トゥリーズの真珠part3

 ララは冷たい目でその背をちらりと睨み、眉間に皺を刻みながら宿のほうへと歩き出す。





 俺はそんなララに問う。





「ララ、もしかして……俺のために怒ってくれたのか?」


「別に、そんなんじゃないわよ。アタシはただ、キャンキャンうるさいアイツに腹が立っただけ」


「解ってるよ、ララ。ありがとな。でも俺は別に――」


「だから違うって言ってんでしょ。っていうか、それより」





 と、ララはその目にメラメラと闘志を宿して言う。





「何があっても、アイツにだけは負けたくない……そんな気がしてきたわ。コンテストなんてどうでもいいけど、アイツにだけは……!」


「それなら、ちゃんと可愛い水着を買わないとね」





 うふっ、とセリアさんが微笑む。





 そうじゃな、とガロン爺さんは頷き、





「さっきは一体どうなるかとヒヤヒヤしたが……お前さんがやる気を出してくれたのなら結果オーライじゃ。水着屋ならワシが知っておる。ついてきなさい」


「大丈夫でしょうね。まさか変なのしか売ってない場所に連れていこうとしてるんじゃ……」


「何を言うか。リベリオは間違いなくこの街一番の――いや、この世界一番の職人じゃ。ヤツに任せれば間違いはない」





どうやらその点に不安はないらしい。ガロン爺さんの自信たっぷりな様子でララも納得したらしく、先を行き始めたガロン爺さんに続く。





 そして、俺がすぐ上で見ていることも忘れているように、





「見てなさい、あの小娘……。センスが悪いなんて、二度と言わせないから……」





 平然を装ってはいたが、実はかなり頭に来ていた様子で歯ぎしりをする。そして、





「っと、忘れてたわ」





 と、俺を頭から脱いで、ガロン爺さんの禿頭にスポンと被せた。





「これから水着の試着をするかもしれないんだから、アンタはそこで大人しくしてなさい」


「お、おい、何をする! やめろ、ララ! 俺は美少女戦用の装備品だぞ! こんな死にかけた爺さんの頭になんて――」





唐突、頭の中に声が響く。





『スキル・《おさわり》――ダウンロード成功』


『スキル・《ノゾキ》――ダウンロード成功』


『スキル・《ストーキング》――ダウンロード成功』


『スキル・《早寝》――ダウンロード成功』


『スキル・《早起き》――ダウンロード成功』





うわぁ……。





 意図せずガロン爺さんから《学習》してしまったスキルたちに、俺でさえ思わず引いてしまう。





 こんな老人にだけはなりたくねえな……。





「失礼な! 誰が『死にかけた爺さん』じゃ! ワシはまだまだ現役じゃ! さっきも言ったが、ワシはかつて『豪炎のガロン』と恐れられた魔法使いじゃぞ! 本気を出せば、今でも若い者になど負けはせんわ!」





 ……そんなことを宣のたまっておきながら、こんな品性下劣なスキルを習得していたことは、同じ男であるよしみで黙っておいてやろう。





 そして、このくだらないスキルは、念のためにしっかりと頭に刻みつけておいてやろう。





 いつどんなスキルが役に立つかなんてことは誰にも解らない。二人が風呂に入ってる時に、魔物に襲われる可能性だってあるわけだしな。うん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る