奥手な親衛隊長の恋愛日和の休日

桜草 野和

短編小説

「アルス、お店の中をぐるぐる歩き回らないでよ!」





 また店主のニーナさんに怒られてしまう。俺は王宮が見えるいつもの席に戻る。


 国王様の安全が気になって仕方ない。そわそわして、つい店内を歩き回ってしまう。





「休みの日くらいリラックスしなさいよ、親衛隊長さん。はい、これは国王様を守ってもらっているお礼のサービス」





 ニーナさんがビールを運んできてくれた。





「王宮で何かあったらいけないから」





 俺がビールを返すと、





「まったく、堅物なんだから。ゴクッゴクッゴクッ。プハ〜! 晴れた日のビールは格別だわ」





 ニーナさんは豪快にビールを一気飲みした。





「今日は特に天気がいいわ。サンドイッチ作ってあげるから、アルスもピクニックにでも行ってきなさいよ」





 俺は首を横に振る。





 祖国リルゴーラのリジェネリアム国王様の親衛隊長を務める俺は、休日になるときまって王宮がよく見えるピザ屋ニーナの食卓に通っていた。





 胃がムカムカするほど、コーヒーをおかわりして、王宮に異変がないか見守ることしかできない。王宮に魔物が浸入してきて、国王様が大変な目にあったこともある。





 休日は苦手だ。





 王宮で国王様の護衛をしているほうが、不謹慎な言い方をすれば気分的に楽だった。





 親衛隊副隊長のリガルは、力は滅法強いが、機転が利かない。敵対国の策略にはまって国王様を守れないかもしれない。そんなことを考えると、ああそわそわしてしまう。





「アルス!」





 ニーナさんが、無意識に店内をぐるぐる歩き回っていた俺の足元にフォークを投げつける。いつもながら見事にフォークが床に突き刺さる。これはもう、店から出て行けというサインだった。








 ニーナの食卓を追い出された俺は、仕方なく鍛冶屋に向かうことにした。特に今日は早く追い出されてしまった。ニーナさんの機嫌が悪かったのかな。


 他に用事もないし、剣の手入れをしておこう。





「アルス、この剣は完璧だ。直すところなんて一つもない。先週、刃こぼれを直したばかりじゃからな」





 鍛冶屋の職人ロイジャーさんは、剣を一目見て俺に返した。





「たまには女の子とデートでもしたらどうじゃ。今日は特に天気もよい。お前さんならさぞモテるだろうに」





「国王様の命をお守りすることが俺の使命です。恋にうつつを抜かしている暇はありません」





「もったいないのう。ワシがお前さんだったら、女どもを抱きまくっておるわ。ギャハハハッ」





「そんな卑猥な考えをするから、ロイジャーさんは俺にはなれなかったのですよ」





「つまらん奴め。しっしっ。仕事の邪魔じゃ。帰っておくれ」





 ロイジャーさんに煙たがられる。いつもはもっと談笑してくれるのに。俺はもしかして、街のみんなに嫌われ始めているのか?








 鍛冶屋も追い出された俺は、間もなく誕生日をむかえられるカトリシア王女様のために、花を買いに行くことにした。





 ところが、花屋に行くと、バラ1本残っておらず、品切れとなっていた。


 何でも隣国サリーミッシュから訪れた人気舞台役者レミオのために、女性ファンたちがこぞって花を買いに来たそうだった。レミオのことはもちろん知っているが、ここまで人気があるのか。





「アルス、カトリシア王女のお誕生日はまだ2ヶ月も先でしょう。あなたは本当に王家を愛しているのね」





 花屋のマチルダさんが、やや呆れ顔で言う。





「まぁ、リジェネリアム国王様は名君主で私たちの誇りだからアルスの気持ちもわからなくはないけどね。他国の王たちは、民がリジェネリアム国王様が治めるこのリルゴーラを羨ましがっていて、困っているってもっぱらの噂よ」





「ですよね! リジェネリアム国王様は俺たちの誇りですよね!」





 俺はマチルダさんの手を両手でぎゅっと握りしめる。


 マチルダさんは苦笑いを浮かべる。





「でもね、アルス。物事には限度があるの。たまには、息抜きしなさいよ。あなたを見ていると、何だか私まで息苦しくなってくるわ」





 マチルダさんがニーナさんと同じようなことを言う。





「それにしても、あの子、帰って来るの遅いわね」





「あの子?」





「ああ、先週から手伝いに来てくれているセリーヌのことよ。お花が全部売れてしまったから、花畑に花を摘みに行ってもらったのだけど……。今日は特に天気もいいからね。あっ、そうだ!」





 心配そうな表情をしていたマチルダさんが笑みを浮かべる。





「アルス、ちょっと花畑まで様子を見に行ってくれない。私、心配でたまらないのよ。だってあの子、物凄くかわいいんだから」





 マチルダさんは、“かわいい”の部分を強調して言った。











 花畑の中央で、セリーヌは泣いていた。


 大きな瞳から、大粒の涙をこぼしていた。その涙が落ちた蕾は、さぞかし美しい花を咲かせることだろう。





「マチルダさんが心配していましたよ」





「ごめんなさい」





 セリーヌは俺を見つめて謝る。





「帰ろ…えっ?」





 セリーヌは突然俺に抱きついて、





「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」





と何度も謝る。





「アルスさん、ごめんなさい」





「どうして俺の名前を?」





「リジェネリアム国王様の親衛隊長だから……」





 俺は咄嗟に嫌な予感を察知する。





「私は兄を止めようとしたのです。兄は表向きは舞台役者ですが、本当は暗殺者なのです」





「まってくれ。舞台役者って、まさか君のお兄さんは……」





「はい。舞台役者、いえ暗殺者のレミオです」





 そんな……。今日、レミオはリジェネリアム国王様とご接見の予定になっているぞ。





 俺が急ぎ王宮に向かおうとすると、





「お待ちください」





とセリーヌが俺の腕を掴んで呼び止める。なかなかの握力と腕力だ。そこら辺の魔物よりよっぽど強い。





「この街に来て、リジェネリアム国王様はもちろん、親衛隊長のアルスさんのお話をたくさんの方からお聞きしました。国王様を守ることしか考えていないアルスさんのことを、みなさん笑顔で語られていました。そして、私はそんなアルスさんに恋をしました」





 こ、こんなにかわいい女の子が俺に恋をしただと?





「黙れ! 誰が暗殺者の妹のたわ言など信じるものか! この話も俺を足止めするための時間稼ぎなのだろ!」





「……そうですよね。暗殺者の妹の告白なんて信じられないですよね。わかっていました、こうなることくらい。ただ、アルスさんが兄に殺されてしまう前に、この気持ちだけは伝えておきたくて……」





「ふんっ、俺は暗殺者などという卑怯者に殺されたりはしない」





 世界最強の師匠に鍛えられたのだから。





「アルスさん、兄は卑怯者だから強いのです。誰も兄には敵いません」





 セリーヌがきっぱりと言う。


 まぁ、俺より強いことはないだろうが、ますます国王様の身が心配だ。


 俺は花畑にセリーヌを残して、王宮に向かって駆け出した。











「あっ、アルス、セリーヌは? どうしたんだい? 血相を変えて」





 すまん、マチルダさん。今は説明している時間がない。








 王宮の前にたどり着くと、レミオのファンの女たちが、周りを囲んでいた。





「愛しのレミオ様ー!」





「私の愛を受け取ってくださーい!」





「レミオ様ー、早く出て来てー!」





 キャーキャーうるさくて、これでは王宮で騒ぎがあってもわからないではないか。





「おいっ、中に入れろ! 国王様が危ない!」





 俺が門番に言うと、王宮番人長のデービッドが姿を見せる。こんな時に面倒くさい奴が出て来やがった。





「これはアルス様。確か、アルス様は本日はお休みですよね。申し訳ないのですが、アルス様とはいえ、勤務日以外に王宮にお入れすることはできません」





 デービッドは愉快そうにうすら笑いを浮かべる。


 俺に衛兵隊長の座を奪われたことをずっと根に持っているジメジメとした奴だった。


 王宮に入るためには王宮番人長のデービッドの許可が必要だ。


 しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。俺は剣を抜く。





「おっと、アルス様。力づくで王宮に入られるおつもりですか? そんなことをしたら王宮に侵入する重罪になりますよ?」





 そうしてほしいような言い方だな。言われなくとも、そうするさ。





 シャキーン! シャキーン! シャキーン!





 俺は王宮に入れるように、正門を斬り破った。





 あとでどんな罰でも受けてやる。





「アルス、どうやら本当に一大事のようだな」





 デービッドの顔つきが変わる。





「大至急半鐘を鳴らすのだ! お前たちは俺について来い。アルス、国王様のためだ。俺も手を貸してやる」





 ほう、こんな男気を持っていたのか。デービッドのことを誤解していたようだ。





 俺はデービッドたちを引き連れ、王宮の中へと突入した。











 国王の間では、十数名の衛兵たちと、衛兵副隊長のリガルが倒れていた。





「ア、アルス様……と、止めようとしたのですが……」





 随分と派手に殴られたものだ。





「もういい、ゆっくり休んでいろ。お前たち、リガルたちを救護室へ」





「はっ」





 デービッドの部下が、リガルたちを救護室へ連れて行く。





「国王様、お変わりないようだな」





 デービッドが俺を見て、やれやれという表情をする。





「どうかしたか?」





「いや、何だか、さっきから胸が苦しい感じがして」





「お前は国王様のことを心配しすぎなんだよ」





 心配……いや、胸がギューッと締め付けられるようなこの苦しみは、いつもの心配によるものとは違う。





「あいたたた」





 リジェネリアム国王様は、膝をついて座り込んでいた。


 その隣には、ボコボコにされたレミオが横たわっていた。もはやもとの顔がわからない。出待ちしている女たちはさぞがっかりすることだろう。





「あいたたた。アルス、ちょうどよいところに来てくれた。肩を貸してくれ」





「国王様、また暴れて腰を痛めたのですね」





 俺は王座まで国王様を支えて歩く。





「ふぅー、大変な目にあったわい」





 大変な目にあったのはリガルたちのほうだと思うが。





「コヤツ、バラの花に仕込んでいた毒針でワシを殺そうとしやがってのう。頭にきて、ボコボコにしてやったわい」





「それだけですか?」





「ううっ、そ、それだけじゃ」





 国王様は口笛を吹いて誤魔化そうとする。





「国王様、本当にそれだけですか?」





「す、すぐに怒りが収まらんかったから、久々に街の外に出て、魔物に八つ当たりしに行こうとしたら、ワシの持病の腰痛を心配したリガルに止められてのう。ついリガルたちに手を出してしまった」





 リジェネリアム国王様は表向きは穏やかで虫一匹殺せない心優しきお方だと思われているが、キレた時は誰も止められないほど暴れてしまう一面もあった。


 以前、魔物が浸入してきたときも、カトリシア王女が狙われているのを見て、激怒したリジェネリアム国王様を止めるのに一苦労した。





 リジェネリアム国王様は、若き頃、身分を隠し、勇者のパーティに入り、魔王討伐を果たされた伝説の騎士でもあるのだ。民には今でもそのことを隠している。おそらく、冒険の途中で、何度も暴れてしまい、民に知られたくない伝説も残しているに違いない。





 そして、俺を鍛えてくれた師匠こそ、リジェネリアム国王様だった。今思うと、ただ単に、国王様のストレス発散の相手をしているうちに、命がけで強くなった気もするが。





「アルス、またあの魔法使いを呼んでくれ。ワシの腰痛は、あの魔法使いの痺れるほど強烈な回復魔法でないと治らぬ」





「国王様、お忘れですか? あの回復魔法は、一人に一回しか効かないと、おそろしく高額な治療費を払った魔法使いが言っていたではないですか」





「おお、そうじゃった。あいたたた。これは困ったことになったのう」





「しばらく安静にするしかないですね。まったく、こうならないか心配していたこっちの身にもなってくださいよ」





 リジェネリアム国王様はお強い。誰かに命を奪われるような心配はしていなかった。


 暴れて国王様の腰痛が再発しないか、止めようとしてリガルたちが被害にあわないか、今日のような休みの日でも心配でそわそわしていた。


 レミオが暗殺者だとセリーヌに教えられ、それに気づいた国王様がキレていなければいいと思ったのだが……。





「そうだ、アルス。ちょうど、ワシも伝えたいことがあるのだ。アルス、我が娘、カトリシアと結婚してくれぬか。各国の王子たちから縁談の話がきているのだが、カトリシアは首を縦には振らぬ。理由はお主に惚れ込んでいるからに他ならぬ」





 えっ? カトリシア王女様が俺のことを? とても光栄なことだけれど……。





「しかし、私とカトリシア王女様とでは身分が違いすぎます」





「この際、身分などどうでもよい。今度の誕生日でカトリシアも22歳になってしまう。おばさん目前じゃ。どうだ、アルス。カトリシアと結婚してやってくれ。というか、カトリシアと結婚するのだ。これはもう命令である」





 より強く胸が苦しくなる。熱くなる。もう一度、会いたくなる。


 花畑に置いてきたままの恋がある。





「国王様、その命令には従えません。私には、愛することを神に誓った相手がいます」





 国王様に初めて嘘をついた。





「か、神に誓ったのか。それではどうすることもできぬな。アルスにそのような相手がいたとは……。だが、それならそれでカトリシアも諦めがつくであろう」





 俺は王宮をあとにして、花屋へと向かった。











「マチルダさん、セリーヌは?」





「それがまだ帰って来ていないのよ。魔物に襲われていたらどうしましょう」





 やはりセリーヌは花屋に戻っていなかった。











 急ぎ花畑に向かうが、魔物たちがくたばっているだけで、セリーヌの姿はなかった。





 もう、会うことはできないのか。せめて、酷いことを言ってしまったことを謝りたかったな。


 告白してくれたのに、「暗殺者の妹のたわ言など信じるものか!」とか、「時間稼ぎなんだろ」とか、最低なことを言ってしまった。











 日が暮れ、俺は初めて、バーに行った。





 店内の男たちが酔い潰れていて、最後の一人もドタッと倒れる。





「ケンカもお酒も弱い男ばっかり。あーあ、アルスさんが生きていたらなー」





「おいおい、人を勝手に殺さないでくれよ」





 俺を見たセリーヌが抱きついてくる。


 よかった。また会うことができた。





「さっきは、ごめんなさい。酷いことを言ってしまった」





 ちゃんと謝ることもできた。





「それだけですか?」





「それだけとは?」





「だから、私に言いたいことは、それだけですか?」





 セリーヌが大きな瞳で、俺をじっと見つめる。





「も、もし、よかったら」





「もしよかったら?」





「俺と結婚してください」





「痛いっ」





 プロポーズして、頭を下げたら、セリーヌの頭にぶつかってしまった。





「アハハハッ。アハハハッ」





 セリーヌはお腹を抱えて急に笑い出す。打ち所が悪かったのか。





「アハハハッ。プロポーズされて、頭突きを食らうなんて、一生の思い出になります。ありがとう、アルスさん」





「…………」





「マスター、おかわり。アルスさんは何を飲まれますか?」





「……あの、セリーヌ、プロポーズの返事をまだ聞かせてもらっていないのだが」





「あっ、私としたことがごめんなさい。返事は『はい』に決まっているから、言葉にするのを忘れていました」





「では……」





「はい。プロポーズをお受けします」





「ありがとう、セリーヌ! 絶対に幸せにするよ! ありがとう! ありがとう! ありがとう!」





 俺はセリーヌを強く抱きしめる。





「キャッ。ちょっと痛い。でも、その分幸せ。アルスさん、私をこのまま強く抱きしめてください。誓いのキスの後も」





 セリーヌが目をつむる。





 俺は勇気を出して、セリーヌに誓いのキスをする。





 ドンッ!





 バーの入り口が勢いよく開くと、リジェネリアム国王様、カトリシア王女様、リガル、レミオ、デービッド、ニーナさん、ロイジャーさん、マチルダさんがなだれ込んで来た。





「でかしたなアルス、婚約おめでとう! 息子同然のお主の結婚が心配で心配で死ぬに死ねんかったわい。ワシは今、最高の気分じゃ!」





 絶対にまだまだ長生きされると断言できるリジェネリアム国王様が嬉しそうに言うと、





「婚約おめでとう!」





とカトリシア王女様をはじめ、みんなが俺とセリーヌを祝してくれた。





「やったぜー!」





「こりゃめでたい!」





 酔い潰れていたはずの客たちも一斉に立ち上がり、拍手したり、乾杯したり、騒ぎ出す。





 ヒュードドドーンッ!





 外に出ると、花火が打ち上げられていた。そして、街のみんながバーを囲むように集まっていた。





「堅物アルス衛兵隊長、婚約おめでとうございます!」





 拍手して、俺とセリーヌの婚約を祝してくれる。





 ヒュードドドーンッ!





 遠くの街でも、花火が打ち上げられている。あれは確か、俺の故郷のエルバーンがある方角だ。





「皆の者! 今日はワシのおごりじゃ! アルスとセリーヌの婚約を盛大に祝うぞよ!」





「おおー!」





 街の者たちがさらに盛り上がる。





「リジェネリアム国王様、腰はもうよくなったのですか?」





「はて、何のことかのう。それより、アルス、自分の腰の心配をしたらどうじゃ。明日は腰が痛くて大変だろうのう。なにせ、こんなに美しい娘と婚約したのじゃから」





 国王様が民の前で下ネタを言うなんて。さては、すでに酔っておられるな。





 っていうか、完全にはめられた!





「まだ婚約しただけですから、そういうことは結婚式までしません。みんなで、俺を騙したのですね!」





「こうでもせんと、アルスは結婚しないと思うてな。ワシが皆に協力を頼んだのだ。カトリシアもつい先日、婚約が決まってな。あとはお主の結婚が心配でのう」





 カトリシア王女がニコッと微笑む。





「それはおめでたいですね。カトリシア王女、ご婚約おめでとうございます。でも、リガルとレミオを、ここまでボコボコにする必要はなかったでしょう!」





「隊長の幸せのためです。名誉の負傷であります」





とリガルが言えば、





「かわいい妹のためだ。これしきのこと、かすり傷さ。それに、舞台役者たる者、決して演技を見破られぬように、リジェネリアム国王様には本気で殴っていただいた。感謝しております。リジェネリアム国王様」





とレミオが言う。





「だったら、レミオが暗殺者だと言うのも」





「アルスさん、それは本当ですわ。でも、みんなにバレてしまったら、暗殺者をやめるしかないわね。お兄ちゃん」





「かわいい妹も、一人前の女になっていたのか。お前の望み通りになったな」





 舞台役者らしく、レミオが大げさに参ったという仕草を見せる。





「さぁ、皆の者、朝まで飲んで歌い、踊るのじゃー!」





「おおー!」





 音楽隊の演奏も始まり、さらに盛り上がってくる。





「アルスも今日は羽目を外して、浴びるほど酒を飲むがいい!」





 国王様は先程から、すでにウイスキーを3杯も飲んでおられる。





「リジェネリアム国王様、私は明日、護衛の仕事があります。このバーに来てお酒を飲むのも、1時間ほどと考えておりました。私は朝まで飲む気などございません」





「ええ〜、そんな〜、朝まで一緒に飲もうよ〜」





 国王様はもはや子供のようだ。





「嫌です。1時間後にセリーヌを宿まで送り、家に帰ります」





「この堅物め。わかったわい。皆の者、今から1時間、思いっきり飲んで歌い、踊ろうぞ!」





「おおー!」





「アルス、騙してごめんね。お詫びにうちのピザ持って来たよ。婚約おめでとう」





「羨ましいぞ、この色男め。よかったなー!」





「結婚式のお花は私に任しな。セリーヌ、アルスをよろしくね」





 ニーナさん、ロイジャーさん、マチルダさんが、俺とセリーヌの婚約を祝ってくれる。





「ゴクッゴクッゴク。プハーッ!」





 とんでもない休日になったものだ。それにしても、ビールってこんなに旨い飲み物だったのか。





「アルスさんは本当にみなさんに愛されているのですね」





「うーん、自分ではよくわからないけど、とにかく今、胸がジーンとしている」





「なんだか嫉妬してしまいます」





「ご、ごめん。俺が愛しているのは、セリーヌだけだよ」





「キャッ。幸せすぎて死にそう」





 セリーヌが俺に抱きつく。





「ところでアルスさん、怖くて聞けなかったのですけど、いつ、私を愛するようになってくれたのですか?」





「強く腕を掴まれた時だよ。あの時から、セリーヌのことが頭と心から離れなくなった。あんなに強く、腕を掴まれたのは初めてだったから」





 こんなにかわいい顔をして、魔物たちを返り討ちにするほど強くなったことには、何か理由があるのだろう。


 並大抵の努力ではここまで強くなることはできない。俺にはよくわかる。


 花畑の中央で泣いていたセリーヌの涙は本物だった。


 いつかその理由を話してくれるだろう。





 その時、俺とセリーヌは初めて本当の意味で結ばれる。


 大丈夫。俺はセリーヌを愛し続けるよ。どこにも行かないよ。





 だってもう、次の休日が楽しみで仕方ないのだから‼︎





 サンドイッチとビールを用意して、セリーヌと2人で、花畑にピクニックに行きたいな!

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