3
星降る夜は美しい。
食事を終えたメルは促されるままに外へ出て空を眺めていた。
流星群と瞬く星々。
「今、急速に星が生まれ、死んでいっています。
この街は時間の流れがとても速い。
考える能力を持たぬものはあっという間に朽ちてしまいます」
―――朽ちる。
空恐ろしいその響きにメルはそっと自分を抱きしめる。
「私も、あなたも、あっという間に?」
「大丈夫です。人も猫も思考力を持っていますからね。
最も、それを放棄してしまえば分かりませんが……」
夜の闇の中では遠くが見えない。
彼方の灯りはゆらゆらと、形を変えているようにも見える。
「メル・アイヴィー、この街はもう限界なのですよ。
……最期に誰かと話したくて、声を上げてしまった。
こたえてくれた貴女を招いてしまった」
「最期……?」
「はい。膨大な時の中の、名もなき歴史の黎明と黄昏……。
記憶にも残らない、ささやかな存在。
………我々にすてきなプリンの詩をありがとうございました」
青年は深く礼をした。
「…………あなたは親切で、確かにここにいて、ささやかなものじゃないでしょう。
……そんなに悲しいことを言わないで」
しん、と沈黙がおりた。
星の瞬きさえ聞こえそうな静かな夜だ。
「優しい貴女を呼んだのは正しかったのか、間違いだったのか。
メル・アイヴィー、私は悲しい思い出になるのなら忘れてほしいと思います。
最期にほんの少し祈りの言葉をもらえれば十分です……」
にゃあ、と相槌を打つように黒猫が鳴いた。
満月のような瞳が闇に浮かび上がる。
「さあ、そろそろお休みなさい。
絡み取られないように、あまり深く眠ってはいけませんよ」
瞼をおろす、急激な眠気。
悲しいほど優しい声を聞きながら、メルは眠りに落ちた。
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