最強の兜と水着コンテスト
海の街と不機嫌なララ
「海だーーーっ!」
「きゃっ!?」
小高い山の垰を抜けると、パッと目の前が開けて、大きな湾の景色――明るい太陽の陽射しを受ける、トロピカルな海の景色が目に飛び込んできた。
それで俺は思わず叫んだのだが、俺を頭に被っていたララは驚いた様子で跳び上がって、
「きゅ、急に大きい声出すんじゃないわよ! ビックリするでしょ!」
「あ、ああ、悪い。でも、こう言うのが定番かなと思って」
「知らないわよ、そんな定番なんて……」
「でも、本当に綺麗……。海を見るのなんて、どれくらいぶりかしら」
ララの隣を歩いていたセリアさんが、額に手でひさしを作りながら、海と同じ青い瞳を遠くへ向ける。
ララはそんなセリアさんの横顔を驚いたように見て、
「え? セリア姉、海を見たことあったの?」
「うん、ずっと小さい頃に。でも、こんなに透き通ったのを見るのは初めてよ」
「へえ……」
と、ララは微かな潮風になびく銀髪を軽く抑えながら、目を奪われたように海を見つめる。
「ララ……もしかして、海を見るのはこれが初めてなのか?」
「ええ……クエストでも、遠くに出るようなやつは受けないようにしてたから……」
そうなのか。まあ、そうだよな。里にセリアさんを一人きりで残すのは不安だろうし、それに自動車も電車もないこの世界じゃ、遠出なんてそう簡単にできるもんじゃない。
「どうだ? 初めて見る海は?」
「……どうかな。正直、少し怖いかも。大きすぎて……」
「ああ、それは俺も解る。海って、綺麗だけど何か底知れない感じがあって怖いんだよな」
「あ、わたしもそれは解るな」
と、セリアさん。
「たぶん、山に囲まれた場所に住んでて見慣れてないからだろうけど、なんだか呑み込まれちゃいそうっていうか――」
「お、おい、オマエら……」
と、後ろから幌馬車をギシギシ言わせて上ってきたバータルが呻くように言った。
「オマエら……馬使いが荒いにも程があるぞ。全員、さっさと先に行きやがって……馬車を押すぐらいはしてくれてもいいんじゃねえのか?」
「『助けなんていらねえ。これしきの坂、オレ様にとっちゃ朝飯前だぜ』ってお前が自分で言ったんだろ」
「そうよ。アンタ、魔物倒すのをアタシたちに任せっきりにしてるせいで、身体が鈍ってきてるんじゃないの?」
俺とララはすぐにそう言い返したが、心優しいセリアさんは、
「ごめんなさいね、バータルさん……。下り坂では、わたしもちゃんと支えるわ。下りのほうがむしろ危ないだろうし……」
「いえいえ、セリアさん」
と、俺。
「セリアさんがそんなことをする必要はありません。――ララ、御者の所に座ってくれ」
「御者の所に? あんな所に座ったら、余計に重くなって危ないんじゃないの?」
「大丈夫だ。俺のスキル・《空中浮遊》を使えば、馬車を浮かしてコントロールすることが可能だ。重さは全くナシにできる」
「なんだよ、それ! んなことができるんなら、最初から言ってくれよ!」
「勘違いするなよ、バータル」
バータルが悲鳴のような声を上げるが、俺は冷淡に言い返す。
「俺の力の八割はセリアさんを守るためのものだ。今回もセリアさんの美しい御手を守るための処置であって、別にお前のためにやるわけじゃない」
「冷た過ぎるだろ! それが仲間に向ける言葉かよ!」
「へぇ……」
と、俺のすぐ下からドスの効いた冷たい声。
「八割はセリア姉のためってことは、じゃあ、アタシは残りの一割か二割ってわけ。へぇ、ふーん、そうなんだ……」
「ラ、ララさん……?」
あ、これメチャクチャ怒ってる。俺は、もうないはずの背筋に冷たさを感じながら、
「いや、ララ。それは別にお前のことはどうでもいいと思ってるわけじゃないからな? お前はしっかり自分で自分を守れるから――」
「いいわよ、別に。アタシだって、セリア姉のほうがアタシよりずっと美人だって知ってるし」
と、ララは御者の席に乗り込んで、
「さあ、もう充分休んだでしょ。さっさと行くわよ」
そう取りつく島もなく言う。
……気まずい雰囲気になってしまった。
俺だけじゃなくセリアさんも、バータルも、この唐突な重い雰囲気に戸惑っている様子である。
青い空に青い海、そして穏やかな潮風……。
そんな爽やかな景色とは対称的な暗く重苦しい空気に包まれながら、俺たちは坂を下って海辺の街へ――トゥリーズへと向かった。
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お久しぶりです。連載を再開します。
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