守りたいものpart4
『俺』は……!
確かに『俺』である俺は、今やっと夢から覚めたような気分で、
「そうだ。この感触……!」
この比類なき胸の大きさと柔らかさ、そしてその身体に纏う花のような甘い香り……。
これこそ俺が求め探していた物であり、またアンズの胸に抱かれる度に感じていた、『これじゃない』という違和感の正体だ。
そうだ。この天国のような居心地……ここだ、この場所こそが俺の居場所だ。
なぜ、どうして、いつの間に俺はセリアさんという女神の存在を忘れてしまっていたのだ。
「ハルト君?」
「ハルト……? もしかして、何か思い出したの?」
「え?」
セリアさんの柔らかさに夢中になっていた俺は、つい気の抜けた返事をして、それから慌てて言う。
「あ、ああ、いや……もうちょっと、もうちょっとで思い出しそうな気がする。だからセリアさん、どうかもう少しだけこのままで――あっ」
しまった。つい口が滑って『セリアさん』と言ってしまった。
と後悔するが、時既に遅し。
「ハルト、アンタねえ……!」
その身体の周囲がゆらりと歪んで見えるほどの怒気――否、殺気を漂わせながら、ララはその緑色の瞳でギロリと俺を睨む。
「セリア姉も、アタシも……人がこんなに真剣に心配してやってんのに、アンタはまたそうやって……! ――死ね! このセクハラ兜っ!」
と、ララはセリアさんから俺を掴み上げて、洞穴入り口のほうへと俺を投げ捨てる。が、
『よし、今だ』
そのピンチの瞬間を、俺はむしろ待ちわびていた。こういう狭い空間でララに投げ捨てられる、この瞬間を!
ララはいつも通り、見事なフォームで容赦なく俺を投擲する。
その瞬間、俺はスキル・《空中浮遊》を発動。空中で自ら軌道を修正して壁のほうへと舵を切り、地面近くに転がっていた岩に角度を微調整しながら突っ込む。
そして、カァンッ! という小気味よい音を響かせながら岩に弾かれて、
『お邪魔します!』
「ひゃっ!?」
ジャストの位置で、ララの太ももの間に突っ込んで挟まる。
無論、ララの繊細な肌には傷ひとつつけない。そこは紳士の礼儀である。
『そうだ……。俺はここにいたい。ここが俺の居場所なんだ』
と、ララの太ももからツノへと伝わる柔らかさと温かさ、そして何より見上げる景色の素晴らしさにしみじみと感動していると、ララが真っ赤にした顔で股の間の俺を見下ろして、
「ア、アンタ……!? ど、どこに挟まってんのよ、この変態!」
と、再び俺を掴んで投擲のフォームに入る。
「まあ落ち着け、ララ。これは別にわざとじゃない、偶然だ。というか、ああ、さっきの衝撃で完全に思い出した。俺が何者だったかを……な」
「何が『俺が何者だったのかを……な』よ! もうとっくに思い出してたくせに!」
「そ、それはさておき、どうして二人は俺がこんな所にいるって解ったんだ?」
「ハルト君がわたしたちのことを守ってくれていたからよ」
目に浮かんだ涙を指で拭いながら微笑んで、セリアさんが言う。
「ハルト君がずっとわたしたちのことを守ってくれていたから……そのおかげで、ここまで魔力を辿ってくることができたの」
「なるほど……。《自動防御》には、そんな別の利点もあったのか……」
「ま、まあ、それに免じて、アンタが今やったことは許しておいてあげるわ」
ララは俺を頭に被りながらそう言って、洞穴の入り口へと足を向ける。が、すぐに足を止めて背後を振り返り、
「……アンタ、止めないの?」
と、洞穴の奥――暗がりの中でポツンと立っているアンズを見やる。
アンズは人形のように表情を変えずに、
「はい。今すぐあなたたちを八つ裂きして殺したいほど癪ですが、止めません」
「そ、それは……どうして?」
「今、私はとても消耗しています。なので、ハルくんを絶対に守ってあげられるという自信がありません。なので、『あくまで一時的に』、あなた方にハルくんを預けておくことにします」
「一時的に?」
「はい。なので――いつか、絶対に迎えに来るからね、ハルくん」
そう俺にだけニコリと微笑んで、どこへ続いているのかも解らない洞穴の奥へ――闇の中へと、アンズは姿を消していったのだった。
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