魔力の壁part2

「でも、どうするの? 見えない壁なんて壊しようがないじゃない」


「そうね……。でも、魔力の壁なら、魔力で壊せるのかもしれないわ」


「そ、そんなことができるの?」


「どうかしらね……。やったことがないから、できるのかは解らないけれど……でも、可能性があるなら、なんでもやってみないと」


「う、うん、そうだよね。悩んでる暇があったら、やってみないと」





 ララが頷いて見せると、セリアは小さく頷いて、





「それで……ララちゃん、一つ、試してみたいことがあるのだけど」


「試してみたいこと?」


「魔法剣――やってみない?」


「ま、魔法剣……?」


「そう、魔法剣」


「アタシたちが?」


「うん、わたしたちが」


「…………」





 魔法剣とはその文字通り、武器に魔法の効果を付着させた状態で敵を斬る攻撃である。





 が、それはその言葉ほど簡単なものではない。





 それを一人でやるならば、その使い手は剣と魔法の技術双方に習熟していなければならないし、二人で役割を分けたとしても、魔法が武器に付着しているほんの数瞬のうちに、確実に攻撃を打ち込まねばならない。





 どれほど修練を重ねた者の魔法であっても、その効果が剣に付着するのは3イノ(秒)が限界と言われている。





それに、だ。





 『武器に魔法の効果を付着させた状態で敵を斬る』――のが魔法剣なのだが、細かく言えば、そこには語弊がある。





 正しく言うならば、『剣の軌道に合わせて魔法の効果を生じさせ、あたかも剣に魔法が付着しているかのような状態で相手に攻撃を加える』のが魔法剣なのである。





 だから、二人でそれを放つほうがむしろ難度は高い……と言われているのを、ララは以前、ギルド仲間との話で聞いたことがあった。





確かに、今は敵を目前にした焦りはないから、いくぶん成功はしやすいかもしれない。それに、自分たちは同じ血が流れる姉妹だ。呼吸を合わせるということなど朝飯前かもしれない。





 ――でも……。





「でも……なんで魔法剣?」





 今は、魔法の壁は物理的には壊せないから魔法で壊そう、という話だったはずだ。それなのに、なぜ半物理攻撃である魔法剣を使うということに?





「それは、えーと……」





うふっ、とセリアはお茶目に微笑んで、





「実は、前から試してみたいと思ってたの。魔法剣って……なんだか格好いいじゃない?」


「…………」





 緊張感があるんだかないんだか……。ララは思わず呆れてしまいながら、





「じゃあ……一回だけやってみる?」


「うん、一回だけ」





 そう嬉しそうに言いながら、セリアはララの後ろへと移動する。





「で? アタシは何をすればいいわけ?」


「ララちゃんは、私が合図したら剣を振ってくれればそれでいいわ。私が《ファイア》を剣に纏わせるから、その時に」





 ――大丈夫なの、本当に……?





 炎の魔法で髪を燃やされたくはないから、髪から剣を離して――可能な限り剣を横向きにして構える。と、





「行くわよ、ララちゃん――今!」


「え!? も、もう!?」





不意にパッと洞穴内が明るくなったと思うと、確かに剣の周囲には真っ赤に燃える炎が生じていた。





 もっと慎重にタイミングを計ってくれるのかと思っていたが、そういえば姉は何ごとも臆さず飛び込んでしまう人だった。





 ララはそれを思い出させられながら――もう退くに退けない――半ばやけっぱちで、





「くっ――はああああああああああああああっ!」





 その炎剣を振るったのだった。





  ○  ○  ○



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

読んでいただいて、ありがとうございます。


『忘却の剣編』のクライマックスが近づいてきました。


もし少しでも興味を持たれたら、フォロー・応援等していただけると続きを書いていける活力となります。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る