第4話 後始末
──降り注ぐ破片はキラキラと月明かりを反射し、息を飲む美しさだった。この後、一体何が起こるのだろう?……状況が飲み込めない中、ボクは期待と不安で、ゴクリと唾を呑み込んだ。
「お前達……」
長い沈黙を破った学長は、握りしめた杖をプルプルと震わせながら、何事か話しかけ……たけれど、途中で黙り込んだ。
ふうっ、と一呼吸置いて、杖で雲の床をトンと突くと、何事もなかったかのように話を続ける。
「マジマは親の了承を取りにいけ。事情はどうあれ、このままでは誘拐になる」
「えぇぇマジっすか!?いやアレ絶対無理っすよ!」
「最悪こっちに連れてきてしまってもいい」
「いやいやいや!ってかなんでセッション切っちゃったんスか!行くのマジで時間かかりますよ!?」
「数時間程度なら遅れても問題ない。辻褄は後で合わせてやる」
「それにノルマだって──」
「残りは先行しているグループに回しておく。加えて、この件を無事片付けることができたなら、減点は無しとしよう」
「ああああァーもぅ!わーッかりましたよ……」
お兄さんは、何かに負けたようだ。渋々といった感じで、ボフッと座り込むと、ポーチから色々取り出し、何か作業を始めた。
「レイラはその子をクレンズして、身だしなみを整えてやれ。済んだら登録へ回せ」
「わっ、わかりました!すみませ──」
お姉さんの返事を最後まで聞くことなく、学長はブワッと音だけを残して消えてしまった。
「……もうちょっとだけ、我慢してね」
お姉さんは苦笑いしてそう言うと、ポーチからオレンジ色の飴玉を取り出した。ペリッと包みを剥がすと、おもむろにボクの口にねじ込む。……暖かな甘い味が口に広がった。
おいしい──ボクは空腹に任せてその飴玉を噛み砕いた。
「あっ、噛んじゃ──」
忠告は遅かった。
「ふぁッ!?」
口の中が焼けるように熱くなり、反射的に飴の破片をペッペッ、と吐き捨てる。
「ごめんごめん!コレ、噛まずに舐めてて」
もう一個、同じ飴玉を手渡される。……これは本当に食べられるものなんだろうか。
まだちょっとひりひりする口の中が気になりつつも、腹ペコのボクは食欲に負けた。ポイっと飴を口の中に放り込み、コロコロと舐め転がす。……大丈夫、ちゃんとおいしい。
「え~と、あとコレと……」
お姉さんは宙を手のひらで何度か横へと払いながら、ポーチから小瓶をいくつか取り出した。そのうち一つの蓋をキュポッと開けると──何を思ったのか、お姉さんはヒョイと飛び退きつつ、ボクの足元にビンの中の液体をパシャッとぶっかけた。
「ひゃっ!?」
すると、ボクの足がヒンヤリと雲に沈み込む。驚いて足元を見ると、足元の雲は徐々に透明になっていて、そこへズブズブと脚が沈んでいるようだった。
雲にどのくらい厚みがあるのかは分からないけど、このままスポッと雲を突き抜け、落ちてしまう……そんな気がして、ヒュンとした。足が震える。
ボクは腰が抜け、バランスを崩してベチャッと尻餅をついた。
「おぉおおお、お姉さぁぁぁん」
「あっ、ごめん冷たかったね。えぇとコレだ」
いや、そうじゃないんだけれど……と、そんなことはお構いなしに、別の小瓶から、半ば液状化した雲へオレンジの液体がトポトポと足される。
──すると、ヒンヤリしていた液化雲が、じんわりと暖かくなる。なんとも言えない心地よさだった。ボクは緊張していた全身から力が抜けていくのを感じ、とろんと目を細めた。
ついには、完全に液状化した雲の池に、裸になったボクは仰向けでぷかぷかと浮かんでいた。体の芯までポカポカと温かい。
ボクがきていた
「よし。……ちょっとだけ、おやすみ」
ぼんやりとした意識の中、お姉さんがそう言ったのが聞こえた。──ボクは虚ろに目を開いたまま、夢なら覚めませんように──と願いつつ、ちゃぷん、と眠りの淵に沈んでいった。
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