3本目【断崖絶壁】いつでも死ねる家

3-1 前編【幽霊ぎゅう詰め満員御霊】




「ハイどうも〜! いただきますっ! 『ゴーストイーター』のウスバカゲロウ二号です!」


「三号です」


「今回はですねぇ!」


「えっ? なんですか?」


「こーんかーいはっ!!」


「ちょっと風がキツくって……車内に入りましょうよ」


「そうしましょう! ここはですねぇ、とある有名な自殺の名所!! 某崖の上です!!」


「流れの速い海流のせいで強い潮風が吹いています……! ホラ、車のドア開けましたよ!」


「ありがとう! 三号くん!!」


「最初から車内でオープニング撮ればよかったのに」


「え〜? でもいつも車内だからさぁ。たまには気持ちを変えたくて!」


「……尺、足りなくなりますよ」


「よし! じゃあ今回の物件はですね、前回お伝えしたとおり『いつでも死ねる家』です! カメラ動きますよ。よいしょ、っと」


「崖の上に立っている、小さな平屋が問題の物件です」


「あそこはですね、元々とある資産家の別荘だったんですけど……まあ色々あって、別荘を本宅にしないといけなくなってしまったんです」


「平たく言うと、没落したんですね」


「三号くん! オブラートに包んで!!」


「オブラート……?」


「ここでジェネレーションギャップ!? えっと、アレだ。おピーッくピーッすピーッりピーッのピーッめピーッたピーッね的な奴のことだよ!」


「動画内で商品名出さないでください。オブラートくらい分かりますよ」


「大丈夫! 編集でピーッ音つけておくから!

それよりおじさんをからかうの止めて!?」


「そっちこそ、あんまり若者を舐めないでください。おじさんって言っても、まだ三十前じゃないですか」


「……十代の時の一年と、二十代に入ってからの一年は次元が違うんだよ」


「また脱線してますけど」


「そういう罠なの!? ねぇ!!」


「このお宅の住人の死因は首吊りでした。家を出て数歩、足を運べば一瞬で目的を達成できるのに、どうして首を吊るなんて苦しい道を選んだのでしょうか」


「だからぁ! 無視しないでって! えーっと……お気づきの方もいるかもしれませんが、事故物件の依頼って大体マンションやアパートの一室なんです」


「前回動画でもちょっとお話しましたが、集合住宅の一室が事故物件になるのが一番厄介なんです。その一部屋のためにすべてを取り壊すわけにはいかないし、でも空き部屋のままだと負債になるし、リフォームしても噂が回って人が入らないので」


「その点、一軒家ならいっそ潰しちゃえば事故物件っぽくはなくなるよね〜。その場合、幽霊や怪奇現象って引き継がれるの?」


「想いの強さや幽霊の種類によります。土地に強く憑いている場合は引き継ぐこともあるでしょうが……まあ稀な例でしょうね」


「……霊だけに?」


「………」


「これだからおじさんは……みたいな視線やめて!? 僕が悪かったから!」


「分かれば良いのです。……どうせ潰して新しく建てればいいや、ってことで一軒家は事故物件になっても周囲に知られないままソッと消えることが多いのですが……」


「今回の物件は、何故か潰されないまま残ってるんだね」


「一軒家に住めるほど経済力のある人間って、あんまり自殺しないんですけど」


「三号くん、それは偏見だよ。お金だけじゃないって、人生は……」


「無視しますね。一軒家の事故物件が残っている理由のひとつとして、住人の死亡後に所有者が不明瞭になってしまったケースが考えられます」


「無視された……いや、無視はされていないのか? やっぱり、亡くなってしまう人って周囲との関係が薄くなることも原因なのかな」


「さて、どうでしょう。以前浅葱さんも言ってましたけど、孫に囲まれて大往生したおじいさんでも自縛霊になったりするので、なにが辛いかなんてその人にしか分からないんじゃないですか」


「ハイ! 僕の本名が出てきたのでそろそろオープニング終わりましょうか!」


「オープニングだったんですか? これ。長すぎでしょ」


「行ってきてもらいましょう! ゴー! 三号くん!!」


「いってきます」




***




「はい……いただきます。現在時刻は夕暮れ前の17時です。さっきは二号さんの進行のせいでロクにこの物件の紹介が出来なかったので、今から説明しますね」


『ごめんなさい!!!』


「とても狭い家です。家と言うよりも、小屋と言った方がいいでしょうか。玄関を開けてすぐにリビングがあって、突き当たりにお風呂と洗面所。トイレは……セパレートタイプですね。独立して、え〜っと……ん?」


『どうしたの』


「トイレがない」


『えっ!? 家としてそれはヤバくない!?』


「参りましたね……。この辺りには近くにコンビニもないですし……」


『電話してくれたら迎えに行ったのに〜』


「……あ、ありました。入ってすぐに扉があったみたいです。ここだけ不自然に塗り固められていて、気づきませんでした。そういうデザインかと思ってました」


『前衛的だね』


「開けてみますか。んん〜……よい、っしょっ!!」





バダンッ!!!!





『なになに!? なんの音!?』


「ただの家鳴りです。安っぽい作りなのに、

こんな潮風吹き荒れる場所に建ってるから」


『冷静だね、三号くんは相変わらず……』


「ここで報告されている怪奇現象としては、先ほどのような異常な家鳴りや金縛り、それに何者かに手足を引っ張られる……など事故物件としては定番ばかりです」


『定番なんだ……それ』


「でも三号としては、この物件の原因は立地条件にあると思うんですね。こんな、霊の集まる自殺の名所に興味本位で家を建てて住んで、淀みが溜まるのも無理はないって言うか……」


『僕なら絶対、住みたくない』


「ここの家主の方の気配も、あまり感じませんね。まだ外が明るいせいもあるかもしれませんけど……」


『窓の外、綺麗な夕日!!』


「……大きな海に大きな太陽が沈んでいく様子を間近で見ることが出来るのは、この部屋唯一の取り柄ですね」


『三号くんにもそんな心があったんだね……』


「ここの家主の方も、この景色が好きだったみたいです」


『え?』


「首を吊った場所は、塗り固められていたトイレのドアノブのようですね。首はドアノブに残ったまま、身体だけ八割ぐらい溶けながら窓まで這いずってきています」


『どういう状況!? ねえ、どういう状況!?!?』


「家主はもう話し合いができるような状態ではなさそうなので、とりあえず一晩過ごして様子を見ますね。自殺の名所だけあって、行き場のない浮遊霊たちがウロウロしています。彼らすべての相手をするのは大変そうですが……」


『どうする!?』


「まあ、なんとかなるでしょう。晩ご飯食べて、勉強して、寝ることにします。ちょっと早いけど、おやすみなさい」


『揺るぎないね、キミは……』


「ごちそうさまでした」





『でもねぇ、こんなに頼りがいのある三号くんだけど……今回は夜に大変なことになるって僕は知ってるんだなぁ〜!! さて、どうなるのか……次回をお楽しみに!!


ばいば〜い』







<コメント:新着順5件表示>


アカウント名:りリィ

メッチャ地元の崖が紹介されててビビったw

そこ、肝試しに行ったな〜

夜中に行くとマジで怖いんだよね……。


動けなくなったり、吐きそうになったりしたw



アカウント名:雅之

塗り固められたドアがマジすぎて怖い……!!

あと動画内のBGMも時々変なところでブツ切れしてて怖いよ!!!

ワザとかも知れないけど……二号さんにたぶんそんな編集技術ないもんな……。


次回も楽しみにしてます!!



アカウント名:第五の魂

三号くん、三角巾とれてる!

おめでとう!!

今回の物件もがんばって〜^^



アカウント名:千波チヒロ

私もそんな家には住みたくない!!!

建てる方も建てる方だし、借りる方も借りる方だ。



アカウント名:never bond

二号さん、痩せていくのは止まったけどこんどは目の下のクマがひどくなっていませんか?


マスク越しだからよくわからないけど……。

もしかして、マスク変えた??

そうだと言ってほしいです……。

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