トゥリーズの真珠part1
水色に近いほど明るく澄んだ海と、眩いほど白い砂浜。
ステージはそんな南国的浜辺の中に、街道のほうを背にする形で設けられていた。
石造りの、しっかりとしたステージである。
屋根はないが、ステージ前方の左右にはかがり火を焚く台が設えられていて、それに染みついた煤から、このステージがかなり歴史のあるものであることが推察できた。
そして、そのステージから少し左手へ行った浜辺に、普段は納屋として使われているような木造の小屋があって、どうやらそれが水着コンテストの本部らしかった。
「凄い人……。こんなにたくさんの人が参加するんですか?」
「いや、参加者はこの中のごく一部じゃろう。他はみんな観客じゃ」
まあ、そうだろうな。ここにいるのは女より男のほうが多そうだし。
しかし、セリアさんが感嘆の声を漏らした通り、本部やステージの前には、もうすぐにでもコンテストが始まるんじゃないかというくらい大勢の若者たちが集まっている。
コンテスト参加者らしい水着姿の女性たちと、彼女らをナンパしようとしているらしい男たちで、なんとも陽気で浮ついた雰囲気だ。
だが、お前ら。
この雰囲気にかこつけてララとセリアさんの半径二メートルに近づこうものなら、海の彼方に吹き飛ばすからな。
当然、そんな心構えで俺はいたのが、
「――――」
二人がガロン爺さんの後について本部へ近づくと、ワイワイとした辺りの空気が一斉に静まり返った。
女たちはハッとしたように二人を見つめ、やがてその目には敵意が滲む。
男たちもまたハッとしたように二人を見つめ、やがてその鼻の下がいやらしく伸びる。
ガロンは得意げな顔でそんな面々を見回しながら本部の中へ入っていき、玄関すぐ正面、机に座っていた役人らしき男に応募書類を出して、エントリーを済ませる。
「フフ……見おったか? ワシらが部屋に入った時の、受付をしとった男の驚いた顔を。ワシが年寄りだと思っていつも見下しよって……ククク、いい気味じゃわい」
本部を出ると、ガロン爺さんはそう笑う。
老人も老人で色々と鬱憤が溜まっているらしい。
どう返事をしていいものかも解らず、なんとなく社会の闇を垣間見たような寂しい気分で黙っていると、
「オーーーーッホッホッホッホッ!」
高貴でいて下品な笑い声が、ステージのほうから響いてきた。
と思うと、そちらのほうに堪っていた人混みが、こちらのほうへ向かってゆっくりと左右に割れ始める。
そして、その割れた人混みから姿を現したのは、一人の少女だった。
明るい紫色のビキニと、腰には白いレースのパレオを身につけている。
ややハネっ気のある茶色の長い髪はツーサイドアップに纏められ、頭の上には黒い色つきの丸メガネ――つまりサングラスを載せている。
肌は陶器のように白く、胸もそれなりにある。あまり背は高くないが、体つきはスラリとしている。鼻筋が通って唇の形も綺麗で、顔もまるで人形のように可愛らしい。
……のだが、『可愛い』、『美しい』と思うより先に『生意気そう』と思ってしまったのは、毎日、俺がララとセリアさんを見て過ごしているせいに違いなかった。
ふーん……まあ、中の上か、上の下ってとこか。その程度じゃ、もう何も感じなくなっちまったな。
なんて失礼極まりないことを思っていると、少女のネコのような目がギロリとこちらを捉えた。
少女はこちらを――ララとセリアさんを唇を引き結んで睨みつけると、その背後にいる男女数人の取り巻きを従えながらこちらへ詰め寄ってきた。
そして、何かモゴモゴと言ったガロン爺さんになど目もくれずに、ララの正面に立つ。細くくびれた腰に傲然と両手を当てて、
「邪魔ですわよ、どきなさい」
「…………」
ララは何も言わず、少女の紫色をした瞳をやや上から見つめ返す。
『……やめておけ、今のララは機嫌が悪いぞ』
と言ってやりたいが、俺は兜。このような衆目の中では口を開けない。
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