幕間ノ段

《火の王国ドレイクの王都メテオラ》

「そうか、森を無事抜けたか」

 赤い髪の男が酒の注がれたグラスを片手に窓から外を見ていた。部下らしき女性の報告を聞き、無精髭を擦(さす)りながら笑みを浮かべている。

 その男のいる部屋は一見して高価なものだと分かる調度品の数々や、武具の類が壁に立てかけられており、彼の身分の高さが窺い知れる。

「オルバス様、いかがなさいますか?」

 男はグラスを勢いよく飲み干し、口の端から垂れた酒を拭いながら答えた。

「経過報告だけでいい。手は出すなよ」

「わかりました。ただ、一つだけ……」

「申せ」

 部下の女は表現の仕方がまとまらなかったのか、少し戸惑いながら言葉を続けた。

「見たことのない少年が同行しております。黒い装束を纏った白髪の子供です」

「それで?」

「かなりの手練れでして、アジダハカとマーナガルムを一人で討ち取っております」

 その報告を聞いたオルバスの眉がぴくりと上がった。

「面白い、欲しいなその少年。まぁそれもここまで来ることが出来たらで構わないか」

 オルバスは部下を部屋から下がらせると、これまた高価そうな椅子に腰を掛けた。

 彼の名はオルバス・バレンスタイン。

 父であるガリュンオルド前国王の跡を継ぎ、齢二四にしてドレイク王国を統べる若き国王である。父が病によって死してより二年、王たる資質、威厳を基にアーステア最大国家であるドレイクを支配している。

 オルバスは頬杖をつきながら視線を部屋の奥へと向けた。

「それで、君は本当にこれで良いのか?」

 そこには天蓋の付いた大きなベッドがあり、薄地のカーテンの中に人影が見える。

『その為にここにいるのに、今更何を言っているのかしら。ふふ』

 カーテンの中から聞こえたのは女の声だった。

「確かに、君はあれを待ち望んでいたのだったな」

『あら、あなたもそうではなくて?』

 オルバスはベッドから視線を外すと、溜め息がちに呟く。

「……俺はまだそこまで腐っちゃいない」

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