エピローグ

 ララとセリアさんはそんなアンズの背中をしばし見送ってから洞穴を後にして、バータルが待っているという所へと道を戻り始めた。





 その途上、ランプを持つセリアさんの後ろで、どこか怯えるように背後を確認しつつララは言った。





「ったく……ホントに厄介なヤツを連れてきてくれたわよね、アンタ」


「別に俺が連れてきてきたわけじゃないぞ」


「でも、あの人……ハルト君のことが本当に好きで仕方がないみたいね。別の世界にまで追いかけてきてもらえるくらい女の子に好かれるなんて……それって凄いことじゃない?」


「い、いや、セリアさん、そういうことはまずお互いの気持ちが大切なわけで……っていうか、そんなことより――セリアさん、ララ、本当にありがとう。俺を迎えに来てくれて、俺を助けてくれて。本当に感謝してる」


「そうよ。アタシたちがいなかったら、アンタは永久にあのヤバい奴と一緒にいるハメになってたんだから、せいぜいアタシたちに感謝を捧げることね」


「ララちゃんったら、そんなこと言って……。ハルト君は『仲間よりもっと大切な、家族みたいなもの』なんだから助けに行かないとって、そう言っていたじゃない」


「セ、セリア姉っ!」


「家族……?」





 俺がポカンと繰り返すと、ララは顔をカッと熱くして(ララの頭に触れているから本当にそれが解ってしまった)、





「べ、別にそれはそのままの意味じゃないわよ! それは、その……アンタが浚われたのはアタシの責任なんだから、それくらいの覚悟でアンタを取り返さなきゃっていう……そ、それだけの話よ!」





 と怒鳴って、それから拗ねたような顔で言う。





「っていうか……今のうちに謝っておくけど、あの時は……悪かったわね。アタシがまだまだ弱いせいで、アンタを危ない目に遭わせて……」


「いや、今回の件には魔王も噛んでたみたいだし、お前がどれだけ強くなろうが一人でどうにかできることじゃなかった。お前は何も悪くないよ、ララ」


「な……何よ、慰めてるつもり?」


「別に、そういうわけじゃない。ただ、魔王はそう簡単に太刀打ちできる相手じゃないってことだ」





 何せ、俺がいま習得してる魔法・スキルの八割方は魔王から《学習》したもので、しかも俺はヤツが持ってるその全てを《学習》できたわけではない。





 つまり魔王は、現状、俺が使い余している魔法・スキルよりも数倍上回る数のそれらを保有している可能性が高いってことだ。『魔王』という呼び名はダテじゃない。





 でも、とセリアさん。





「あの人……『魔王』という割には、どこにでもいそうな若い男の人だったわよね。わたしはてっきり、もっと怖い人なのかと思っていたけれど」


「そうですね。アイツは、まあ……いくらか話が通じる相手ではあると思います。その前に、こっちの力を証明する必要はあるでしょうが」





 少なくとも、俺が向こう(元いた世界)でやった『ダーケスト・ヘヴン』(ゲーム)の内容では、そうだった。





 と言っても、ゲームには出て来なかった街や地名がわんさかあるこちらとアレとが、全く同じ世界であるとは思えないから、確かなことは何も言えないが……。





 そんな俺の不安をよそに、ララはニヤリとどこか楽しげに微笑んで、





「またあの女も来るかもしれないし……アタシたちはまだまだ強くならなくちゃいけないってことね」





 そうね、とセリアさんが頷く。





「でも、アンズさんに関してはもう大丈夫よね」


「大丈夫……? どうしてですか?」


「だって、もしまたハルト君がわたしたちを忘れちゃっても、こうやって――」





 と、セリアさんは足を止めてこちらを振り向く。





 そして押しつけるようにララにランプを手渡してから、ララの頭から俺を抜き取り、その極上の柔らかさ――たとえ記憶を奪われようとも、俺の魂が忘れることはなかったその胸のふくらみに俺を抱きしめる。





「こうやってしてあげれば、ハルト君はすぐにわたしたちを思い出してくれるでしょ?」


「ちょっ……セ、セリア姉! 何してんのよ!」


「たくさんこうやってしておいてあげたほうが、ハルト君がすぐにわたしたちを思い出せるじゃない。そうよね、ハルト君?」


「はい、間違いなく」


「アンタ……!」





 ララはいつものごとく俺を睨みつけてしかし、「はぁ」と深い溜息をついて怒りを解く。





「まあ……今回はホントにそれに救われたわけだし、今日だけは許してあげるわ。今日だけは、ね」


「ララも話が解るようになってきたな。じゃあ、ついでにお前のふとももの――」


「調子に乗んな!」





 調子に乗りすぎた。





 結局、いつものようにララにツノを掴んで投げ飛ばされて――そして気づくと俺の目の前には眩い星空と、ぬっと俺を覗き込むバータルの顔があった。





バータルはニヤリと笑うように歯を見せながら、





「よう、ハルト。元気そうだな」


「顔が近い。――けど、お前の顔を見て安心する日が来るとは思わなかったよ、バータル」








 『セリア・ネージュ・ベルナルド





 レベル21





 物理攻撃 32





 物理防御 47





 魔法攻撃 49





 魔法防御 50





 素早さ  30





 最大HP 63





 最大MP 130





 残0』





『ララ・ニュイ・ベルナルド





 レベル26





 物理攻撃 55





 物理防御 46





 魔法攻撃 35





 魔法防御 40





 素早さ  41





 最大HP 83





 最大MP 97





 残0』



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

これで『忘却の剣』編は終わりとなります。


次は季節外れの水着回とする予定で、現在初稿執筆中です。

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