伝説の剣
トゥリーズは、様々な地域からやってくる貿易船が停泊する、賑やかな街だった。
海辺の街道沿いには魚介だけでなく野菜や肉、果物など様々な物を売る店が所狭しと並んでいて、その前では商人同士と見られる男たちが喧噪に抗うような大声で取引をしている。
おまけに綺麗な海と白い砂浜を目的に来た観光客も多いらしく、街はまるでちょっとした祭りのような混み具合だ。
「あんなにたくさんの人なんて……初めて見たわ」
とりあえずバータルを宿の厩へ預けてから、俺たちは毎度の習慣のように、半ば暇潰しで冒険者ギルドへと足を向けた。
宿の主人に聞いた話に従って、山の裾野のほうへと上がっていく路地を歩きつつ、ララが平淡な声で言う。
「……そうね」
市場を離れたおかげで、今は周囲に喧噪はない。
真っ白な家の壁が連なる住宅街には、昼寝時のとろとろとした静けさが満ちている。
だがその静けさが、今の俺たちには妙に居心地が悪い。それは言うまでもなく、ララがまだ機嫌を直してくれないからである。
――俺のせい……なんだよな? でも、そんなにララを怒らせるようなこと言っちまったかな……?
いつものララなら、俺が多少セリアさんを贔屓するようなことを言ったとしても、その時だけは怒るかもしれないが、それっきりけろっとしてるはずだ。
なのに……なぜ今回に限って?
ムスッとして、セリアさんとでさえほとんど言葉を交わさないララに戸惑っているうち、やがてギルドへと到着した。
まるで住宅街の中にある駄菓子屋のような、暢気で平和な佇まい。入り口のドアは開けっ放しにされていて、中にはひと気が全くない。
どう見てもいい仕事はなさそうだな……と思った矢先、俺の目に『あるもの』が飛び込んできた。
「待て、ララ!」
「えっ? な、何?」
ギルドへと足を踏み入れようとしていたララを俺は制止して、入り口の脇に貼られていた張り紙を読む。
「『第二十回・トゥリーズ・水着コンテスト……。五年に一度の名物、《明日》開催。我こそと思う乙女は《本日》までに応募を……。百周年を記念して、優勝賞品はなんと、《百万ニクス》+《トゥリーズに伝わる伝説の剣》……』」
ララが心底呆れたように溜息をつく。
「何よ、これ……くだらない。どうせ伝説の剣なんて――」
「馬鹿野郎!」
「ひゃっ!?」
俺はララを怒鳴りつけて、
「ララ……お前、これに出ろ」
「え? アタシが、な、なんで……?」
「もちろんセリアさんもです」
「わたしも?」
「はい。何せ、賞品は伝説の剣なんですから……俺たちは何がなんでもこれを手に入れなきゃいけません」
「はぁ? 何言ってんの、アンタ? こんなバカみたいなコンテストの賞品が――」
「ええ、そうね」
と、セリアさんが真剣な眼差しで頷く。
「伝説の剣……これは、わたしたちの旅に絶対に必要なものだわ」
「セ、セリア姉!? いや、だからどうせこんなの嘘に決まって――」
「頑張ってください、セリアさん! それにララも! これは俺たちの旅の行く末が懸かった、絶対に負けられない戦いだ! さあ、セリアさん、コンテストにエントリーをしに行きましょう!」
「そうね! 絶対に勝つわよ!」
「「おーっ!」」
と、俺とセリアさんは二人合わせて掛け声。
ララはそんな俺たちに囲まれて、
『ホントに出るの?』
と言いたげな顔で、ただ呆然としていた。
『ララが優勝できるかは解らない。だが、ララの常人離れした美しさをもってすれば、本人が想像もしていないほどの人気と称賛を得られることは間違いない。そうすれば、ララが自信を取り戻してくれるかもしれない』
そうテレパシーのように意志を通じさせた俺とセリアさんの勢い勝ち。そんなところだった。
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