第2話 自分への応援歌
Aに連れられて、焼きと鳥屋へと向かう。
俺達が外へ出た事を、誰も気付いていない。
というか、気にも止めていない。
まあ、ありがたいが・・・
所詮は、社交辞令で呼ばれただけのか?
しばらく歩くと思っていたが、すぐに着いた。
「いらっしゃい。Aさん、久しぶりだね」
「親父、いつもの頼むよ。今日は友達連れてきたんだ」
俺には、友達がいない。
嫌味か?
店員さんに案内された席へと、腰かける。
しばらくすると、ウーロン茶が運ばれてきた。
下戸であることは、知っていてくれたようだ。
さっき、Aがスマホで会話をしていたのは、この事を知らせるためか・・・
「まずは、乾杯」
「ああ、乾杯」
グラスを合わせる。
ちなみに、乾杯は毒入り防止のために始まったらしい。
「俺も、正直参加したくなかったよ」
Aが言う。
「なぜだ?」
「S,お前と同じだよ」
「同じ?」
言いたい事は、すぐにわかった。
なら、なぜ俺を、焼き鳥屋へ連れてきた?
何か理由があるのか?
「実はなS,お前に会わせたい人がいるんだ」
「会わせたい人?誰だ?」
「お前も、知っている人だよ、それが目的で連れてきた」
「誰だ?その人は?」
「お前も、知っている人だよ」
しばらくすると、ひとりの中年女性が現れた。
「Sくん、久しぶり。私の事覚えてる?」
「Kさん・・・?」
「うん。覚えていてくれてありがとう」
Kさん、高校時代に憧れてた人。
でも、卒業と同時に経ちきった。
「確か。旅行会社に勤務したと・・・」
「つぶれちゃってね。今は結婚して、旦那と店を経営してるんだ」
カウンターを見ると、親父が会釈をする。
「うちの旦那、見覚えない?」
「・・・もしかして、元プロ野球選手の?」
「うん」
確か、その選手が現役の頃、自慢していた事がある。
引退後は、料理屋を経営していると聞いていたが、まさか夫婦になっているとは・・・
いや、必然だな・・・
ただ、子供はいないようだ。
「で、ただ俺と会わせたいためじゃないだろ?A」
「さすがにわかるか?その通りだ」
「聞かせてくれ」
「わかった」
Aが、すぐに言葉を発する。
「この店には、カラオケがあるんだ」
「カラオケ」
「おかみさん(Kさんのこと)、マイクを頼む。それとリモコンを」
「わかったわ。Aさん」
Aがさんづけで、俺が君づけなのは、立場の違いだろう。
「お前に唄ってほしい」
「何を?」
「S、お前のおはこだよ」
Kさんも、それを望んでいるようでうなずいた。
ステージ?へと案内されて、Kさんが番号を入力する。
でも、何のために唄うんだ?
Kさんが、呟いた。
(Sくんへの、私たちからの応援歌)
そういうと、カウンターへと戻っていた。
店内にイントロが流れた。
覚悟を決めて、俺は歌った。
自分への応援歌である、この曲を・・・
でも、親父さんの前で、この曲はまずいような・・・
まっいいか・・・
俺は唄った。
「♪チャンスは、手堅く物にしろ!ピンチは自力で抑えこめ。
勝利は自分で奪い取れ・・・
栄光に向かって、駆け抜けろ・・・」
今の俺の現状を、知っていたようだ。
もう少しだけ、がんばってみようかの・・・
Fin
うたをうたおう 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu
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