職人の衝動(パトス)part3

 リベリオは自慢げに鼻の下をこすりながら、


「アンタの一番の強みはその肌の白さだからな、まずそれを活かすために、やはり色は黒にさせてもらった。慣れていなければ少し恥ずかしいかもしれないが、布の面積も少なめにしておいた。その肌は観客の男共への武器として可能な限り見せるべきだからな」





 ほとんど胸の頂上部しか隠さない水着――いわゆる極小のマイクロビキニよりも、やや布面積を増やしたという感じのビキニである。





 確かに、絶妙のバランスだ。平凡ではなく、過激過ぎもしない。これならば俺としても、セリアさんが身につけることを許すことができる。





 セリアさんはどこか戸惑うように言う。





「でも、こんな水着……かなりお値段がするのではないでしょうか? 布と紐の繋ぎ目などにあるこれは……金や宝石の細工ですよね?」





 確かによく見ると、所々には金の細工が使われていて、さらにそこには小さな色とりどりの宝石が埋め込まれていた。おそらくそれは花を表現しているのだろう。植物を模したようなデザインの、見事な細工である。





「さっき言ったことを忘れたか? 俺は金のためになんか作らねえ」


「ですが……」


「構うな。金なら、どこぞの金持ちにゴミでも売りつけて稼げばいいんだ」





 リベリオは吐き捨てるように言って、それからララへと目をやる。





「アンタの魅力はその褐色の肌と、引き締まったスタイルだな。まずはその肌色を映えさせるために、色はかなり明るめの黄色にした。





 形は、いわゆるワンピース水着だ。が、その背中は腰あたりまで露出させて、前面もヘソの位置まで深く幅広に布を削りながら、その左右を紐で結ぶ形にした。股部分もいわゆるハイレグで、ワンピースにしてはかなり攻めた形状と言えるだろう」





「…………」





 ララがその水着を見下ろしながら、何やら複雑そうな顔をしている。





「何か……気にくわないところがあるのか? それならハッキリ言ってくれ。できる限り改良はしよう」





 リベリオが水を向けると、ララはどこか恥ずかしそうに、





「いや、確かに可愛いかなとは思うんだけど……前の部分って……お腹の上くらいで閉じられないかな?」


「それは可能だが、なぜだ?」


「だって、その……アタシってけっこう筋肉あるし……女なのに腹筋が割れてるなんて、男が見たらガッカリするでしょ? だから、こういうのって隠したほうが――」


「馬鹿野郎!」





 俺は思わず叫んでいた。





「腹筋が割れてることの何が恥ずかしいって言うんだ! それはそれで最高にエロいじゃねえか、セクシーじゃねえか! その腹筋は間違いなく、お前のチャームポイントだ! 何も恥ずかしがることなんてない!」





 ……あ。





 と気づいたが、当然もう遅い。





 リベリオはポカンと口を開けながら、





「今、喋ってたのは……その兜か?」





 ガロン爺さんが慌てたように言う。





「ま、まあ、気にするな。これは冒険者であるこのセリアさんとララさんの持ち物じゃ。しかも二人はエルフ、魔力が込められた装備品を持っていても当然じゃろう」


「そ、そうなのか……?」





 当然かどうかは解らないが、まあそういうことにしておいてもらおう。ララもこのまま話を流そうとするように、どこか頬を染めながら言う。





「わ、解ったわ。じゃあ、アタシはこれでコンテストに出る。アタシも別にこのデザインは嫌いじゃないしね。――でも、流石にこれをタダでは受け取れないわ」


「いいと言っているだろう。俺は楽しければ、それで――」


「そっちはいいのかもしれないけど、こっちが納得できないのよ。だから、もしアタシかセリア姉のどっちかが優勝したら、その賞金の半分はアンタにあげるわ。それでいいでしょ?」


「……ああ、解った。アンタらがそう言うなら、それで構わん」





 リベリオは渋々ながらもそう頷いた。





そして、ララとセリアさんが一度、水着の試着をして、サイズに問題がないことを確認すると、俺たちは店を後にした。





 ガロン爺さんとは店の前で別れて、暮れ始めた街の中を宿へと歩きながら、ララがボソリと呟いた。





「さっきは勢いで『この水着でいい』って言っちゃったけど……やっぱりもっと露出が少ないのにすればよかったかな……」





 俺はララの頭の上から言う。





「いや、コンテストなんだからそれくらいがちょうどいいだろう。むしろ、あまりにも消極的な水着を着ていったら、悪い意味で目立つ可能性がある」


「そうよ。それ、さっき試着した時、凄くララちゃんに似合っていたわよ。何も心配なんていらないわ」


「そ、そう……?」





 ララはどこかはにかむように微笑んで、目を伏せながら言った。





「……ね、ねえ、ハルト」


「ん?」


「さっきは……ありがとね」


「何がだ?」


「何が、って……さっきのことに決まってるでしょ」


「……? なんのことだ? 俺は別に何もした憶えがないが……」





 あっそ、とララはつんとしたように言いながらも、その顔にはどこか楽しそうな笑みが浮かんでいた。





ララが何を言っているのかはよく解らないが、だいぶ機嫌は持ち直してくれたらしい。おかげで、無事に明日は二人の水着姿を拝むことができそうだ。





そう安堵しながら、俺は綺麗な夕焼けに染まる西の空を見上げた。





明日は、よく晴れそうだ。

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