第3話 セリ1-3

 半地下にある、たぶん3人部屋。見習いの更に下、下働き用の部屋と説明を受けた。久しぶりのあたたかいお風呂に、ハムの挟まったパンを摘まんで、他の部屋に連れていかれたレジーディアン以外はみんなでベッドに潜り込んだ。3人ずつなので狭いけど、外で固まって寝るよりずっといい。みんなそこですぐ眠った。


 次の日の朝は、まだ真っ暗なうちに知らない子に起こされた。ソリダナは同じ下働きで、表は客が帰るところだから絶対行かないようにと念押しされ、裏の井戸で顔を洗い、新しい水を汲んで浴室に運ぶ。昨日あたしたちが入ったところだ。ここは姫―――『姫』というのは娼婦のことだ―――と他の女性専用で、昨日見た主人のネーヴァンジュの夫ハールケンや、用心棒たちの男性用は他の洗い場があるそうだ。客は風呂には入らない。希望者は部屋で湯浴みできる。姫と見習いが手伝うそうだ。ちゃんとした大人が補助付で湯浴み……? うまく想像できなくて諦めた。



 細かいルールや禁止事項、食事の時間など、動き回るソリダナから教わる。その場で一緒にやらされるので「新人教育じゃいつ終わるかヒヤヒヤしたけど、案外早く終わってよかった。人が増えると楽だわ」と感謝された。お世話になります先輩。


「ソリダナは姫になるの」

「うん、あと1年したら誰かの下について見習いになって、16になったらデビュー」

 あと4年だね、と笑う。てことはここは成人まで客を取らせない娼館なのか。





 すっかり日が昇ると、中ではイスが足りないからとロビーで朝食を取ることになった。ササヅキが眠そうな顔であいさつする。


「よう、どうだった、なんとかなりそうか。年少組はこのまま姉貴んとこで下働きしな。13歳以上は見習い前提になる。

 ここのルールを伝える。ひとつ、俺に迷惑をかけるな。ひとつ、稼げる口を探せ。本申込では身請人になってやる。ひとつ、12歳以下は教会に行って勉強するように。キリア教会では国からの指示と慈善事業で毎週みずの日に神聖文字と数術を教えてる。信者かどうかは関係ない、タダで最低限の知識がもらえるんだ、がっつり教わってこい。残念ながら13歳以上は対象外だ。文字を覚えたかったら自力でどうにかしろ。悪いがここは力になってやれん」


 みんなが様々に顔色を変えるなか、ハルタがぱっとササヅキを見た。なんだろう。


「見習い組は芸妓を覚えれば他の娼館も紹介してやれるが、ここでそれを無料で教えてくれる者はいない。いままでに歌や楽器を嗜んだ者はいるか?」

 レジーディアン以外いなかった。「あんたには姫修行させねえよ」とササヅキは念を押すように指差す。


「技術はお前の価値を上げる。習いたい者には貸し付ける、励め。いいか12歳以下、姉貴のとこの下働きだけじゃその程度だ。ほかの何かを探せ。この街に居場所を見つけろ。以上」

「あのね、あんたたちが姫になりたいって言うならこっちもそのつもりで引き取るから相談してね。おんなには一番簡単な道だよお。稼げるかどうかは別の話だけどね」

 ネーヴァンジュがにこりと笑った。エッダがため息をついた。

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