第133話 攻守逆転
激突するナラクモ姉妹とパリヤッソ。昼間の戦いで武器を失っているナラクモ姉妹の方がやや不利な状況で始まったその戦闘はナラクモ姉妹が押し込まれる形で続いていた。
それを少し離れた場所からサポートしているのがリティールだった。彼女は目減りしてきた魔力を補うべくポーションを一息に呷ると遠視の術で戦況を見定める。
「……ふぅ。ポーションって美味しくないわね」
文句を言いながらも目は戦場から離さない。苛烈に攻め立てて来るパリヤッソとの戦いにそんな余裕などあるわけがなかった。ポーションを飲むのにも水魔術を使って急いで流し込まなければならないくらいだ。
「さ、て、と。【
蒼炎を戦場に送り出してリティールはナラクモ姉妹の奮戦を見守る。リティールのサポートありきの話で二人掛りとは言え夜のパリヤッソと互角の戦いを披露する姉妹にリティールは感心しつつも今一つ、決定打に欠ける印象を抱いていた。
(……困ったわね。パリヤッソ相手に持久戦を挑むのはナンセンスよ)
魔力切れを起こさない限り無尽蔵に回復するパリヤッソ相手に生身の人間が挑むのは無理筋だ。パリヤッソの気を逸らす何かがないかと考えながら戦うリティールだが目の前の戦いに集中しなければ戦況が一気に崩れるので今一考えがまとまらない。
「でも、ヒメコが自信満々に任せてって言ってたんだから信じるしかないわよね」
リティールはそう言って千載一遇のチャンスを待つのだった。
リティールの視線の先、パリヤッソとナラクモ姉妹の戦闘はパリヤッソの猛攻を前に二人が押し込まれる形で推移している。
「ハッハァッ!」
パリヤッソの魔力を纏った強烈な拳に突き飛ばされるヒメコとロザリア。なんとかその場で踏みとどまるが、埒が明かないとばかりに苛立ちの表情を見せる、
「くっ……」
「いい加減、少しは疲れたって顔してくんないかなー?」
「ぬりぃんだよ。俺を疲れさせたきゃもう一セットお前らを連れて来い」
嗤いながら後退した二人に飛び掛かるパリヤッソ。そんな彼を迎撃しながらヒメコはパリヤッソに尋ねる。
「……今から連れてきていい?」
「もう遅ぇに決まってんだろ!」
再度激突。パリヤッソの攻撃を躱しつつ前進するヒメコとその陰に隠れながら攻撃を仕掛けるロザリア。いつもであればヒメコが攻撃でロザリアが防御の役を果たすのだが、今回は使用する魔術的にこの組み合わせがいいと決めたのだった。
それが逆にやり辛かった。いい加減に疲労が見え始めて来たナラクモ姉妹に対してパリヤッソは疲労の色など微塵も見せずに戦っている。
(……ダメだね。戦ってればある程度底が見えて来るかと思ってたけど……こいつ、底なしの化物だ)
ヒメコの内心に恐怖が宿る。これ程までの相手と戦うのは自らの長姉と対峙した時くらいなものだ。
(ふぅ。でも、リティちゃんに大見栄切った手前、引き下がれないかな。ここはもう賭けに出ますか!)
「ロゼっち、【神宿り】やるから。よろしく」
「わかりました!」
「あん? 何か面白ぇことでもやんのか?」
「そーだね。まぁ、見ててくれると嬉しいかな!」
ヒメコの纏う空気が変わる。神聖な気配がヒメコを中心として周囲に溢れ出した。パリヤッソはそれを見て無言でヒメコを標的に変える。
「させません!」
「どいてろ」
止めに入るロザリアを一瞬で吹き飛ばしてパリヤッソはヒメコの下へと疾駆する。だが、ロザリアが稼いだその一瞬だけでヒメコは準備を終わらせていた。
「【先祖返り・裂砕虎姫】……行くよ」
ヒメコに急襲を仕掛けようとしていたパリヤッソが急停止する。そして歪んだ笑みを浮かべるとヒメコを褒め称えた。
「ちったぁやるようになったみてぇじゃねぇか。長ぇ様子見だったな」
「ふっふ~……この姿になったのは超久し振りだけど、一瞬で決めさせてもらうよ」
「はっ! 抜かせ!」
言い終わらない内にヒメコの姿がブレる。同時にパリヤッソが弾き飛ばされた。
「こんなもんか」
だが、パリヤッソは平気な顔をしてその場で体勢を立て直す。その様子にヒメコは苦い顔になった。
「……ほんっと、ヤになるなぁ! 化物め」
「お互い様だろ? さて、今度はこっちからも」
「ヒメコさんに手を出すなぁッ!」
「……お前はもういいよ」
瞬間、三者が交差する。ロザリアを仕留めにかかるパリヤッソ。パリヤッソの攻撃を防ぐロザリア。そして、パリヤッソに攻撃を仕掛けるヒメコ。その結果は。
血飛沫が、上がった。
「ロゼっち!」
血の持ち主は最愛の姉の呼びかけにも何も応えずにその場に崩れ落ちる。代わりに応えたのはその手を血に染めた加害者だった。
「何気ぃ抜いてんだ? つーかお前……」
「ハァッ!」
「おっと」
ヒメコの攻撃から逃れるべくその場から大きく退避するパリヤッソ。しかし、視線は自らの胸元に向けられている。遅れて、何かの結晶を吐き出した。
「あーあ。折角爺が命懸けで持ってきた【冥樹の結晶】が……勿体ねぇ」
「魔核か何かかと思ってたんだけど、当てが外れたみたい……ごめん、ロゼっち」
「おいおい。勝負はこっから……だろ!」
言い終わる前に空中に向けて攻撃を放つパリヤッソ。一瞬、何をしているのか分からなかったヒメコだが、遅れてその行動の意味を知る。
「リティちゃん!」
「お前ら、戦闘中に油断し過ぎだっての!」
余所見。他者へを気にかける行為。戦闘中にあってはならない油断。格下ばかりと戦っていたのだろう。格上との戦いで致命的なミスが多すぎる。そう思いながらこの戦いも終わりに導こうとするパリヤッソ。その横っ面を強烈な拳が襲った。
(な……チッ! 今のはフェイクか!)
待ち構えていたヒメコの拳をもろに喰らって意識に断絶が入るパリヤッソ。当然、そこで手を止めるヒメコではない。
「逃がさないよ!」
吹き飛びそうになったパリヤッソを水の鞭が締め上げてヒメコの前に連れて来る。一方的な殴打の連続だった。さりとて、パリヤッソもただ攻撃を喰らい続けるわけがない。
「調子に乗んじゃねぇ!」
「おっと……」
当てずっぽうな反撃。しかし、当たるとマズい攻撃だ。ヒメコはパリヤッソから少し距離を取った。その隙にパリヤッソも拘束から逃れる。そして、その奥でロザリアが自力で立ち上がるのを見た。
「チッ、何属性の魔術が使えるんだあいつは……」
ロザリアの傍で浮いているリティールが回復したのは間違いない。この戦闘においては忌々しい限りだが、ますます欲しくなった。しかし、リティールはパリヤッソを見据えて尋ねて来る。
「あんた、覆っていた魔力が減ってるわね。もうすぐお終いかしら?」
「はっ! 安心しろ。俺自体の魔力はまだまだ残ってんよ。ただ外付けの結晶をそこの女に壊されただけだ」
「そう……なら、やっぱりもうすぐお終いね」
リティールの言葉にパリヤッソは哄笑を上げる。
「ハハハハハ! 面白いことを言う奴だなぁ? たかが【冥樹の結晶】を破壊した程度で勝ち誇るたぁお笑い草だ。あれは昼間の行動をサポートする程度の役目しかねぇぞ? 夜間……今の俺の力はただの実力だ。【冥樹の結晶】がなくとも……」
「言ってなさい。すぐに減らず口を叩けなくしてあげるから」
そして、リティールは高らかに詠唱する。
「【
暗闇に満ちた荒野に眩い光が差し込む。それは次第に圧倒的な光の束となり、場を照らし出した。
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