第4話

放課後、先生のいなくなった教室。

帰ろうとする桃子をダイキ君は呼びとめた。

「おい、桃子。」桃子は振り返った。

「お前明日から『ギゼコ』な、偽善者のギゼコ、ぶりっ子のギゼコ。」

「私の名前は桃子なの。変な名前で呼ばないで。先生に言うよ。」

「いいじゃねーか。なあ、お前もそう思うよな。」ダイキ君は僕に話を振ってきた。

いつもなら、僕はダイキ君を止めただろう。冗談だろ、というようにへらへら笑ってやめようと言っただろう。


でも、いまだけはダメだった。

手を挙げたときのつんと澄ました顔が浮かぶ。

「いいんじゃない。桃子なんて古臭い名前よりよっぽど素敵だね。」

僕は思いっきり意地悪に言った。ダイキ君たちが笑うのが聞こえる。


「桃子は、私のお母さんがくれた大事な名前なの。馬鹿にしないで。」

桃子は叫ぶように言うとくるっと後ろを向いて教室から出て行った。


一瞬、目元が濡れているみたいに見えたのはきっと気のせいだろう。

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