シャボンの呼吸がきこえる

士田 蚕

僕の初めての願いごと…

嫌なことは見たくない。

鏡には誰かと思うほど不細工な顔、

クラスには顔にモザイクのかかった人間、

家に帰ればキーキー鳴く猿が見える。

本当は綺麗なはずの空はいつだってCO2で鉛色に染ってる。

これが僕の世界。

望みや夢なんて存在しない、タバコの煙にアルコールを溶かして溜め込んだような淀んだ世界。

青空なんてない、シャボン玉も濁って見えるような暗い世界。


猿たちは経済成長だとか、先進国化だとか言いがかりを付けて毎日毎日煙を吐き出してる。

そんな猿の無駄知恵のせいで僕はゼンソクというものを持っている。

迷惑なものだ。

今日もゼエゼエ咳込んで、吸引器に手を伸ばす。ヒューヒュー薬を吸い込むと、胸がスウッと軽くなる。


現在22:15。まだまだ猿たちの活動する音がうるさい。


朝もキーキーうるさい猿。

急かされて学校へ行く。

またモザイク。この学校に来て1年経つが、未だに顔が覚えられない。

なんだか居心地が悪い。

ここはなんだか息苦しい。

喉が詰まる。

ん…?本当に息が吸えない…。

苦しい、助けて、助けて。

吸引器を探す。

あれ、おかしい。ない。ない。ない。ない。

何処だ、いつも入れてる袋がない。

もう、ヤバい。

ゼエゼエ咳込みながら顔を上げると、遠くで僕の袋をグルグル回して遊んでいる輩が見えた。

もう…ダメ…。


目が覚めた。

僕は病院のベットで寝ていた。

涙を浮かべてこちらに駆け寄る猿と、白衣を着た猿がいた。


数日経って、病院を出た。

学校へ行くと、何故か1人だけモザイクのない顔があった。

その子は

「大丈夫?無理しないでね」

と僕に向かって心配そうな顔を浮かべた。

変わった奴もいるものだ。

最初はそうな風にしか思っていなかった。

それからその子は度々話しかけてくるようになった。


僕も珍しく、話す気になった。

絵本のような青空や星を見たいこと、

シャボン玉は本当に透明か知りたいこと、

猿が嫌いだということ、

その他にも沢山話した。そして、同時に沢山笑った。

今まで笑わなかった分も笑ったような感じがした。


ある日、その子は僕を真夜中に高台へ連れ出してくれた。今は24:00丁度。

僕はびっくりした。

満天の星空、初めて見た。

はるか下に見える街にいる猿たちはみんな眠ったようだった。

そして僕は気付いた、息が苦しくない。

咳が出ない。

そして一緒にシャボン玉を飛ばした。

本当に透明で、でも、綺麗だった。

シャボン玉はどこまでもどこまでも飛んで行った。


あのシャボン玉みたいに2人でどこかへ飛んでいこうか。

言いそうになったけれど、口を噤んだ。

ここで言ったら終わってしまうと思ったから。

あの子と見る夜空が、星がこんなに綺麗だなんて。

この時になら100年でも200年でも居られる気がした。


そして僕は生まれて初めての

願い事をした。

夢を持った。

望みを抱いた。


君と夜空を駆けたい。

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シャボンの呼吸がきこえる 士田 蚕 @ningentteiina

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