職人の衝動(パトス)part2

 全身をしとどに汗に濡らし、激しく息を切らせながら、ギラついた目で皆を見回す。





「満足のイく物ができたぜ! これを試着してみてくれ! さあ、早く!」





 そうリベリオが二人に差し出したのは――ビキニパンツとレースのパレオ(色は、ララは白、セリアさんは黒)と、それから四つの、金色のふさがついたボタンのようなものだった。





「これは……何かしら?」





 セリアさんが、そのボタンを持ち上げ、不思議そうに見回す。





 それは、まさか……! 





 俺は思わず目を疑ったが、リベリオは燃えるような職人の目で言う。





「それは、ニップレスだ」


「ニップレス……?」





 ララがキョトンと小首を傾げる。リベリオはあくまで厳然とした面持ちで、





「そうだ。つまり、それを乳首につけて、それだけでビキニのトップスとする。対して、アンダーはあえて長めのパレオにした。見せ所であるおっぱいだけに視線を集めるためにな。





 さあ、早く奥の部屋で試着をしてみてくれ! そして見せてくれ! ニップレス姿のお前たちが並んでいる光景を! ぷるぷる揺れる巨乳と貧乳を――」





「死ねっ!」


「ガッ!?」





唐突、ララがガロン爺さんの頭から俺を掴み上げ、そしてリベリオの禿頭に俺を振り下ろした。





 ゴッ! と危険な音を立ててそれを喰らったリベリオは、白目を剥きながら床に倒れる。





「お、おい、ララ! 俺を鈍器にするなって言ってるだろうが!」


「悪いのはこの変態オヤジでしょ! 馬鹿じゃないのコイツ!? こんなの、水着でもなんでもないじゃない! ねえ、セリア姉もそう思うでしょ!?」





え、ええ、とセリアさんも流石に苦笑を浮かべながら、





「流石にこれは、ちょっと……ねえ」


「あ、ああ……すまなかった」





 と、リベリオがヨロヨロと頭を抑えながら立ち上がる。





「衝動パトスが燃え上がる……この感覚があまりにも久しぶりだったから……つい興奮し過ぎちまった。でも今の一撃のおかげで、目が覚めたぜ」





 そうニヤリと笑って、リベリオはセリアさんから返してもらったニップレスを傍のタンスに無造作にしまう。





 そして、ララとセリアさんの全身を舐め回すように凝視し始める。





「ちょ、ちょっと……?」





 戸惑った様子で身体を少し隠すようにする二人を、リベリオは構わずに見つめ続け、





「イ――イマジネエエエエエエェェェショオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォンッ!」





再び独特な(しかしお決まりらしい)雄叫びを上げる。





 そして、先ほどと同じように作業の鬼神と化して、猛然と水着を作り始める。





「ふははっ! どうだ! できたぞ!」


「「速っ!?」」





 つい、俺もララと一緒に叫んでしまった。





「ん? いま男の声がしたような……? 気のせいか?」





 リベリオは怪訝そうに周囲を見回してから、





「どうだ。これこそ、中々いい出来に仕上げられたはずだぜ」





 と、できたての水着を二人に手渡した。





「あら……とても綺麗……。こんな水着、見たことがないわ……」





 セリアさんがそう舌を巻く水着は、確かに見事なものだった。

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