第125話 お話し中
リティールと別れたレインス達一行はエミル高原の最北地であるニクル村にまで逃げ延びてリティールと合流を果たそうと考えていた。メーデルと正規の騎士たちは黒の少女が連れて来た少女で間違いないかを村長に確認しており、この場はシャリアとレインスの二人だけとなっている。
二人きりとなった彼女たちだが、特にメーデルが心配するようなことは起こらずに待機時間を過ごしていた。
「お姉ちゃん、遅いのです」
「魔力の波長自体はあるんだよね? なら、パリヤッソを連れて来た人たちと何か揉めてるんじゃないかな」
待ち時間の間ずっと姉のことを心配するシャリア。シャリアの魔力感知には自身の近くにもリティールの近くにも既に脅威は見られない。もう【
「まさか、お姉ちゃんに何か……」
シャリアが心配の言葉を口にした丁度その時、彼女の魔道具が反応した。どうやらリティールから連絡が入ったようだ。一先ず安堵するシャリア。彼女はその場で通話に応じる。
『リア、今大丈夫かしら?』
「お姉ちゃん! こっちは大丈夫なのです。お姉ちゃんは大丈夫ですか? 心配なのです。どうしたのです?」
『ちょっと面倒な事態になったのよ』
リティールはナラクモ姉妹という者たちに謀られてパリヤッソと交戦したこと。そして交戦の後に自身の魔力の波長をパリヤッソに覚えられたことなどを溜息混じりに説明してきた。シャリアは心配そうに話を聞いて相槌を打つ。そんな彼女が心配にならないように明るくリティールは振舞いながら現状説明を続ける。
『それで、今からパリヤッソの弱点を探しに亜竜のところに行くことになったの。だからしばらく合流出来ないわ』
「……気を付けて欲しいのです。危なくなったらすぐ【
『ま、返り討ちにしてやるから楽しみに待ってなさい。そんな感じでレインスにもよろしく伝えといて』
通話を終えるリティール。シャリアは色々と訊きたいことがあったが、姉の様子から今は急いでいるということが分かったため再度通話することはしなかった。
「どうだった?」
「……お姉ちゃん、大変そうなのです。実は―――」
情報共有を図るシャリア。レインスは彼女の話を聞いて少し頭を巡らせる。
(確か、前世でパリヤッソは共和国に乗り込んでその大半を呑み込んで死んだはず。その時は共和国最強の部隊とぶつかってたと聞いたけど……悔しいな。あんまり深くは思い出せない)
シャリアからの又聞きの話ではそのナラクモ姉妹というのが共和国最強の部隊であった気がするが確定するには如何せん情報が足りない。だが、リティールの情報ではパリヤッソには弱点があるということだ。レインスはその点を強調してシャリアを安心させる。
ただ、シャリアがそれを聞いても尚、不安な表情は晴れることはないのだった。
「さ、て、と……リアにも連絡したことだし」
ところ変わって黒の少女が拠点としていた廃墟の入口付近。リティールはシャリアとの通話のために同行者たちがいる場所を一時離脱していた。だが、通話が終わったことで彼女は室内に戻る。するとイノアが地獄で空から蜘蛛の糸が降りて来たのを見たかのような表情をしてリティールに駆け寄って来た。
「お帰りなさい! もうイノアちゃん心細かったよぉ!」
「離れなさい。鬱陶しい」
「冷たいなぁ!」
「あんたが私にしたこと忘れてないわよ」
リティールが馴れ馴れしくもくっ付いて来たイノアを苛立ち混じりに睨むと彼女はすぐにリティールから離れた。そしてしくしく泣き真似を始める。
「みんな冷たいよー、イノアちゃんだって一緒に戦ってる運命共同体なのに~」
「誰の所為だと思ってんのさ」
「あなた以外、みんな巻き込まれた被害者じゃない」
冷たく突き放すナラクモ姉妹。ベルベットたちエルフ御一行も黙ったまま冷たい目をイノアに向けている。リティールは溜息をついた。
「……私的にはここにいる全員が私を巻き込んだ加害者なんだけどね。責任は取って貰うわよ」
「まぁそうだよね~……んで、何すればいいのさ」
背もたれに完全に体重を預けて天井を見上げていたヒメコはリティールの嘆きの声に応じて顔を彼女に向ける。リティールはそれを真っ向から受け止めて告げた。
「取り敢えず、情報収集から……亜竜に会いに行くわよ」
「巻き込んだお詫びはそれでいい?」
「そういうこと言うなら弱点も何もわからないままパリヤッソに突っ込んで貰うわよ」
リティールの辛辣な返しにヒメコは疲れたような微妙な笑みを浮かべてから首を傾げ、再び天井を見上げて体を揺らし始めた。ややあって体の動きを止めると彼女は微妙に難しそうな顔をして口を開く。
「あー……ん~……まぁいっかぁ。ロゼっち、姉さんたちにはないしょね~」
「わかりました」
「あと、そこのも。ごちゃごちゃ言わないようにしてね。うっさいのは好きじゃないから」
「それじゃ、これから亜竜の場所に行くってことでいいのかしら? それなりに距離があるから今から休憩を入れてもいいと思うのだけど、休憩は道中にするの?」
「そうね。私はどっちでもいいわ。あんたたちはどうなの?」
リティールが水を向けるとヒメコはソファに身体を預けながら答える。
「ん~? あたしもどっちでもいいかな。ロゼっちは?」
「私はヒメコさんに合わせます」
「イノアちゃんは「あんたはどっちにせよついて来れないんだから関係ないわ」……うぅ、イノアちゃんの扱いが酷いよぉ。イノアちゃん、共和国のお嬢様なんだぞーもっと大事にしろ~」
いじけるイノア。だが、全員無視した。実際に彼女は共和国の最高職であり、平時には内政のトップ、戦時には軍務の最高責任者となる執政官の孫娘なのだが誰もそれを気にしていなかった。
そもそも、ここにいる面々はヨーク種の次期族長に人間社会と距離を置いているエルフの娘。ナラクモ姉妹も現代でもその実力から共和国内で強権を振るっているが、元を辿ればナラクモという巨大な獣人国家の王族の末裔だ。全員が全員特別な出自であり、イノアが別に珍しいという括りに入らなかったということもあった。
その上、イノアには亜竜のところに来るよりも優先してやってもらわなければならないことがある。
「はいはい。大事にされたいなら大事にしてくれる人たちのところに行きな~そんでもって、次はパリヤッソに対抗できるように部隊を整えといて」
「イノアちゃんの酷使だよぉ! 屍鬼軍と戦うならまだしもパリヤッソと戦うのは無理!」
「お~じゃあ、屍鬼軍をちゃんと止められるようにして軍備をよろしく。そもそも数で叩ければあたしらがパリヤッソに特攻とかしなくて済んだんだから」
「鋭意努力しますっ!」
びしっと敬礼するイノア。だが、次の瞬間には上目遣いに猫なで声で媚びて来る。
「イノアちゃん頑張るので~パリヤッソの弱点、仕入れられたら教えてね~? 後、亜竜の居場所も」
「欲張るねぇ。ま、前者だけは教えられたら教えるよ」
苦笑するヒメコ。取り敢えずの打ち合わせが済んだところでイノアとそのお目付け役を担うことになったシフォンとコーディを除いた一行は亜竜の住処へと向かうことにするのだった。
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