先を指でつつく。「一度好きになった殿方をほいほいと変えることはできませんのよ。この血は、愛する者に食らいついて最後その身に取り込むまで満ち足りない。貪欲で強欲な血脈。ママが好きになった殿方は、最期どうなるのかご存じ?」
見たことがある。
あの部屋は、二度と入りたくない。再度入るときがあれば僕はもう、僕でなくなっている。その警告だった。
人形なんて生ぬるいもんじゃない。
あれは、人の生きた標本。
「あんなことをするくらいなら、わたくしはその肉を食らいたい。食べてしまいたい。そうすれば永久に一緒にいられますもの」
「歪んだ嗜好だね。そう考えるのは、君に■■がないから?」
ゆるくたわんだ空気が張り詰めて突き刺さる。
禍々しい殺意。
消えろ。亡くなれ。
「君にもそんな感情があるんだね」
「どうして」獣みたいな声だった。
「知ってるのかって?」銃はいつでも撃てる。「知ってるよ。その場に僕もいたから」
ソファから転げ落ちる。しゃがんで銃を構える。
我ながら遅くなった。反応速度とかそこらへん。
カーテンがはためく。
月がのぞく。
光と明かり。
「僕には知られたくなかった?」
闇が輪郭を取り戻す。
それは、眼のないゲングウであり子宮のないチューザであり。
タ=イオワンとベイ=ジンの血を誰よりも濃く受けた後継者であり。
僕の、敵。
悪より生まれ落ちた、悪の純正品。
「スーザちゃん。君は生まれないほうがよかった」
君を生むきっかけになってしまった僕からの手向けだ。
受け取ってほしい。
「さよなら、スーザちゃん」
朱が裂けた。
白が狂った。
青が流れて。
黒は、
「愚かな人ですね」
おかしい。
撃ったのは僕なのに。
なんで。
僕の方が。
動けない?
白い月が吼える。
侵入と逃走。
そうか。
気づかなかった。油断していた。
僕の、負けだ。
時計が見えない。
黒に染まって。
「ビャクロー、追いなさい。殺して! 早く!!」
Cライング3
痛い。
痛い。
泣き声が耳にこびりついて剥がれない。
■い少女から■■が摘出される。
彼女はそれを儀式だと言っていたが、気が狂っていなければこんなこと出来ない。
実の娘に。
誰かとこの気持ちを共有しなければ、自分の中で消化ができない。
「いつまで踏み止まっておられますの?」■い少女の姉だ。「あなたはもう、元いた世界には戻れませんのよ」
「諦めてはいないよ」
決して負け惜しみじゃない。
僕は本当に、ここから逃げ出す方法を毎日毎日考えている。
姉が哀れな虫を見るような表情で僕を視界に入れる。
「あの子は、わたくしの代わりに犠牲になったのですわ」姉が言う。「まだ誰も、ママですら気づいていませんけれど」
彼女の手足兼耳がすぐ近くを通ったので、姉の口を押さえて柱の陰に隠れる。
「まあ、乱暴ですこと」姉は全く動じていない。
姉には、■■がない。
気づいていないのか、或いは気にも留めないのか。
「ねえ、君はそれでいいの? 逃げたいとか思わないの?」
「いとこのお兄様を逃がした、いとこのお姉様が、先日ここから下を」姉が太ももの辺りで床と水平に手を動かす。「すべて、わたくしを逃がさないための脅迫ですのよ」
「一番上のお姉さんだがお兄さんだが、見るたびに性別が違うんだけど、おんなじ人なんだと思うんだけど、あの人は? 見た目特に」
「ここを」姉が自分のこめかみを指でつつく。「少しずつ削られていますわ。削ったそれを何に使っているかご存じ?」
「聞きたくないな」
姉がふふ、と笑って中庭に出る。紅い赤い薔薇が咲き誇る。
彼女の薔薇園。
「美しいでしょう?この世のものとは思えないくらい」
「まさか」思わず口を押さえた。「人食い薔薇じゃん」
「まだなにも言っていませんわよ」姉が薔薇を背に微笑む。■いワンピースが風に揺れる。「あなたは、わたくしがどちらに見えますかしら」
「クイズってこと?」
噴水を背に大理石に腰掛ける。姉が座る場所にハンカチを敷いた。
「まあ、紳士的ですのね」
「ねえ、君本当に■■ないの? 絶対見えてるよね」
「答えを聞きますわ」
「当ててほしいというよりは、誰かに気づいてほしい。存在を認めてほしいってところかな。どう? 君の狙いのことだけど」
「お見通しですのね」姉が言う。「ママは、気づいていてあえて決行なさったのでしょうか。それとも本当にわたくしとあの子の区別が付いていない」
「どうだろう。そもそもどっちでもよかったっていう可能性はどうかな」
「あの子とわたくしが同列とでも?」
「君としては、やっぱり姉のほうが偉いのかな。年功序列? 愛を独り占めしたい?」
うるさい鳥が飛んでった。
痛い。
痛い。
泣いてる。
鳴いてる。
「行ってあげなくていいの?」
「ざまあみろと嗤いに?」姉が言う。「あなたが行って差し上げては? 喜びますわよ」
「どういう意味だろう」
「まあ、おとぼけになりますのね。あの子があなたに気があることくらい、おわかりでしょうに」
「気があるったって。僕の側にはないわけだからね」
彼女の後を継ぐのは、姉の方だろう。
妹はその資格を剥奪された。
僕の眼の前で。
これの意味を探れ。
彼女の意識の最低3手先を読めなければ、ここを逃げ出す以前に命が亡くなる。
彼女の部屋で人体模型か生きた人形にされてる先人の後を追う。
そんなのは絶対にご免だ。
妹は部屋で泣きじゃくっていた。
僕は優しく声をかける。
「ねえ、僕に気があるって本当?」
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