わたしの好きな中国娘
またおにぎりを買ってしまった。
東京に行くのに電車に乗り遅れなかったことがない。これから舞台を観に行くのだけれど、そもそもスタートから開場時間と開幕の時間を一時間早く認識しており、想定していた電車に乗るとかなり早く着いてしまうという問題があった。
まぁ早く着く分には良いだろうとそのままのタイムスケジュールで家を出発して、電車に乗り遅れた。
怠慢があったのだろうか。
余裕があるときには余裕あるときなりの、余裕がないときには余裕ないときなりの失敗がある。そんなに困難続きの毎日で辛くないのかと人に聞かれたことがあるが(本当は「生きてて辛くないですか?」と聞かれたのだが)もちろん辛い。
けど、みんなそれくらい辛い毎日を過ごしていると思っていたので、ちょっと淋しかったし、目から鱗が3枚くらい落ちた。鱗3枚では驚きとして中途半端なので、鱗だな、きらきらしているな、と観察するくらいしかやることがない。
それでまたおにぎりを買ってしまった。
いつも空腹という恐怖と戦っている。このまま行けば12:40頃に目的の東京に着くのだ。開場時間は13:00で、開幕が13:30なので時間の余裕はある。
しかし、目下の問題は空腹をどこでどう凌ぐのかだ。私は胃が小さく燃費が異様に悪いため、割と常に腹を減らしている。それだけならまだしも、空腹にまとう感覚が人より激しい。
有り体に言えば、お腹が空いた状態に長く耐えられない。
お腹が空くと、お腹が空いている!お腹が空いている!空いているんだ!という気持ちでいっぱいになり、実際にそれほどお腹が空いてなくても朝から何も食べていない人の午後みたいになってしまう。
それで駅のコンビニでおにぎりを買ってしまったのだ。
けれど、一体これをどこで食べるのだろう? 今食べるのか? 今食べたら東京に着いた時にまた中途半端にお腹が空いて、でもなにを食べたらよいのか分からなくて、意味のわからない中華料理店に入って、全然食べたくない硬い麺の中にトロトロしたものが入った今は名前が思い出せないあの食べ物を頼んでしまって「ぜんぜん食べたくない……」とか言いながら咀嚼して、泣きながらぎりぎりの時間に着席するはめになるのではないか?
そう逡巡しているうちに電車が来て電車に乗ってしまった。電車の中でおにぎりを食べる勇気がないので、このまま東京まで一緒に行くだろう。
東京に行ったら行ったでおにぎりを食べる場所がなく、やはり意味の分からないチェーン店で雪
雪だ!
電車の中で窓の向こうで雪が降っていてびっくりして雪と打ってしまった。あと雪に慣れていないので、書こうと思っていたことを全て忘れてしまった。
とりあえず私はこのまま一日おにぎりを連れ回し、夜、家に帰ってから食べるのだろう。けれどそのとき、私はきっと空腹ではない。
もちろん辛い。
鱗のきらきらも弄んでいたらなくしてしまったし、そもそも、このエッセイは題名にあるとおり中国娘について語るつもりだったのだ。8行くらいのつかみとして書くつもりだったおにぎりの話で、こんなところまで来てしまった。
もうずっとそういう人生だから、辛いし、でも楽しい。鱗のきらきらは綺麗だし、それがびっしり体に張り付いているのかと思うとぞっとするし、実際、私の目の前に本当は鱗なんてないのだし。
雪は局地的なものだったらしい。
もう降っていない。
それにやっぱり、目下の懸念は、どこでどう空腹を凌ぐかに尽きる。うまいこと隙間の時間でフォーが食べられるといいのだけれど。
フォーはいつ食べても美味しいからね。
中国娘の話はまた今度。
空腹との戦いを越えて、人間たちの人生を見てくるよ。応援よろしくね。
もうすぐ東京だ。
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