第124話 廃墟にて
パリヤッソを倒すために作戦会議をしていたリティール、ナラクモ姉妹のヒメコにロザリア、そしてそのナラクモ姉妹にパリヤッソ討伐の依頼を出した共和国のお偉いさんの娘であるイノアの一行は一先ず、近くにある黒の少女が拠点としていた廃墟に入って休憩することにした。
「外見に見合わず中々綺麗だね、ここ」
「黒の少女とかいうのが住んでたんだからある程度は片付けてたんでしょ」
人の家に勝手に入りながら批評する一行。彼女たちは廃墟にあった中でも小綺麗なソファに腰掛けると話し始める……その前に、彼女たちについて来ていたエルフたちに問いかけた。
「それで、あなた方はついてきてどうするつもりですか?」
「……恩人の姉を何もなしに見捨てて帰る訳にもいかないわ。せめて、話し合いに参加するくらいはさせてもらいたいのよ」
ベルベットの申し出に全員が思案する。リティールの眼には彼女たちが嘘を言っていないことがわかった。それはつまり、エルフたちが話し合いに参加すれば自身のことを考えてくれる派閥が増えることで話し合いが有利に進むことを意味している。
そして、他の面々にとっては逆の意味を持っていた。だが、ベルベットたちの考えが確実かつ安全にパリヤッソを倒すためにもっと強い者を呼ぶべきだった場合にはナラクモ姉妹にとって有利に事が運ぶし、恩人であるリティールの身の安全のためにすぐにパリヤッソを倒すべきであるという考えであればイノアにとって有利にことが動く。
彼女の考えが気になるところだった。しかし、考えを聞いてしまえばその考えの派閥が強くなるのは免れない。難しいところだ。
「まぁ、意見を聞くだけならタダだし、いいと思うけど?」
ベルベットたちがいることでメリットを受けるリティールはそう言った。ヒメコはソファの背もたれに体重の殆どを預けて身体を伸ばしながら頷く。
「まーいーんじゃない?」
「ヒメコさんがそう言うなら」
ロザリアはヒメコが決めたことに異論ないようだった。流れがエルフたちも話し合いに参加させる方向にあると見たイノアは少し考える素振りを見せた後に頷いて
答える。
「……うーん。皆さんがそう言うならそれでいいんじゃないかにゃー?」
「じゃ、どうするかだけど……何かいい案はあるのかしら?」
「……シャリアとレインスも呼んで「却下」」
案を出せと言われて出したベルベットは案を言い切る前にその案を却下された。不服そうな彼女にリティールは呆れたように告げる。
「あんた、私が何のためにあの化物と戦ったと思ってんのよ」
「私が知る限り、ここにいる面々を除いて彼女たち程の使い手はいないわ」
反論するベルベット。彼女の口振りを見てイノアが目を光らせる。
「ほほう。因みに、そのお二人はどこに?」
「……私を怒らせたくなければ黙りなさい。イノア」
イノアを睨みつけ、魔力による重圧をかけて黙らせるリティール。リティールの怒りの前に縮こまるイノアを横目で見ながらベルベットも諦めた。
「そうね……じゃあ別案として近くに古代種がいるから彼にでも会いに行く?」
「それが何の解決になるのよ」
「敵を知るのよ。あわよくば弱点でも聞き出せたらいいわね」
「そう都合よく行くかなぁ?」
ベルベットとリティールの会話にヒメコが割り込んだ。しかしベルベットは引くことなく続ける。
「あれだけの強さを誇る相手よ? しかもその能力からして、もっと繁栄していてもおかしくないわ。でも、それが出来ていない。そこに何らかの理由が、弱点に近い何かがあるはずだわ」
「まー一理あるかもね。でも、それを今から行く古代種の奴が都合よく知ってるとは限らないと思うけど?」
「何もしないよりマシでしょう? 行くだけならタダよ」
「んー……リティールちゃんはどう思うよ」
取り敢えずの案を出してきたベルベット。ヒメコは微妙そうな顔をしてリティールにそのまま意見を投げた。リティールは少し考える。
「……その、古代種っていうのは何なの? 行って協力してくれる当てはあるの?」
「当てはあるわ。私が行こうとしてるのは魔族と遺恨を持つ亜竜の末裔よ」
「竜族? まだこの星にもいたんだ」
驚くヒメコ。その隣で縮こまっていたイノアが目を輝かせた。
「おぉ~! 凄いコネクション! いーなー! イノアちゃんも行く方に賛成!」
その言葉を聞いてベルベットは何とも言えない目をイノアに向けた。
「亜竜よ。あなたが思い描いてるような強大な存在じゃないわ」
「え~でも、この辺に亜竜がいるなんてギルドは知らないよ? ギルドにその存在を隠し通せるだけの力があるなら相当じゃないかにゃ~?」
イノアの疑問にベルベットは頷いた。
「……確かに、隠蔽術……特に結界に関しては相当な実力の持ち主ね」
「おぉ~!」
「ただ、変に騒がれるのは好きじゃないタイプだからあなたは連れていけないわ」
「えー! ケチ! いーじゃん!」
イノアに釘を刺してベルベットはリティールに問いかける。
「それで、行く方向でいいのかしら?」
「そうね……」
目を輝かせながらおねだりする顔でリティールを見るイノア。気怠げに成り行きを見守るヒメコ。ヒメコを眺めるついでにリティールを見るロザリア。彼女たちの視線を一身に集めながらリティールは決めた。
「会いに行ってみましょう。ベルベット、でいいのかしら? 案内をお願い」
「分かったわ」
「じゃあ、私はこれから少し妹と話してくるから」
そう言ってリティールは少し席を外した。残された面々が微妙な空気になるところでイノアが口を開く。
「んー、何か微妙な空気だね?」
「そりゃそーだよ。あたしら、自己紹介もしてない間柄なんだから」
イノアの呟きにヒメコが反応する。それを聞いてイノアは大袈裟にリアクションを取った。
「そーだった! じゃあ、さっきのリティールさんが戻ってきた時に自己紹介の時間にする?」
「……んー、あんたが情報収集したいだけに見えるし、ベルベットに亜竜のところまで案内してもらう時に暇だからそっちで」
「なんでさ! イノアちゃん連れて行ってもらえない可能性大なんだよ!? 酷い! これにはおんこーなイノアちゃんも抗議する!」
じたばたし始めたイノア。ヒメコは何か思うところがある様子で天井を見上げていたが不意に口を開いた。
「ていうかさー」
「はい?」
「あんたのいい加減な依頼であたしらも迷惑してんの忘れてる?」
イノアの背筋にぞわりとした怖気が走った。パリヤッソの戦闘前の威嚇の時にも同じような怖気が走ったが、前回彼が行った不特定多数への威嚇とは異なり、今回は明確に自分が対象だ。何をされるか分からない恐怖に晒されたイノアは保身の為に高速で頭を巡らせる。
(謝る? 逆切れする? ダメ。そういういつもの……普通の対応じゃこの人たちは納得してくれない気がする。イノアちゃんの勘だけど、ここは……)
「で、でも依頼の詳細を聞かなかったのはお姉さまたちじゃないですかぁ~イノアちゃんだって流石に天下のナラクモ姉妹様のところに初訪問でそんな深くしゃしゃり出られないですよぉ」
心証を悪くしないように謝り倒すか逆切れして相手を怯ませるか。イノアが普通と考える対応ではなく今回は普通では悪手と見られる責任転嫁と言い訳という対応で様子を見るイノア。それに対してヒメコは微妙な顔をした。
「まぁ、そっか」
イノアが哀れっぽい小物を演じたことが功を奏したのか、深く追求せずに威圧を解くヒメコ。イノアは心臓に悪いと思いながら静かにしてリティールが戻って来るのを待つことにするのだった。
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