第8話

でも、余裕だったのは最初のうちだけだった。

ショウ君はどんどん桃子と仲良くなっていき、1ヶ月後には笑顔を見せるようになった。

もちろん、桃子にだけ。


「外に遊びに行こうぜ。」

ダイキ君の声が聞こえる。

でも、それだけだ。

はじめのうちは桃子とショウ君をからかっていたダイキ君は、すぐに彼らに飽きてしまった。反応のないいじめはつまらないらしい。

第一、先生が許さなかった。

関われば、面倒に巻き込まれる。

それなのに話しかける人はいない。

桃子もショウ君もふたりぼっち。

でも、「二人」なんだ。

彼らは二人の世界をつくりあげた。

僕らはきっと無視してるんじゃない。

無視されているんだ。

桃子たちに相手にされなくなったダイキ君は、僕を捨てた。

僕はダイキ君のための道化師となった。

思えば、ダイキ君の特別だと思っていたあの頃から、僕は道化師としてかわいがられていたのだろう。

はじめのうちは、仲間にいれたようにして、だんだんと要求をエスカレートさせていく。

僕は、思っていたよりも弱かった。

自分が思っていたよりも早く、疲れてしまった。

僕は、『ひとり』ぼっちだ。


桃子が窓際で外を眺めている。

僕はもう、ひとりでいることにも耐えきれない。

桃子でもいい、話しかけたい。

もともと読んでなんかいない本を閉じてなんとなく、席をたった。

目立たないように。

注目されないように。

あと少しで窓際に着く、というとき、ショウ君が走ってきた。

とんとんとん、と軽い音がしてショウ君は僕を追い抜かし、桃子の隣に並んだ。

何かを桃子に向かって言い、桃子がそれにこたえて少し笑った。

僕の胸はきゅーっと痛くなった。


そんなことはないとわかっているけれど、桃子が自分のことを笑ったようにみえた。

「ねぇ、ぼっちがこっちに来てるよ。」

「ほんとだ、とうとう誰も相手にしなくなったからかな。」

「自業自得なのに。」

「ねぇ、あいつ歩いてるんだけど。」

「あいも変わらず不格好だよね。」

「ダイキに媚び売って、捨てられたんだって。」

「カワイソー。」

クラス中の視線が、声が自分に向かっている気がする。

全員が悪口を言っている気がする。


僕は慌てて、でも静かに、廊下に出て水を飲んだ。冷たい水を口に含んで少し時間をかけて飲み込む。

そしてまた、席で本を広げるのだ。











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