8本目【一級事故】はじまりのイエローハウス【実家です】

8-1 前編【霊感持ちが死ぬとどうなるの?】



「ハイ、どうも〜! いただきます! 『ゴーストイーター』のウスバカゲロウ二号です!」


「三号です。今日は二本撮りになりました」


「三号くんが被っている黒いニット帽について知りたい人は、一つ前のお祝い動画を見て下さい!」


「物件に行く前に渡してくれれば、動画の中で使えたのに」


「さっき買ったからねぇ。動画の編集してて、何かが足りないな〜って思ったんだ! 僕の新しいライオンマスクも買わなきゃいけなかったし」


「編集途中に急にいなくなるから、どこに行ったのかと思ったら」


「そういうこと! じゃあ早速だけど動画に行きましょう! と、言ってもキミの実家なんだよね」


「二人で行ってきたので、いつものうるさいテロップは無しです」


「うるさい!? そんなこと思ってたの!?」


「あんまり浅葱さんの動画、見ないんですけど」


「見てよ!! 相棒でしょ!」


「善処します」


「……絶対、善処しない時の言い方だ」


「じゃあ動画にいきましょう。これは依頼じゃないんで、二人で喋りながらダラダラやってます」


「作業用にでもして下さい! どうぞ!!」






***





「……はい、いただきます。ウスバカゲロウ三号です」


「歩きながらの動画、失礼します!」


「今日は今から二人で、三号の実家に行きます」


「僕はカメラマンとして同行してるよ!」


「二号さんも映りましょうよ」


「やめて! 僕、いま素顔だから!!」


「いつものライオンマスクはどうしたんですか」


「ちょっと落としちゃってね……三号くんこそ、帽子はどうしたの?」


「ラフィにあげたのでありません。三十路手前のくたびれた男が、カメラ片手に金髪黒マスクの人物を撮っている怪しい絵になってます」


「わざわざ言葉にしないでよ!」


「ちょっと今、アカウント停止されているんで普通の依頼がこなせなくて。なので、自分たちが持っている事故物件の紹介をします」


「これはアルバイトじゃないから、一晩過ごしたりしません!」


「今は昼間ですし」


「そういえば、廃病院の時も泊まらなかったよね」


「三号は寝てないですけど、二号さんは完璧にグッスリ寝てたでしょ」


「あれは寝てたって言うか、気を失っていたんだよ!?」


「同じですよ。今回も、足手まといにはならないで下さいね。勝手な行動をしないように」


「了解! 三号くんの家、地元じゃ結構、有名なんだよね。ココ?」


「そうです。住人の方の迷惑になってはいけないので、階段で上がりましょう」


「四階まで?」


「四階なんて、すぐですよ。数々の事件・事故が起こったせいで、壁紙が何度塗り直しても黄色く滲んでしまうんです。だから、イエローハウス」


「どんな事件があったの?」


「時期はそれぞれバラバラなんです。だけど昔から、その部屋では家族にまつわる血生臭くて嫌な事件が起こります」


「……その部屋だけ?」


「はい。今でも、その部屋以外では人が暮らしていますよ。駅近だし、部屋数も多いし、学校も近いのでファミリー層に人気なんです」


「ファミリー層……そんな噂があるのによく入居するね……ハァ、いま何階?」


「まだ二階です。気にしない人は、全然気にしないですからね。そしてそんな人を一番、幽霊は嫌うんです。できるだけ自分の存在を認めて恐れて、怖がって欲しいから」


「三号くんの家族は、どうして404室に入ったの?」


「家賃が安かったからです」


「単純な理由! 住み始めて、どうだった? なにか変わったことは?」


「たくさんありましたけど、もうあまりよく覚えていないです。でもケガレはケガレを呼びますし、子供のうちは悪い幽霊にだまされやすいですから、まだ七歳にもなっていなかった三号にはシンドかったですね」


「七つまでは神のうち、ってヤツ?」


「子供は七つになるまでは『この世』と『あの世』の境界を生きる『神の子』だっていう考え方ですね。どちらかというと『あの世』に片足を突っ込んでいますから、引きずり込みやすいんです。『あの世』のことを黄色い泉と書いて『黄泉』と呼ぶ時もありますし、そう考えると『イエローハウス』っていうのは良いネーミングですね」


「見習いたいね……ゼェ、そのセンス!」


「二号さんには無理でしょう。諦めて下さい」


「ヒドくない!? 僕だって、やれば出来るよ!」


「ハイハイ」


「いま何階?」


「三階です」


「あと少しかぁ……結局、その部屋では何が起こっていたの?」


「一番最初に死んだ住人が、強い霊感持ちだったんです。霊感持ちが死ぬと厄介なんですよ」


「なんで?」


「自分が今まで見てきた哀れな幽霊に、自分自身がなってしまったという現実を受け止めないといけないから。蟻地獄に沈む蟻を眺めていたら、いつの間にか自分が砂に飲まれる蟻になっていた……と、いうところでしょうか」


「ミイラ取りがミイラ、みたいな?」


「もっと残酷ですね。認めたくないんですよ。だって、幽霊が最後にどうなるのかは霊感持ちが一番よく知っているはずですから」


「そうなんだ……ゼェ、ゼェ……」


「とにかく、普通の人間が死ぬときよりも膨大な恨みと未練と遺恨が残ります。エネルギーの暴走ですね。まだ空想の域を出ませんけど……おそらく、自分が失った家族を探し求めていたんでしょう。代わりなんていないのに。その気持ちが、事件を引き寄せ続けたんです。そして一つの場所に霊が集まりすぎて、世にも珍しい事故物件の羅睺らごうになったと」


「何度も同じ場所で事件・事故を繰り返すから、一号は『イエローハウスは一級事故物件だからな』って言ったのかな……じゃあ、その部屋に他人同士で住めば問題ないの?」


「統計をとったわけではないですけど、大丈夫みたいですね。ただその場合は、度重なる怪奇現象に耐えかねて早々に退去しているようですけど」


「不気味な部屋なんだね」


「人の実家のことを悪く言わないで下さい」


「ご、ごめん……悪く言ったつもりはないんだけど……」


「冗談ですよ。バカですね」


「バカ!?」


「確かに不気味な部屋です。三号は、あまり長い間住めませんでした。途中で祖父母の元へ行って、その後は残った家族が暮らしていました」


「引っ越せば良かったのに」


「毎回入念に事故物件ロンダリングされていて、告知されなかったんですよ。普通、自分が住んでいる家が事故物件かも? なんて考えますか?」


「考えないかも……。僕も不動産仲介業の新人時代に事故物件を何件も渡り歩いたけど、その時にはじめて知ったよ」


「いつの頃から『事故物件』なんて言葉が出回りだしたんでしょうね……さて、着きましたよ」


「着いた!! ハァ、ハァ……! 三号くんは流石に息切れてないね」


「当然です。運動不足ですよ」


「そういえば、ここって空き部屋でしょ? どうして三号くんが部屋の鍵を持ってるのかな?」


「404室は、三号の所有物なんです」


「持ち家ってこと?」


「こんな部屋に、もう誰も住まないようにするためですよ。ここは、三号が永遠にロンダリング中なんです。最初に頼まれた事故物件でもあります」


「依頼主的には、それで大丈夫なの?」


「事情が事情ですから。それに、弟のお墓でもありますし」


「じゃあ手を合わせておこうね。南無南無……」


「近所の人から変な目で見られるんで、やめて下さい」


「気を使ったのに!!」


「今更でしょう。変な同情心見せると、羅睺らごうに飲み込まれますよ」


「……こわくなってきた」


「それじゃ、行きましょう」


「心の準備させて!?」


「そんなもの、あってないようなものだから開けます」


「わーーー!?」





『ついに開かれたイエローハウス!!(三号くんの実家)


 果たして僕たちを出迎えたモノとは!?


 次回に続く!!


 ごちそうさまでしたっ!


 ばいば〜い』





<コメント:新着順5件表示>


アカウント名:おえかきや

イエローハウス、地元の物件じゃん!!

友達がイエローハウスに住んでるけど、その部屋以外は別に普通なんだよなぁ。

404の部屋だけ……いつも嫌なことがおこる。

へんなの。

でもちょっと気になる。自分に関係ないからw


アカウント名:先華

最初のBGM変えた?

ちょっとピッチというかテンポおかしくない??

対応して下さい!!


アカウント名:荻野色

すげぇゆるい動画ww

まぁ、たまにはこういうのもいいかw

最近無駄に怖かったもんなw


アカウント名:ふゆくん

三号くん、弟がいたんですね!

「おとうとのおはか」って聞こえた気がしたけど、気のせいだよね?


アカウント名:R san

good^^

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