第18話 王虎の死
目が覚めた時、違和感を感じた。
それまでどこか遠い世界に長い間滞在していたような疲労感と、苦しみから救われた安堵感、そして自暴自棄になった自分への罪悪感……
(ここはどこだろう……)
アイボリー色の天井が見えた。周囲を見回すとレールで仕切られたカーテンで自分の周囲が遮られていた。部屋には清潔感があり、かすかなアルコール臭もした。ここは病室らしい。
カーテンの向こうから看護師達が小声でひそひそと話しているのが聞こえる。
「旦那さんは休職されて……奥さんはそのまま退職してしまったそうよ……」
「……一週間、ろくにご飯も食べずにつきっきりで……」
「……ずっと呼び掛けて……そしたら手を握り返したって……」
切れ切れの会話に耳を澄ませているうちに、ぼんやりしていた意識が次第にはっきりしてきた。
あのとき自分の腕を切り裂いて、スマホで必死に呼びかけて……そうだ、その後自分がどうなったのか……それにここは?
起き上がろうとしたが、その力が出ない。それほど自分が憔悴し弱っていたことをその時になってようやく知った。
寝かされていたベッドからかすかに首を動かす。点滴ともうひとつ……何かが自分の手に繋がっていた。
それは冷たい鉄の鎖のような拘束ではなかった。包み込むように温かい何か……
「……」
自分の手を二つの手が包むように握っていた。髪を振り乱した父親と、化粧も剥げた顔の母親。二人は泣き疲れた身を自分のベッドに投げ出すようにして眠っていた。
医師から、生命を取り留めたと聞かされ、緊張の糸が途切れてそのまま臥せてしまったのだ。
だが、その手は自分の手をなおもしっかりと握りしめていた。
手を離したら娘が死の世界へそのまま引きずり込まれてしまうとでも云うように。
この手を絶対に離さない、と云うように。
しばらくの間、黙ってそれを見つめていた彼女は、自分が生命を賭けて大切な絆を繋ぎ止めたことを知った。
「パパ……」
「……」
「ママ……」
「……」
疲れ切った両親は、娘の生命だけを案じて眠っている。
見つめる少女の瞳がみるみるうちに潤んでいった。
その表情はもう、浅ましいチート勇者達を冷淡に見下し、異世界を滅ぼそうとした魔少女のそれではなかった。
溢れた涙が頬を伝い、顎から病衣へ点々と零れ落ちて濡らしてゆく。
「パパ……ママ……ありがとう。ごめんね……ごめんね……」
肩が震え、子供のように少女はしゃくりあげる。
異世界で悪魔になり損ねた少女……
自分を顧みてくれる優しい両親はもういない、そう思って絶望していたはずなのに……少女は涙を拭いた。
生命こそ奪っていないが、自暴自棄になった自分のせいでたくさんの人を苦しませてしまった。これからは悔悟と償いの日々が始まるだろう。
それでもいい。自分があれほど願い、取り戻したこの絆の為なら……
彼女は思い返した。
そうだ、異世界で自分に手を差し伸べてくれた彼……最後は自分の背中を押し、この世界へ還らせてくれた彼はあれからどうなっただろう? 異世界にあのまま残ってしまっただろうか。
(いいえ……彼はきっとこの現実世界に戻っている)
彼女は確信していた。そして彼を見つけなければと思った。
今度は自分が手を差し伸べるのだ。この世界で居るべき場所のなかった彼に、自分が「居場所」になりたいと……
そんな思いと共に見上げたカーテンの僅かな隙間から空が見えた。
彼女の心と同じくらい、爽やかな青に染まった空が……
** ** ** ** ** **
絶望に囚われて見上げたときの空はくすみ、色褪せて見えた。
だが、同じ空の青さ、雲の白さが、今はこんなに違って見える。
異世界の王姫はその訳をとっくに知っていた。空も、大地も、荒れ果てた荒野の続くこの世界の何もかもが輝いて見えるのは、彼がそばにいるからなのだと。
そんな王姫の感慨など知らぬ気に、少年は揺れる戦車の上で砲塔に背中を預けたまま空を指さした。
「ほら、あそこの雲。止まってる気がしたんだけど、よーく見てるとゆっくり動いてるね」
「本当だわ」
「あの雲は、どこまでゆくのかなぁ」
「……」
戦車の上にいる魔物達は、黙り込んだまま一緒に空を見上げていた。アリスティアは彼のそばに寄り添ったまま、ひとときも離れようとしない。
「テツオ、私達を庇ってあんなに苦しい戦いを……本当にありがとう」
「いいんだよ、もう終わったことだし。みんなボロボロになったけど」
「でも、誰ひとり生命を落とさなかった。みんな貴方のおかげよ、テツオ」
「いや、あの人がどこからか突然現われて僕を助けてくれたんだ。ずっと憧れていたあの人が……」
「あの人?」
「ヴィットマン……ミヒャエル・ヴィットマン」
少年は誇らしげに胸を張る。アリスティアは思わず口元に手を当てた。
「じゃあ、私があのとき未知の言葉で召喚したのは……」
驚愕する異世界の王姫を目の前にして、少年は伝説の戦車兵が現われた謎の訳をこのとき知った。
「じゃあ、あの人をこの
アリスティアはうなずいた。彼女もあのとき自分が召喚したのが誰だったのかを今になってようやく知ったのである。
「テツオが話してくれた伝説の英雄を私、召喚したのね。知らなかったわ」
「凄い人だったよ。心も身体も鋼鉄のように鍛えた、でもとても穏やかに話す人だった」
「私、少しでもテツオの役に立ったのね」
「少しどころか、君があの人を召喚してくれなかったらあの邪神騎を倒すことなんてとても出来なかったよ」
「あのとき無我夢中で……どうやって召喚魔法を唱えたのか記憶もないの」
「でも、君のおかげで憧れの人に助けられた。僕の方こそ本当にありがとう」
「いいえ……いいえ……」
少年は感激のあまり無意識のうちにアリスティアの両手を握りしめ、真っ赤な顔で俯かれて「ご、ごめん!」と、慌てて手を離した。
離した自分の手が首元に触れた時、少年は「彼」に言われた言葉を思い出した。
(どんなに辛くともその生き方を貫くがいい……)
あの時、彼が掛けてくれたはずの騎士鉄十字章は、彼が去った時に一緒に消えたらしく、跡形もなくなっていた。
だが、少年は少しも残念に思わなかった。憧憬の念を抱き続けていた英雄が授けた勇者の証が自分の心から消えることはない。目に見えなくともそれは己の胸の中に確かにあるのだから。
これまで卑屈な自分を懸命に奮い立たせて戦ってきた少年の顔には、今は己への誇らしさが浮かんでいる。アリスティアは眩しそうに彼の顔を見て、ため息をついた。
一行の歩みは遅々としていた。邪神騎との戦いで傷つき疲れた少年を労わるように、ティーガーはキャタピラ一枚一枚を確かめるように大地へ降ろし、ゆっくりと進んでゆく。
ティーガーも傷ついていた。
「お前も僕と同じくらい、手酷くやられちまったなぁ」
抉られた装甲をそっと撫でて、少年は笑った。施された迷彩塗装も衝撃で削られたり爆炎で灼けたりして今は見るかげもない。サスペンションも歪んでいて、前後左右に揺れ動く度に軋んだトーションバーが凄まじい音を立てた。
かつて少年が苦心して作り魔物達を乗せたトロッコは拉致された際に破壊され、残骸すら見当たらなかった。魔物達は以前のように半数が交代でティーガーに乗り、半数は歩くしかない。
誰もが大なり小なり傷つき疲れ果てていたが、それでも大きな危機を脱した安心感で彼等の顔は一様に明るかった。
「テツオ、もうちょっとだけ辛抱してろよ。この先にきっとオアシスがある。オレの勘はよく当たるんだ」
根拠もないドワーフの法螺に少年は「その勘、当たるといいなぁ」と笑い、他の魔物達も笑った。
誰が何を話しても楽しくて笑いが起きる。アリスティアはそんな魔物達を見つめて目を細めた。
「テツオ、動いちゃ駄目よ。お水なら私が持ってくるから」
「いいよ。ちょっとくらいなら僕、もう動けるから」
「だめよ。無理しちゃ」
「いや、アリスティアだって無理しちゃ駄目だろ」
まさか王族の姫君ともあろう人にお世話される訳にはいかない。それにアリスティアもかつて拷問で受けた傷が完治した訳ではないのだ。
かつての元気な身体には程遠い彼女を少年は心配したが、アリスティアは「私は大丈夫だから気にしないで」と、意にも介さない。
「ごめんね、ありがとう」
「どういたしまして」
喉を鳴らして美味しそうに竹筒から水を飲む少年を見て微笑んだ王姫はその頃になってようやく、あの少女が現われた時に自分が彼に告白したことを思い出した。
(わたし、あなたを愛しています)
(好きなの……一緒にいて欲しいの……)
あのとき彼は応える前に邪神騎の尾針に貫かれ、自分達は拉致されてしまった。
そして蘇生した彼が追いすがり、戦いが始まって……
自分の想いは受け容れられたのか、それとも拒絶されてしまったのか。
アリスティアはこっそり、彼の横顔を盗み見た。
屈託のない態度は以前と変わらない。突然の告白に彼は驚いていたから聞いていなかったということはあるまいと思ったものの、アリスティアは彼の気持ちを確かめる勇気がなかった。
それでも、今はそれどころではないと強いて自分に言い聞かせた。
(今はこうやってそばにいられるだけでいいの)
(とりあえず、ゆっくり療養の出来る場所まで頑張って……)
傷ついた少年を擁し、疲れきった魔物達を労わり、そんな王姫もまた労わられながら、一行は前へ、前へと少しづつ進んでゆく。
小さなオアシスでも休息出来る場所が見つかれば少年も元気を取り戻せるだろう。森に行き当たれば、腰を落ち着けて滞在出来る。トロッコだってまた作れるだろう。
魔物達は旅を再開した時の明るさを失ってはいなかった。
(アリスティア様は我々を庇って拷問に耐えて下さった。テツオはこんなにも傷ついて戦ってくれた)
(それに比べたらこの程度の苦労など……今度は我々が頑張る番だ)
旅路を行く彼等の表情には、希望を信じる笑みが浮かんでいる。
「みんな、疲れたでしょう? ここで休みましょうか」
「いやもう少し……あの砂丘を越えてから休みましょう」
「無理しないでね」
「大丈夫ですよ、アリスティア様。なぁ、みんな」
砂と埃に汚れた魔物達は笑ってうなずく。小さな魔物の子も。
「姫様。僕、約束したでしょ? どんなに遠くてもへこたれないで歩くって!」
「……そうだったわね。えらいわ」
思わず涙ぐんだアリスティアは「何だか私、すっかり弱くなってしまったわ……」と、恥ずかしそうに笑って涙を拭ったが、凄惨な拷問に耐え、狂気の誘惑も喝破したこの王姫を弱くなったと思う者など誰もいなかった。
(この旅路はいつまで、どこまで続くのだろう……)
偽りの希望を掲げて始めた
それでも、アリスティアは思わずにいられなかった。
少年が元気になって以前のように歌ったり、釣りをしたり……そんな旅がこの先も続いてくれたなら……
だが。
異世界を彷徨う流浪の旅は、ある日終焉を迎えることになったのだった。
それも、思いもよらぬ形で……
** ** ** ** ** **
「森だ! 森が見えるぞ!」
ある日、這いずるような足取りながらも一行が進んでいると、ティーガーの砲塔の上から見張りの役をしているゴブリンが突然声を上げ、彼方を指さした。
色めき立った一同は「何?」「本当か?」と目を凝らしたり、額に手をかざしたりして地平線の向こうを見やる。ティーガーの上にいた者達は立ち上がった。
ティーガーの中に素早く潜り込んだ一匹のドワーフが、砲塔に取り付けられた照準器を覗き込んだ。
「森だ。間違いない。緑が、木がいっぱい見える!」
やがて、進みゆく彼等の眼に映る地平線に緑が浮かび、それが青々とした葉を抱えた木々の姿になって見えると、魔物達の口から歓声が上がった。
気の早い者、まだ元気な者は、森へ向かって半ば駆けるような足取りで進み始めた。
「よかったね……」
少年に声を掛けられたアリスティアは、ホッとしたようにうなずいた。
彼には黙っていたが、この頃には一行が所持していた水も食糧も、もう僅かしか残っていなかったのだ。
走る元気のない者、疲れ切った者はティーガーに乗ったまま、ゆっくりと森へ近づいてゆく。
それは今まで見たことのない、大きな森だった。幾筋もの小川を挟み、森の後ろにはなだらかな丘が続き、更にその向こうには大きな山が控えていた。
言葉もなく見つめる一行を乗せ、ティーガーは森へ足を踏み入れる。
森の中は花々が咲き乱れ、柔らかそうな草地は座っても寝ても心地良さそうだった。
周囲を見回して、少年は嬉しそうに口を開いた。
「とてもいいところだね。ここならきっとゆっくりと休……」
その時だった。
鋼鉄の身体を軋ませて森の中へ入ったティーガーのエンジン音が、急に咳き込んだかと思うと止まってしまった。
「あ、あれ?」
けたたましい轟音がふっつりと切れたティーガーは、それでも惰力で少しだけ進んだが、重いキャタピラがそのまま錘となって前進が止まる。
森の中で擱座したように停止したティーガーに少年は顔を曇らせたが、それほど不審に思わなかった。エンジンを始動する際に掛かりにくいことなどざらにあったし、邪神騎との戦いでは衝撃でエンジンが止まったこともあったのだ。
「ティーガー、エンジン始動」
だが、どうしたことか少年の言葉にティーガーはもう反応しない。
それまで生き物のように稼働し続けていたマイバッハエンジンは、少年の声を無視し沈黙したままだった。
「ティーガー……?」
明らかに単なるエンストではなかった。様子がおかしいと気づいた少年は車内へ入り、操縦席に設けられたスターターボタンを押した。
だが、今までのようにスターターの音は鳴らなかった。エンジンはかからない。沈黙したティーガーの周囲に魔物達が「どうしたんだ?」と、不審な顔で集まりだした。
「テツオ……」
「ティーガーが……ティーガーが起きてくれない。動かない」
心配する王姫へ「何度押してもエンジンが始動しない」と告げた少年の声は震えている。
これほど狼狽した少年を見たのは初めてだった。
「テツオ、とにかく落ち着いて。ね?」
「そうだね。どこか故障したのかも知れない。見てみよう」
修理出来るかどうか分からなかったが、確かめようと少年は車外へ這い出た。
エンジンルームを覆う格子状のハッチを開けようとするが、重い鋼鉄の蓋が彼の手に負えるはずがない。力自慢のドワーフ達が「任せてくれ」と合力してハッチを開けてくれた。
「ありがとう」と礼を言うのももどかしく、少年は中を覗き込む。
その目に飛び込んだのは、早廻しのフィルムで見るように急激に赤錆びてゆくエンジンの姿だった。
「……」
驚きも冷めやらぬうちに、今度は戦車が沈んでゆくような感覚がする。少年は慌ててティーガーから降り立った。
見ると、シャコタン車のようにティーガーの車体が地面へ腹這っていた。トーションバーサスペンションがへたり込み、車高を保てなくなったのだ。続いて左右のキャタピラの
ぼう然となった少年の目の前で、それまで仰角を上げ虚空を睨んでいた八八ミリ砲が掲げる力を喪失し、ゆっくりと下を向いた。
魔物達は、為す術もなく立ち尽くす少年と擱座したティーガーを交互に見るばかり。少年の身体が震えだしたのを見たアリスティアは、何も言わずに彼のそばへ寄り添った。
しばらくして……ようやく何が起きたのかを察した少年の瞳に涙が盛り上がった。
「テツオ、ティーガーは一体どうしたんだ?」
尋ねたドワーフに向かって少年は声を絞り出すようにして答えた。
「ティーガーは……もう……動かない」
魔物達の目が一斉に少年に向いた。
「動かない……って。死んだってことじゃ……」
「……」
まさか……という驚愕と動揺が魔物達の間に走る。
少年は黙ってうなずいた。
この異世界で出会ってからずっと苦楽を共にした守護神の喪失感が、静かに広がってゆく。
「不思議に思ってた……燃料もなしに整備もせずに戦車がずっと動けるなんて。人の言葉を理解して動けるなんて」
声を震わせると少年は目を閉じた。
この異世界に初めて王虎が現われたとき、聞こえた言葉……
――この力を、弱き者を救う為に捧げたい!
あれは、やはり幻聴などではなかったのだ。
まるで少年が思い出したことを知り得たかのように、アリスティアが静かに言った。
「ここまで旅してきたのはリアルリバーの魔族二十余匹と私、それに異邦人のテツオ、あなたで全てです。でもね……」
アリスティアも目を閉じた。あの伝説の戦車兵を召喚した時にも似た、心の奥底にある不可思議な感覚に身を委ねてゆっくりと口を開いた。
「本当はもう一人、私達の他に誰かがいる……私はずっとそんな気がしていました」
アリスティアは手を伸ばし、肩を震わせて泣き出した少年の手をそっと握った。
「言葉を交わしたことはないけれど、私は知っています。『彼』が誇り高く、そして優しい心を持った戦士だったことを。貴方の力となって、私達リアルリバーの魔族を救ってくれました……」
少年はうなずいた。
「きっと僕達に隠して……喉が渇いても身体が痛んでも我慢するみたいに、歯を食いしばってここまで……」
「テツオ……」
「ティーガー……ごめんなぁ、こんなに辛い思いまでして今まで……僕達のために……」
がくりと膝をつき、少年は声を放って泣きだした。王姫も両手で顔を覆った。
「ティーガー……ありがとう、ティーガー……」
風がざわめき、遠い別世界の出来事のように森の中に響いてくる。森の木々が枝をさやさやと揺らし、緑葉の青い匂いを振りまいた。遠くからは小鳥達のさえずりもかすかに聞こえた。
その森の中で、息絶えた王虎に縋って少年も王姫も、魔物達も泣いた。
爽やかな、快い風が森の中に吹いた。
それは、悲しみに暮れる者たちを慰めるように優しく頬を撫で、通り過ぎてゆく。
「木々の歌、鳥の歌……風の歌も聞こえる。ここなら彼もきっと寂しくないわ……」
アリスティアの言葉に少年はうなずいたが、それでも涙が容易にとめられるはずがない。
少年の言葉に従い、戦い続け、走り続けた鋼鉄の王虎は、こうして異世界の最果ての森の中でついに力尽きたのだった。
『いつか運命が尽きるなら、その車体は鋼鉄の墓標となるだろう』
かつて、ティーガーを駆った戦車兵が愛唱したという
鋼鉄の王虎に泣き縋る彼を抱きとめるように、森の木漏れ陽が優しくその光を投げかけた……
** ** ** ** ** **
その日の夕方までに魔物達は身体を休め、森から集めた木の実や草の実を食べて水を飲んだおかげで幾らか疲れを癒し、元気を取り戻した。
そして、全員が二度と動くことのないティーガーの傍に集まってきた。
アリスティアは葬送の祭司として、ティーガーの前で魔族の慰籍の言葉を静かに唱え続けている。
少年は目を真っ赤にしていたが、もう泣いてはいなかった。
やがて、魔物達は子供たちが集めてきた花を一本づつ持つと、ゆっくり鋼鉄の王虎の前に近づき、手にした花をそれぞれ捧げた。
「さよなら、ティーガー……」
「今までありがとう。お前のことは決して忘れないぞ」
「どうか、静かに眠ってくれ」
別れと感謝の言葉を口々に告げ、彼等は鋼鉄の王虎を悼み、弔う。
そして、アリスティアが祈りの最後に感謝の言葉を告げると全員が静かに頭を垂れ、黙祷したのだった。
「鋼鉄の王虎よ。私達が今こうして生きているのは、その滅私の献身があれば故であること、魔族の歴史が続く限り決して忘れません。どうか貴方の魂がこのリアルリバーの地に抱かれ、安らぎを得られますように……」
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