第9話 タクシードライヴァー
翌日、グループへはタクシーで向かった。
スーツを着て、手ブラだった。
母の言ったように黒崎義夫代表と会えばいい。
しかしルーディーなどに会ってくれるだろうか。忙しい身である。
スケジュールはいっぱいだろう。アポイントメントもなしだ。
突然、訪れても門前払いが普通の対応だろう。
だが予見した未来では確かに会ったと感じた瞬間があった。
会えるだろうか。
用賀への道は混雑した。裏道へ抜けるタクシー。
運転手さんは気のいい老人で、不安そうなルーディーを気づかってくれた。
「どちらへ?用賀の」
「ええ、会社へ」
住所しか伝えてなかった。
「まだ随分若いが、しっかりしてますね。ダークスーツがよく似合う。将来が楽しみだ。私の勘ですけどね。あなたはきっと素晴らしいことを成し遂げますよ。私にはわかる」
用賀が近ずいてきた。
「まだ若い。悩みも苦しみもあるでしょう。でもね。みんな同じ。みんな苦痛を伴う。一生続く。それが人生です」
タクシーが到着した。降りて礼を言うと、運転手さんは驚いた様子だった。
「ああ。黒崎グループの方でしたか。もう数十年前になるけど、ルーディーという若い人がここで働いていて、何度も送った覚えがあります。私もあの時はまだ若かった。ずっと昔の話ですよ。あなたによく似ていました」
感極まった。
ここで働いていた、その人物はルーディーその人なのだ。
独特の存在感をたたえて走り去るタクシー。加速する蜃気楼。
人それぞれ人生は違うが、誰にとっても人生は奇妙だ。
黒崎グループ本社ビルは高層ビルディングで、キラキラと太陽光を乱反射している。周囲のビルすべてまで届く光で芸術的なまでの威厳を呈している。
入口へとゆっくりと階段を上った。
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